ごちゃ倉庫
◎痴漢は痴漢される。
2016-3-16 12:29
痴漢は痴漢される。
―がたん、ごとん。
今日も電車はいく。毎日、毎日、線路を走る。
込み入った車内。
通勤時間のラッシュ。
満員電車。
汗や香水の臭いが混じり、密着するソコ。
もうこれ以上余分なスペースなどない、満員の電車内。
人々はすし詰めにも似たいつもの車内に眉を寄せる。
動きづらく、人との身体が密着するソコは、出来れば避けたい状況だろう。
一部を除いては。
(ふふふーん…)
男、坂下智哉[さかしたともや]は今日も顔には表れないものの、上機嫌にいつも会社の通勤の為に乗る、満員電車を待っていた。
いや、心待ちにしていた。
ピシリとシワ一つないプレスされたスーツをみにまといながら。
銀のフレームの眼鏡をいつもかけていて、端正で整いすぎている無表情な顔は、少し冷たい印象が受ける。
潔癖症や神経質そうな顔…とよく揶揄される。
真面目そうなお坊ちゃん、と学生時代はよく言われたし、からかわれもした。
真面目で、悪い事などしそうにないお坊ちゃんだと。
智哉自体自分の顔をよく理解していたし、他人からどう見られるかよく知っていた。
仕事が好きで、淡泊そうで神経質で真面目そう。
そんな近寄り難い容姿と空気を纏っている。
本性はまるで逆なのだが。
だが、この真面目そうな悪い事などしそうにない容姿は、智哉のあしき[趣味]には大変役立っていた。
犯罪ともいえる、あしき趣味に。
[間もなく1番線に…]
電車を告げるアナウンスが鳴り、電車が駅に着く。
智哉は待ち受けるいつもの狩場に身震いし、そっと眼鏡のブリッジを押し上げると、電車に乗り込んだ。
今日もいつものように込み入った車内。
智哉は瞬時にサッと周りを一瞥する。
当たりがいればその日はラッキー。
ハズレなら、今日はアンラッキー。
その日一日、ターゲットを見つけられるか、見つけられないかで智哉の一日の運勢は決まる。
(…ん?いるじゃないか…)
ニタリ、と智哉はターゲットを見つけ口端をあげて笑う。
今日はいいターゲットがいたらしい。
ターゲットは丁度、窓際の人の四角となる場所にいた。
肩までのセミロングの髪に、参考書を読んでいる少し気弱そうな女子高生。
こういう女の子は気が弱く、智哉が[犯行]を行ってもまず間違いなく何も言わない。
と言っても、智哉の顔を見たら大半何も言えなくなるのだが。
その真面目そうな端正な顔を見たら、皆が皆、別の誰かが触っている、もしくはこの人になら触られてもいいと思ってくれるらしい。
智哉は何食わぬ顔をしながら、人混みの中、彼女へと近付いていく。
けして焦る事はしない。
一駅一駅、じっくりと間合いをつめていくのだ。
それが、智哉の悪い趣味のコツだ。
智哉は焦らずゆっくりと少女に近付いていった。
プシュー。
電車のドアがしまる。
智哉が乗り込んで既に三駅通り過ぎた。
智哉は今狙っていた少女の背後をキープしていた。
狙い通り、彼女の背後、もっとも身体の触れる位置に。
(悪いな、お嬢ちゃん)
智哉はそろそろといつものように少女の下半身に手を伸ばす。
智哉の悪行はコレだ。
彼はいわゆる痴漢だった。
それも今現在25歳なのだが、高校の時から行っている筋金入りのプロ?だ。
今まで警察に捕まった事はおろか、身体を触った女からは一度しか何かを言われた事はないし、その一度の失敗も持ち前の顔と口で乗り切った。
異様に顔はいいのだ。この男は。
真面目そうで、性欲なんかありませんと言った涼しげな顔で。
中身はドがつくほどのドエロだった。
こんな涼しげな顔して、中身は軽く18禁のオンパレードという詐欺だ。
この顔だし口はいいので、今まで女を切らした事もなかったが、それと痴漢をする事はまた別らしい。
智哉は痴漢というばれるかばれないかのスリルを楽しんでいる風でもあった。
(彼女はホイホイ抱かれるしな…。俺の手を嫌がって赤面する女の方がよっほどいい…
ん…?)
