ごちゃ倉庫

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◎おやすみマスター

2016-3-16 14:55

おやすみマスター



おやすみ、マスター。

20××年。
世界は、まさに科学の時代を迎えた。

科学は目まぐるしい発展を見せ、人々の生活は『ロボット』と共存する世界へと変わった。
夢であった空想も、人々の科学の進化で不可能を可能にしてくる。

なにをするでもロボットがすべて人間の変わりにやってくれる。
医療、交通、そして政治までもロボットは介入してきた。
時代はまさに、『ロボット時代』へと変わっていった。
ロボット時代。ロボットと共存した世界。
どこにいるにしてもロボット、人と同じ数ロボットが蔓延る。

一家に一台車、よりも一家に一台ロボットの時代だ。
ロボットは人間の生活を豊かにし、時により人間を堕落させていった。

ロボットはすべて人間の変わりにやってくれる。
だから人間が必要以上に動かなくてもよい。
全て、人間の代わりにロボットがやってくれる。
ロボットは体力にそこがなく、無限の力で働いてくれる。

便利に身を委ね、人間は、頑張る事を忘れたかもしれない。
人間はささいな事すらロボットに任せ、そして新たなロボットを産む。

科学の力は発展したにしろ、人々はロボットの力に頼り過ぎた為、ロボットなしでは生きられないものとなった。


一家に一台ロボット。
一人に一台のロボット

僕もロボットに憧れを抱いていた。
自分自身のロボットが欲しい、だなんて、父親にも強請ったことがある。
特に自身を世話してくれるメイドロボットや執事ロボット、はたまたペットロボットなんかもいい。

僕の両親は幼い頃から忙しく、家にはほとんどいなかった為、僕も僕専用のロボットがほしかったのだ。


家には数台メイドロボットとコックロボットがいるが、マスターは父と母だった。
メイドロボットもコックロボットも僕には優しくしてくれるが、僕はかれらのマスターじゃない。

ロボットは人間のいうことならばなんでも聞くが、マスターの命令は絶対だった。
一度ロボットのマスターになれば、死ぬまでロボットは生涯をともにし、マスターを愛してくれるのだ。
マスターを愛し、マスターに尽くす、唯一のロボット。

 今は、野良ロボットも何台かいるらしい。

主人が先立たれ残されたロボットや、主人に捨てられたロボットだ。
主人に先立たれたロボットは、まだいい。
ロボットにとって、マスターの傍にいて忠誠を誓いその生涯を見届けるのが役目なのだから。

しかし捨てられたロボットの行く末は、可哀相なものだった。
次のマスターが見つからない限りは廃棄所行きなのだから。
ロボットの使命も果たせぬまま、壊れていないのに壊される。
それは、実に可哀想なことだけど…人間はロボットには感情はないから、と不必要なロボットは簡単にスクラップ行きにしてしまう。
ロボットの幸せは主人の幸せ。
ロボットの不幸は主人の不幸。


健気なロボットのその生き方は、人間をさらに傲慢にそして強欲にしていったのだろう。

通常、ロボットには感情などないはずなのに、泣いたロボットを見た、という人が後を絶たない。
今は様々なロボットが出ているが、原因不明のまま壊れるロボットも多数いた。

ロボットなしでは人間は生きられない。

人間がなくてはロボットは生きられない。

二つの因果関係。


 僕はロボットが好きだったし、ロボットを弄るのも好きだった。
将来はロボット関連の研究者にもなりたかった。
だからこそ、僕専用のロボットが欲しかった。
もっともっと、ロボットに携わりたかったのだ。


 僕が欲しがっていたロボットは、ある日突然やってくる。

その日は、珍しく父が家にいる日だった。僕が中学生くらいの時だろうか。
僕の父は、軍隊に所属しており、いつも戦地を飛び回っている。家にいるのは数回ほどだ。
父の階級はわりと、上の方らしく、休みなんかはほとんどなく、家族サービスなんかもない。
はたして僕と父は親子なんだろうか?と思う事もしばしばだ。

