猫は昼寝を嫌う
綺麗な石の欠片には、世界が詰まっている。その綺麗な石のひとつひとつには世界があって、誰もがそれを拾って眺める。ただ、その石のなかに入ってしまえば、石の美しさなど見えはしない。
世界はそう、ビー玉みたいなものだ。
太陽の光を透かせば、きらりと光る。
「シン、お昼寝しよう」
アキの言葉に少年はくるりと振り返る。まだ若いこの叔母は突拍子もないことばかり言って自分を驚かせる。今も、そう。
日曜の午後。さあさあと囁く雨の音は気だるくて、甘くて、淀んだ空間を生み出している。
「アキ、僕もう中学生なんだよ。一緒にお昼寝なんてしないよ」
困ったように笑うと、眠そうにソファにごろごろと寝そべるアキに告げる。
「寝てていいよ。僕は寝ない」
「あんたは昔から昼寝がキライよねえ……」
ゆるいウェーブのかかった茶髪を揺らして、アキは緩く笑う。少年は瞳を細めて優しく答えた。
「好きじゃないだけだよ」
アキはじっとシンを――愛称として『シン』と呼んでいる甥を眺めた。一緒に暮らすようになって久しいが、彼の性格はなかなか掴みどころがないものだと思う。否。特徴はたくさんある。それが世間一般というものから僅かに外れているだけで。
「まだ、」
生きているのがつらい?
質問に『シン』の唇が弧を描く。ああ、綺麗な笑顔だ。こういう時の彼は、何を考えているのか分からない。
少年は、昼寝を嫌う。――いや。睡眠だけじゃない。
あたたかい朝食、雨上がりの雲間から陽射しが溶ける帰り道、太陽の甘い香りがする白いシャツ。どこか哀しいくらいにそれらを愛し、しかし苦手なのだと、自分には不釣り合いなのだと寂しそうに笑った。
でもキライ、じゃないのね。とアキは思う。ただ子供が皆、甘いキャンディーを好きだとは限らない。それだけの話。
「ぬくもりがにがて?」
雨の日、窓の外。止まない雨と病まない少年は哂う。
眠たくなって、ゆるゆると狭くなっていく視界の端でシンが僅かに頷くのが見えた。
だって生きていることを
(知ってしまうから。)
091005
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