少女の尻を触る直前。
ふと、智哉は自分の尻に当たる違和感を感じた。
ねっとりとした、感じの。
(…まさか…な。)
智哉は浮かんできた考えを必死に否定し、気を取り直すように彼女へ手を伸ばす。
が……。
ぐにゅ。
またしても、それは彼女に触る前に辞めてしまう。
自分の背後、尻を揉む手によって。
ぐにゅ、もにゅ、むにゅ。
背後の手は、智哉が何も言わない事をいいことに無遠慮に触る。
いや、触るというよりかは力いっぱい揉んでいるようだった。
掴んでいる、と言ってもいい。
(っ…尻っ尻がっ…)
今まで軽く撫でられた事ならまだしも、こうやってあからさまに尻を揉まれた事はなかった智哉は軽くパニックを起こした。
いつも痴漢をやっている自分がまさか痴漢されようとは。
背後の手は、勝手しったるや無遠慮に智哉の尻を撫で回していく。
時に、尻の窪みのラインを重点的に。
時に、ズボンごしに尻の割れ目の部分に指を押し込みながら。
(な、な、な…)
ズボンごし。
あくまでズボンごし、だ。
なのに、智哉は無性に危険を感じた。
後ろにいる人物に自分は《痴漢》以上の事をされるんじゃないか…と……。
咄嗟に吊り革を持っていない手で、自分の尻を隠すが、邪魔…とばかりに隠していた智哉の手は、後ろにある手に捕われてしまった。
痴漢である智哉に痴漢する痴漢。
その手はずいぶんと大きく、また温かい手だった。
痴女…ではないはず、だ。
手が骨ばっていて、大きすぎる。
それに女ならばいくら智哉でも拘束くらい跳ね退けるはずだ。
あいた方の手で、智哉に痴漢している男は思う存分尻を弄り回す。
ねちっこい、手つきで。
そんな必要に撫で回されると、身体のしんがゾクリと震える。
欲が、灯る。
なんとか辞めさせようと大声を出してみようとするが、喉奥が、強張り声が出ない。
「(…声が…、)
あの…手…」
小さい声で、勇気を出して抗議しようとする智哉。
だが…
「ちいせえケツだなぁ…、おっさん……」
その声はいとも簡単に掻き消された。
ガシ、と尻を片手で捕まれるという、オマケつきで。
「なっ…に…」
「すんげぇ、いいケツしてんのな…」
背後から、耳元でボソリ、と呟く低い、声。
その声はどう考えても女のものじゃない。
男、だ。
どこをどう聞いても、男のものだ。
「痴漢なんて最低だからちっと脅かすつもりだったんだけど…」
「んっ…」
「なんだ…、その、おっさんの尻、ヤバい……
俺、尻マニアなんかじゃ、ねーのに」
「やっ…」
「おっさんの、せいだよ…」
(おっさんおっさんって!俺はまだ若いのに…なんつぅ失礼な…)
ついにまともな思考すら危うくなった智哉。
いや、この場合考えるのを放棄したと言ってもいい。
だって、智哉の身体は
痴漢に触れられて、
まさかの事態に陥って、いるのだから……。
「ん?おっさん、もしかして…」
「やめ…」
「ここ、反応してんじゃねーの?」
「〜っ」
すり、っと、男はいいながら智也のズボンの前を撫でる。
ビクビク、と智也の体に快感が走る。
反応している…。
それも、もう、ダラダラとはしたなく零している。
白い、ミルクを…。
ガタンゴトン…
電車は、いく。
智哉はまだ知らない。
自分に痴漢してきた男が実は高校生で
のちに、いやというほど自分に執着する事など
パニックに陥っている智哉は
まだ
しるよしも、なかった。
まさか、尻マニアとなった高校生と
恋に落ちて
恋人同士になるなんて
そんな未来
しるよしも、
なかった……ー。
知りたくも
なかった……ー