父は強靭な男で、頭よりも先に体が動く様な、いかにも動くのが好きな男だが、僕はそんな父に対し考えるのが好きな人間で動くよりも本を読んでいるのが好きな人間だった。


父は僕を居間へ呼び、突然プレゼントだ、と居間に置かれたアンドロイドを指差した。
アンドロイドは、壁にもたれかかり、静かに目を閉じている。
綺麗な黒髪の…アンドロイド。
長い腰までの黒髪は、カラスガイより黒く、光沢がある。


「僕に…?」
「あぁ、お前に。男のアンドロイドだ」

男…。
実際、僕も男である。
やっぱり世話をしてくれるなら女のアンドロイドが良かったな…と一瞬考えたが、夢だった僕専用のロボットが手に入ったのだ。そう我が儘も言えない。
アンドロイドは女も男も凄く高いのだ。
これが、セクサスアンドロイドなんかだと、その性質によっては眼を覆うような金額にもなる。

性的なことに興味がないわけではないが、さすがに父に言うまでしてセクサスロイドは欲しくなかった。
「凄い…綺麗なアンドロイドだね…」
「まぁ、中古だがな…、しかし性能はいいらしいぞ、この容姿だしな。
この型は世界に一つしかないらしい」
「世界に一つ!?」

世界に一つの型のロボットって…中古とはいえ相当高いんじゃ…

まじまじとロボットを見つめる。

ロボットは起動していないので、眼を閉じていたが、綺麗な顔をした人型のアンドロイドだった。


長い長い艶やかな腰ほどある黒髪に、高い鼻、薄い唇。
ほどよく筋肉がついた、僕より大きな身体。
瞳は閉じられているものの、どこか艶やかな色気のあるアンドロイドだ。

男のアンドロイドとはわかっていても、妙にドキドキしてしまう。フェロモンでも出ている?まさか…。

しかし、女の子には堪らない美形アンドロイドだ。
目を瞑っているのに…、ドキドキする。とても綺麗なのだ。
女らしい、とかではない。ただ…、その、芸術的な美しさ、といったらいいのだろうか。
そんな美しさだった。
世界に一つということは…このアンドロイドはオーダーメイドのものなのだろうか。

「父さんありがとう」
「起動方は知っているな」
「うん、」

アンドロイドの起動方法は、マスターとのキスである。

マスターがキスをすると、眠っているマスターのいないアンドロイドはキスした相手をマスターだと認知する。

キスで相手を起こすだなんて、まるで、昔話にある『眠れる森の美女』みたいな起動方法だろう。最初にアンドロイドを作った人は何を思ってそんな作動法にしたんだろう。


 僕はドキドキする胸をそのままに、アンドロイドに近寄ると、そっとキスをした。
冷たい、唇。でも、ロボットのはずなのに、その唇はふっくらとしていた。
無機質なはずなのに…熱い。それは、僕の胸が妙に高鳴っているからか…。

男のアンドロイドにキスをするのに、不思議と嫌悪感はなかった。

それどころか、こんな綺麗なアンドロイドとキス出来て、異常なほど胸が高鳴った。

彼はアンドロイドなのに…。
一目ぼれ、だろうか。アンドロイドに…?


ジー、と音がし、それが終わるとゆっくりとロイドは眼を開く。
切れ長の鋭い瞳。
少し冷たいその瞳は黒い黒い色をしていた。
こんな精気のない瞳は初めてだ。彼がアンドロイドだからだろうか。

「XYZ-21型、コード起動します、マスターは…」


無表情のまま、ポツリと呟くアンドロイド。
淡々とした口調は、機械らしい感情の篭っていない声だった。
ほんとうにロボットなんだな…と、思うような。

父は僕の背を押しアンドロイドの前にやる。


「ジン、俺の息子がお前の新しい主人だ。名前をシングという」
「あっ…」

アンドロイドの名前はどうやら、じんというらしい。
ゆらり、と父の言葉にジンは瞳で僕を捕らえる。

そして、ゆっくりと僕に頭を下げると、

「御用があればお呼び下さい、マスター」

そういって部屋からでていった。

妙に迫力のあるやつだ。アンドロイドのくせに。

少し不満なのが顔に出ていたのだろうか。


「お前、昔からアンドロイド欲しがっていただろう」

父はあまり喜んでない僕に、むっ、と眉をよせる。

「欲しかったけど…でも…、あのアンドロイドはなんか…怖い…」



僕のしるアンドロイドやロボットはけして人間のように『感情』を持ち合わせてはいなかったが、あそこまでからっぽな瞳をするロボットもいなかった。
あんな無表情な、からっぽなロボットは初めてだ。
少し怖い、と思うのは…何故だろう。
本当にあのアンドロイドは感情を持ちえない機械≠セったのだ。

