ごちゃ倉庫

09/05

◎恋する魔法使い


2016-3-16 15:02

恋する魔法使い



好きな人と抱き合うときって、どうなんだろう。
やっぱりどきどき、するのかな。胸が破裂するほど高鳴ったりとか、するのかな。
恋愛ドラマみたいに、その人で頭がいっぱいになって右往左往するのかな。
俺も、恋愛病みたいに…なるのかな。
恋焦がれたり、浮き沈み激しくなったりするんだろうか。
その人で、頭の中、いっぱいになったりするんだろうか。


昔から憧れていた。誰か好きな人と一緒になることを。
いつかは、誰か好きなやつと付き合いたい、ドラマみたいな熱病みたいな、恋愛がしてみたい。
でも、次第に、俺の目的は少しずつ変わっていった。


最初は、好きな人間と付き合いたいという望みだったのに。
いつのまにか、いつかは、童貞を捨てたいなっていう願いになっていた。

俺の願いはお付き合い、ではなく、身体の…童貞喪失へと変わっていったのだ。
いつの間にか、好きな人と付き合うなんて純粋で大切なことを忘れていた。

ただ、抱き合いたい、いつまでも童貞は男として恥ずかしいって。
いつまでも童貞は嫌だって。
そんなよこしまな願いを抱いているからか…俺は少し前まで清らかな童貞であった。

他人と肌を合わせたことがなかった。
数時間前までは。


「あ…」

固まる。固まる。すっげぇ、固まる。
固まり過ぎて、嫌な汗もダラダラと湧き出てくる。
今俺の顔を鏡でみたら、冷や汗だらだらのすっげぇ嫌な顔しているだろう。
わかる。これは鏡を見なくたってわかる。
ああ、俺は今初めて時が止まる瞬間というものを体験しているのかもしれない。


「おはよ、先輩」

にっこり笑う、俺の隣に寝そべっている二宮。会社の後輩だ。
二宮のその笑顔はキラキラ〜と輝いているようだ。周りに心なしかマンガのような、キラキラが見える。
とても、機嫌良さそうな笑みだ。
いや、二宮のことはどうでもいい。
いや、どうでもよくないか?この場合。
今、二宮は何故か裸。そして、俺と同じ布団にいる。
そして…俺も何故か裸。
何もその身にまとっていない。
あ、あれー?あっれれー。

しかも、二宮、なんでそんな甘い声出しているんだよ。まるで、女の子に語りかけるような甘い声で。
俺お前に何をした?
っというかこの状況は何なんだ。
えええ?


「まさか、忘れたんですか?」
「え…」
「じゃぁ、もう一回、思い出させてあげましょうか?」

ぬっと、顔を近づけてくる二宮。
え…ええっと、ちょっと待て。なんでこんな顔を近づけて…。

激しくちょっと待て。
そうだ、ちょっと昨日のことを思い出してみよう。

*

男っていうもんは、案外デリケートな生き物である。
そう、女が思っているよりもずっと繊細で悩ましい生き物なのだ。
案外、女よりも男の方がロマンチストだったり夢見がちだったりする。

強くたくましい。
誰がそういった?
男は、とても繊細で、女よりもガラスのheartの持ち主がたくさんいる。
そう、俺たちはガラスの乙女心を持っている。
簡単に割れてしまうガラスのような心が。
最近じゃ、草食男子って言葉もあるし、女の方がよっぽど強いな、と思う。


例え、小学生のとき、パンツめくりに精をだし、黒板にう○こを描き殴り、更には女子の前でエロ本の話をしていても。
例え、好きな子を毎回夢に出していけないことをしていても。
男というものは、大変見栄と自尊心で生きているのだ。


例えば、小さいね、だとか早いね、だとかつまらないわ、だとかそんな言葉は言語道断だ。
女性諸君は、けして、彼氏とそういう事を行っても、そんな言葉をはかないでいただきたい。

そうじゃないと…俺みたいな不幸な人間が増えてしまうから。

嗚呼、俺は…俺は…。
俺はもう魔法使いになれたかもしれない。



「いまどき、23歳過ぎて童貞なんて都市伝説よねー、ましてや、25歳過ぎたらもう聖者っていうか、魔法使いになれると思うのー」

俺にしてはちょー高い声で、しなを作りながら、語尾を伸ばす。
バカっぽい、ちょっと普通の人が聞いたら眉をよせてしまうような言い方で。

がやがやとした、金曜日の居酒屋。周りには大学生軍団が陣取りすっげぇうるさい。
大学生ってのは、飲み屋ではアウトだ。
しかも、それが男女混じってたら、破壊力を増す。やつらは遠慮というものを知らない。

