エピローグ

 ひゅっと固まった風がまるでほどけるように一気に吹いて、ラムは思わず顔を顰めた。
 コートの襟をぎゅっと首元へ上げる。
 あれから数ヶ月、季節はもうすっかり冬だ。

「さて、寒くなってきたのでそろそろ終わりにしましょうか」

 いつかケイトで出会ったのと同じような、裏路地だった。
 ラムはナイフを片手に組み敷いた男ににっこりと笑いかける。

「や、やめてくれ――!頼む」

 じたばたと手足を暴れさせる男を意に介さず、ラムは手に馴染んだナイフを振り下ろそうとした。
 しかし、

『――ジーン』

 ふと。
 もう懐かしいものになってしまった少女の声がした気がした。
 そしてあの時のように、いつもは凝って動かない自分の血がほんの少し流れるような気がした。

 咄嗟のことに一瞬動きが止まる。

「離せ――!」

 その隙に男がもがきラムのナイフを奪おうとする。

「おっと」

 惚けていたのは一瞬。
 ラムは余計な思考を振り払い、男の腹へナイフを突き立てた。
 それだけで致命傷だったらしい。男はあっさりと絶命した。

「……やれやれ」

 いつも通りの達成感よりも、不測の事態に多少肝を冷やした。
 ただの物体になった男にはもう興味を失って、またいつも通りの退屈な日々が戻ってくる。

「ケイティ」

 こんな時に呼ばないでください、などと自分らしくない事を言いたくなる。

「……どこかで見てるんでしょうか」

 天国も地獄も、信じてはいないけれど。

 貴女を思い出すたびに、感じることがある。
 それは指のささくれのように、突然存在に気づいてそして僅かながらの不快感を残す。

 そんな乾いた、小さな傷のように貴女を思い出す。
 その傷が、何をもたらすのか僕にはまだわからないまま。

「ケイト――貴女は此処にいた」

 確かに、此処にいたのだ。


20241229
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