「当たり前だろう…ジンは殺人ロボットなんだから」
「え…」
「いってなかったか?ジンは殺人ロボットなんだよ」
「殺人ロボットって…」

「言葉通りの意味だが…?あいつは人を殺す為だけに作られたロボットだ」
「殺す…?人を…?なんでそんなロボット!」
「なんで、って…。引き取り手がいなかったからなぁ…。今まであいつ散々人を殺してきたらしいしな…。下手に人に預けると危ないんだよ、殺人ロボットは…」

なんだよ…それ。
殺人ロボット?今まで散々人を殺してきた…?
そんなロボットを、僕に…?

平然と言う父が怖い。なんだって、そんな物騒なロボット。
もし、誤作動でも起こしたら…。
父はなんだって、そんなロボットを僕に…。


「なんでそんなロボット僕に…怖いよ。殺されたらどうするんだよ」
「マスターは殺さないだろうよ」
「で、でも…僕はそんなロボットいらなかった!もっと忠実な…忠実な僕だけのロボットが欲しかったんだ」
「我儘な…、貰えるだけいいだろう?丁度処分に困っていたんだ。お前の好きにするといい」
「好きに?あんなロボットどうするのさ!」

怒鳴って、衝動のまま、自分の部屋へと走る。
可愛いロボットが欲しかったのに。殺人ロボットだって?
そんなロボット…もし誤作動を起こしてこちらに襲い掛かったら?

今まで散々人を殺してきただって?なんで、そんなロボットを…。
折角楽しみにしていたロボットなのに…。

僕は父へ対するイライラを抱えたまま、布団を抱き枕にして眠る。

明日になったら、折角用意してくれた父には悪いけどジンのマスターを外してもらおう、そう思って。

2016-3-16 14:56

おやすみマスター2



 次の日、父はまた緊急の呼び出しがあり、軍へ戻っていった。
ジンも連れて行ってほしかったのだが、あいにく、ジンは家におり、僕が部屋から出ると、おはようございます、と頭を下げてきた。

あいかわらずの、氷のように冷たい顔した、無表情で。

「…、」
当然、この得体のしれないロボットを快く思わない僕は無視する。
とりあえず、我関せずを貫けばいい。
常に用心していれば、殺されることはないだろう。

そんな僕にジンは何も言わず、ただじっと僕を見つめているだけだった。
その無表情で何考えてるかわからない瞳が、凄く怖くて…虚勢張りつつ恐ろしくて仕方がなかった。
ジンはただでさえ無表情に加え、言葉もほとんどしゃべらなかったから。


「―シングさま、お茶が入りました」
「…、」

ぺこり、と、頭を下げながら、ジンはカートをひきカップを持ってくる。
ティータイムらしい。
ジンは律儀にも、3時になったら、いつもお茶を用意していた。
僕はそれを飲まないのに。

殺人ロボットだ、いつ僕を殺してくるかわからない。
毒薬でも入れられたら、どうしようもない。

当然、用意されたやつなんて飲めるわけがない。
出されたお茶を手に付けずに、無視すれば、ジンは夕方になるまでそのまま僕がお茶を飲まないかじっと見ていた。

何もいわずに。

ジンは不思議なやつだった。
殺人ロボットの癖に、律儀に僕の世話をする。
無表情で感情のないロボットなのに…どうしてだろう、その背中は哀愁が漂い、いつもさみしそうだった。
そして、草木と動物が好きなのか…僕が見ていないところでは、よく水をあげたり餌をやったりしていた。
殺人ロボットなんて怖くて堪らないのに…、気が付けば僕はジンが気になって仕方がなかった。