っと、そんなうるさい大学生連中の近くで、俺は1つ年下の会社の後輩二宮と酒を傾けていた。
既に、空になったビール瓶が5本。
ちょっと頭がくらくらするし、気持ちがハイになってくる。ふわふわ〜して、気持ちがいい。今なら空も飛べそうな気がする。なんちゃんて。


飲み始めた当初は、ちゃんと座敷の席で二宮の向かい側の席に座っていた俺だが、酔いが回り始めると席をたち、二宮の隣についていた。

こうした方がよく話せる気がしたから。
まぁ、最初はそれでも大人しく隣で酒を傾けていたんだけど。
酒が入るにつれて…、泣いたり笑ったり。
二宮は律儀に俺に相槌うったり返事を返したりしている。
ほんと、律儀なやつだ。
二宮って、顔も精悍でなんか甘いマスクしているから女にモテるのに、それを鼻にかけないし。しかも、現在フリーってのがまた、いい。
フリー仲間。俺と一緒の彼女なし仲間。


「なんだよ、あのびっち。DQNだな。うん。知ってるか、これ言っていたの、あのみんなのアイドル花園ちゃんなんだぜ?あの花園ちゃんが、25過ぎて童貞なんか信じらんなーい、きもいーって給湯室で笑っていたんだぜ」

俺はつい3日前に見た会社のアイドル、花園ちゃんの裏の顔を二宮に話す。
なんせ、…なんせ俺は童・貞。
25歳にもなって、未だに童・貞。はい、童・貞。
しかも現在も彼女がいない勇者である。

花園ちゃんの話を聞いて、俺の小さなチキンハートは、まるで矢にでも打たれたようにぐさぐさだった。

たかが童貞なだけじゃーん。
いや、これは男の沽券にかなり関わる。
女の処女は普通にありだが(むしろアイドルとかは、凄いそういうところ気にしそうだ)
男の童貞ははっきり言って残していても全く、貴重価値もない。

俺、童貞なの…、だから…優しくしてね?
で、許されるのは高校生までだ。
大学過ぎたら、そんなの許されない…だろう?。

といっても、そんなに童貞が嫌ならソープか風俗店にいって早く捨てて来いって話なのだが…それも出来ないわけが、ある。


「先輩、飲みすぎですって」
「うっせー、おがわりー」
「うわっ、酒口元ついてますよ」
「あん?」

そういって、ぐっと指の腹で二宮は俺の唇をふく。
されるがままだった俺に対し、二宮はクスリと笑む。
なんだ、その流し目は…!イケメンは何してもかっこいいな。

「あ、ありがと…」
「先輩…、」
「ん…?」
「じゃぁ、きっと、俺も魔法使いです」
「魔法使い?」
「俺も、童貞、ってことです…」

二宮は、そういって、酒の入ったグラスを傾け、俺に視線を投げかける。

「童貞…?お前が…」
「まぁ…」

びっくりした。こんなにイケメンなのに。
俺みたいなやつが童貞なのは…まぁ、仕方ないだろう。こう見えて、普通な面しているし。
それに、俺、少し女性恐怖症みたいな症状もある。

普通にする分にはいいんだけど、女の裸をみると緊張して吐いちゃうんだよな…。
なので、風俗にもいけなかったりするんだけど。


「じゃぁ、俺たち魔法使いだな。30過ぎたら童貞って、魔法使いっていうらしいぜ。もうすぐじゃん、俺ら…」
「そうですね…、ねぇ、先輩。」

二宮は、酔って少しぐったりしていた俺の耳元にそっと
「魔法使いって、恋もするんですよ」

と、耳打ちした。


「恋…、」
「俺が、先輩を彼女にしてあげます。一生俺の可愛い魔法使いのままですが…。幸せな恋を、一緒にしましょう」



「あー」

思い出した。
えっと、酔っている時、二宮が俺を彼女にするっていって、それから飲み屋を出て俺は二宮に誘われるままベッドで…


「二宮ちょう上手い、二宮愛してる。二宮最高」
「っ!」
「散々、先輩俺を煽ってくれましたよね?」
「い、いやぁ。あはは…は…」

真っ白になる。なに、言ってんだよ、数時間前の俺。
しかも、しっかり記憶が残っているのが悲しい。


「俺、ずっと先輩が好きでした。こうやって煽ったからには、責任、とって下さいね?」
「せ、責任…っ」

いや、この場合俺の方が責任とってっていうほうじゃねぇの?
だって、ケツいたいもん。俺がやられたほうだよね、ね?
なのに、責任って…。


「好きです、先輩」

まぁ、でも…二宮が嬉しそうだから…。ま、いっか。
うわ、俺もお手軽だなぁ。
花園ちゃんのことびっちなんて言えないじゃん。


「ついでに俺、バージンとの相手が童貞ってだけで、今まで散々抱かれたいって女とやってきましたからテクの方は安心してくださ」
「死ね」

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