ある日、僕は庭に出て、ぼんやりと散歩をしていた。
僕の家は小さいが庭がある。
今日もお気に入りの木の下で、読書でもしようかと思っているときだった。


ジンが、木の下にしゃがみ込み、何かしているのは。
恐る恐る近づく。
すると…

「…っ!」
ジンの手には、一羽の小鳥の死骸。
ジンは、死骸を持っている両手をじっと見つめていた。

「殺したのか…っ」

背後から声をかけると、ジンはさして驚きもせずに、こちらに振り向く。

「死んでいました」

淡々とした、その口調。

「嘘だ…」
「信じて貰えるとは思っていません。ですが、私は殺していないのです、マスター…」
「だって、死骸…」
「埋めてやろうと、思ったのです…このままでは、可哀想ですから…、」

埋めて…やる…?
殺人ロボットなのに…?

「本当にお前がやったんじゃないのか…?」

よくよく見ると、言葉通り、ジンの手は土で汚れていた。
血は、ついていない。それだけで、ジンが殺していないという証拠にはならないけれど。

でも、この小鳥は、よくジンが餌をやっている小鳥とよく似ていた。

自分が餌をやっていた小鳥を殺すだろうか。
そもそも、殺人ロボットは、自分の意思で生物を殺すのだろうか。


「…なんで何も言わない」
「言う必要が、ないからです…、」
「…なんで…、」
「私が、私という存在だからです…」
「は…?」

ジンは、ふ、と少し悲しげに笑う。

「失礼します」

そういって、ジンはまた立ち去って行った。
何も…弁解も、弁明もせずに。
ジンのあの悲しげな表情を見てから…僕の中ではジンはただの怖いだけの存在ではなくなった。気になるのだ、悲しげな顔をした、ジンの事が。

ジンは殺人ロボットだけど…
でも…ジンはもしかしたら怖くないのかもしれない。
そもそも殺人ロボットは、マスターの命令で仕方なく、人を殺していて、ロボットの意思はないのだろうか。

だとしたら、最初から人を殺す存在だと咎めていた僕は…ジンの本当の本質を見ない、愚か者だったんじゃないだろうか。


日に日にジンの事を考える頻度が多くなっていく。
ジンが僕の中でじわりじわり、と存在を変えていった。

ただジンへの『怖い』以外の感情が確実に僕の中にあったのだ。

その日、僕はお茶の用意をしているジンを呼んだ。

「ジン…」
「シングさま…、なにか…?」
「こっちに来いよ」
「?」


ジンは僕が怖がっているのを知ってか、いつも僕から距離を置く。
こんな細かな心遣いが出来るのに…本当にジンは怖い存在なのか…。


「お前の話を聞きたい」
「私の…?」
「そう、」

一度、ゆっくりジンの話を聞けば、ジンの本当の姿がわかるかもしれない。
殺人ロボットのジンではなく、僕のアンドロイドのジンがわかるかもしれない。

アンドロイドのことを知るのも…主人の役目だ


「ですが私は…」
「お前のことを、ちゃんと知りたいんだ。

僕はお前のマスターなんだから。お前は、人を殺すのが好きなのか?」

「いいえ。私は動物や植物が好きです」

きっぱりとジンは言う。
そのことに少しほっとする。

殺すのが好き!と言われたら、僕はジンとは今後付き合えないと思ったから



「…そう…か、なら、何故人を殺すんだ…?何故…殺人ロボットなんか…」

「私は、ロボットなのです、ですから、主人の命令は絶対なのです。
人を殺すことも生かすことも、全てをなくすことも…。
そこに私の意思などないのです、私はロボットですから…」

ジンは寂しくそういい、けれど…と続ける。

「たまに、寂しくなります…、わたしは…人も好きだから…。
人の苦しげな顔を見ると…私も嫌なのです…苦しいのです…
私は…、わたしは、なにもしたくないのです。
ただ、マスターを慕い、マスターの為に壊れたい。

そんな、普通のロボットなのです…」
「ジン…」

…人を殺すのは人でしかなく、人を生かすのもまた人だ。

いくら、ジンが殺人ロボットでも。

元々、そんなロボットを作ったのは人間だ。
殺せ、と命令しているのは人間なのだ。

使われているロボットには何の罪もない。
命令を聞くしか出来ないロボットは…人間の意思で動いているのだ。


ジンはただ、命令の為だけに人を殺してきたロボットなのか…


「私は今までたくさん人をあやめて来ましたが、自分の意志であやめた事はありません」


僕の顔をまっすぐ見据えるジン。

その顔には嘘偽りは見えない。

そもそも、マスターに絶対忠実なロボットだ。
嘘なんかつかないだろう

「私は…、恐ろしい、アンドロイドなのでしょうか…ごめんなさい、シング様…。貴方が嫌がるのなら、私は、これからもずっと、遠くから貴方をみています。マスター、我がマスター。」
「お前は…優しいアンドロイドだよ」
「…え…、」

寂しい顔をして、人を殺したくないという。
優しい顔をして、鳥や植物にエサや水をあげる。

そんなアンドロイドが…怖いものか。
信じていたい…僕のアンドロイドを。

人を殺したくないと言う、殺人ロボットを…



「お前の話を聞けて良かった…今まで、ごめんな…」
「マスター?」
「僕…もっとお前といたい…。

お前の話を聞きたいんだ…僕は、お前のマスターなんだから」


ジンをもっとしってみたい。

もっと、こいつを知ってわかり合いたい。


ジンは一瞬、驚愕に目を見開いたが…、

「…シング様」

次の瞬間、優しく僕に笑いかけた。


刹那、胸が跳ねた。
その胸のときめきは、たった一瞬のことで…、ただの気のせいかと思ったくらいだった…。


「シング様…?お顔が赤いですが…、」
「う、うるさい…!こっち見るな…、」

なんだろう…。
この感情は。

このドキドキは…。


初めて芽生えた感情に、僕は焦りどうしようもなかった。


2016-3-16 14:57

おやすみマスター3





結局、ジンは軍へは行かなかった。
自らの意思で、長い眠りについてしまったのだ。

スリープモード。
自殺、なんだろうか。

俺がどんなにジンを見ても、ジンは起動しなかった。
原因不明の、意識不明。

きっと、ジンは戦地にジンをいかせたくないという俺の思いにこたえてくれたのだろう。

己を、殺してまで。
起動したままならば、俺たちは、離れ離れにされてしまうから…。

軍はジンを差し出せとわめき、民衆は俺たちを迫害する。
だから、ジンは己を殺し、俺の願いまで、聞いてくれたのだ。

自分を、最後まで殺して。


「お休み…、俺のアンドロイド」

静かに眠るジンの寝顔にキスをする。
涙を零しながら。

いつか必ず…
そう、必ず。

必ず、もう一度、ジンを起動させる。
そう、綺麗な寝顔に誓って。



 その後、俺は家を出、あてもなく旅をした。
ポッケには、お守り代わりにあいつのマイクロチップをもって。


俺の旅は、とある国で終わりになる。
その国はちょうど殺人ロボットや国の在り方や戦争について議論されている国だった。
今後、大国にも殺人ロボットの在り方を話し合う、という。

ロボットが、過ごしやすい社会。
ロボットだけに依存しない社会。

俺は、その話に乗り協力し、それからは、ただ毎日毎日走るように終わっていった。

戦争に使うロボットの禁止。ロボットに依存しない、社会。
殺人ロボットが使われなくなるまでに、二十年かかった。


そして…
「博士ー」
パタパタと、騒々しい音をたててこちらへやってくる、白衣を身に着けた少年。
頭には可愛らしい猫耳をつけており、お尻には、ふわふわしたしっぽがついていた。

「君か…」
「はい」

少年は振り返った俺ににっこりと笑う。
そして…、

「博士のおかげです、僕らロボットがこうやって生きてるのは」

俺に握手を求めた。

20年.
そう、20年かかった。

ロボットと、人間の協調する社会。
争いを少しでもなくす社会をつくるのに。

無事今までの努力が実り博士となった俺は、ロボットに依存しない社会の為、国に協力し、時に色々なロボットを産んだ。

20年.
俺の全ては、ロボットに注ぎ込んだ。
その結果が、今のこの社会だ。



「ごめんな…二十年かかった…」

そっと、愛しい顔を撫でる。何度も何度も動けばいいと願った、俺の愛しい…俺だけの、ロボット。
ジン。

動かなくなったジンは、ずっと家の地下に保管していた。
誰にも触られないように。
俺以外誰にも見られないように。

こうして、会うのは本当に久しぶりだ。
いつかの日のように、ドキドキしながら、口づける。

不思議と、怖さはなかった。
ジンは絶対に、動く。絶対に、もう一度俺を見てくれる、そう信じていたから。

でも…


「、…さま…シング…さま…?」

目をぱちぱちと瞬くジン。
絶対動くと信じていたのに…

俺の瞳には涙が込みあがってきた。

「うん、久しぶり、ジン」
「私…は…」

呆然とただ瞬きをするジン。
ジンの記憶は、あの日で止まっているんだ。
いきなりの起動にびっくりしているんだろう。

「ジン…もう…大丈夫なんだ。俺達は一緒にいられるんだよ…、もう…誰も邪魔はさせない…俺がお前を守るよ」
「…さま…」
「俺、もう39になっちゃったけどさ…おじさんだけど…まだ愛してくれるかな…ジン…」
「当たり前です…
我がマスター。愛しき、俺だけの…マスター」


そういうとキツクジンは俺を抱きしめた。
目に涙を浮かべながら。

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小説(短編)/
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2016-3-16 14:57

おやすみマスター3



 お前は、ロボットなのに、お前の行動につい、目線がいってしまう。
お前は感情を持たないのに、お前の事を愛しく思う。

こんな恋心、空しい以外の何物でもないのに。

それでも、僕はお前に魅かれてしまう。

おかしいよな、お前はロボット。感情を持たないロボットなのに。
それでも、お前を見るたびにこの心は可笑しくなってしまう。
制御不能。
ロボットを動かせる僕なのに、自分は上手く動かせない。


「シング様、」
お前が僕に微笑みかける度にドキドキし、

「シング様、」
お前が僕を気遣うだけで、特別になれた気がして嬉しくて。

ジンが僕の中で特別になっていく。

恋を自覚してから、僕がジンを恋愛感情の意味で愛してしまうのは早かった。

でも、この気持ちはジンには言えなかった。
だって、ジンはロボット。この気持ちを受け入れてくれるとは思わなかったから…。


 月日は巡るめぐる…。
俺は19になっていた。ジンと出会って5年。
俺の身長は、175センチまで伸びた。
ジンの容姿は変わらない。あの頃のままだ。
綺麗で、ちょっぴり恐ろしいほどの美貌で…、身長もあのときのまま。
 
 
20センチ、とあんなにあった俺たちの身長は、およそ3センチ差になってしまった。

精神的にも俺は変わった。今まで一人称が『僕』だったのに対し、成長すると自然に『俺』になった。

俺は、予てから行きたかったロボットを研究する専門大学に無事入学することができた。
ジンは俺の夢がかなった、と、誰よりも祝福してくれた。

俺の父は、戦争がはげしくなったせいか、ここ最近では家に帰ってこない。
なので、俺が大学を合格した時も祝いの言葉はなかった。

俺にはジンがいてくれたから、寂しいとは思わなかったけれど。


俺とジンの関係。
恋人でも、そもそも同じ人間ですらない関係。
曖昧な、関係。
それでも、俺はジンといられる日々に満足していた。

のんびり、まったりとした、でも心温まる日々に。
些細なことで幸せを感じる日々に。

しかし、そんな俺にとって満足していた日々は、ある日突然終わりを告げる。

国の貧困が窮地になり各地の戦争がはげしくなり始めた時だった。

国にある殺人ロボットを全て徴収し、敵外国に圧力をかける≠ニ国の命令で出たのは。

 殺人ロボットは、もともと主に軍隊で使用される。

しかし、ジンや、壊れた殺人ロボット、あまりにいう事を聞かないロボットは例外として戦地にはいかなくても良かったのに。

戦争がはげしくなり、軍は少しでも戦力が欲しいらしい。

殺人ロボットという、殺人ロボットが、戦地へ行くことを余儀なくされた。

それにともない、殺人ロボットは、戦争の象徴として、一般市民からは忌み嫌われる存在になっていた。


殺人ロボットがいるから、戦争がある。
殺人ロボットがいるせいで、戦争が起こる。


そもそも、悪いのは、争う事しか能がない人間のせいなのに。
悪いのは、ロボットを使う強欲な人間がいるからなのに。

いつも悪いのは、戦いに駆り出されるロボットなんだ。


殺人ロボット徴収令が発動されて、当然ジンも軍へと戻ることとなった。

でも、僕はジンを戦争なんか行かせたくなかった。
ジンは心の優しいロボットだから。
ジンは人を殺すのが嫌なんだ。

なのに、何故、戦地に行かなければならない?
人の為にどうして、ジンが犠牲にならなければならない。

ロボットだから、だからといって、こうも理不尽な事ばかりでいいのだろうか。

俺はジンが傷つくのが嫌だった。ジンが壊されてしまうのが嫌だった。
遠くへ行ってしまうのが嫌だった。

ジンは俺のロボットなんだ。
僕だけのロボットなんだ。


国のモノでも、父のモノでもない、俺だけのロボットなんだ。
他の誰にも、傷つける権利なんて、ない。

ジンは俺のロボットなんだから。


「ジン、命令だ。軍には入るな。俺だけのものでいろ」

ジンが軍へ入る前日。
俺はジンを抱きしめて、そう命令した。


傲慢な台詞。でも、その声は震えていた。
ジンが、僕の前から消えてしまうこと。それがなんとなくわかったから。


「シング様…それは…」

ジンは、そっと俺の背を抱き、

「それはできません」

初めて俺の言葉を反した。
「…ジン、」
「私は殺人ロボット。もしも、戦地に行かないなどと言えば、私だけじゃなく、シング様、貴方にまで罰が与えられます。私は、ロボットなのです。人を殺すだけのロボットなのです。恐ろしい、ロボットなのです。人を殺すのが、仕事なのです」

ジンはロボット。殺人ロボット。
人を殺すのが、ジンの存在意義…。


「ジン…」
「私は…昔、貴方に人を殺したくないと言いましたね。
私は今まで何人も何人も殺しました。人を。皆、私を悪魔だといいました。


何度も何度も同じロボットや人に壊されかけました。何度も何度も、私は壊れたいと願いました。私さえ壊れれば、私が殺すはずだった人間が助かる。私さえ壊れれば、少しでも生きながらえる命がある、そう思ったから。私は貴方に会うまでは、壊れたがっていたのです。人間でいう、死を望んでいたのです」

「ジン」

「私は私の身が嫌だった。私が嫌いだった。この殺人ロボットのわが身が。いつでも壊れて、死んでしまいたかった。そんな時、貴方にあったんです、シング様。我がマスターに」

「…ジン、」

「私は自分が嫌いだったのに、貴方が、私の傍にいて、私が私でもいいといってくれ、ほんの少し自分が好きになりました。あんなに壊れたがっていたのに、私は、貴方と少しでも一緒にいたいと思いました。殺人ロボットである自分が嫌いだったのに、貴方に会えて、私は今のこの状況を感謝したのです」

ジンは殺人ロボット。
今まで散々、その手を血に染めてきた、ロボット。

でも…、

「私は、貴方に会えて幸福を知ったのです。ロボットである自分が嫌だったのに。それでも、私は幸せになってしまった、貴方にであって」

どうして、どうして、こんなに。
こんなに、ジンの言葉に涙が出るんだろう。

ジンが愛しいと、ジンがどこにもいってほしくないと、思ってしまうのだろう。

優しい、誰よりも優しいやつだと思ってしまうのだろう。

神様、そして、ジンが殺した沢山の人たち。

ごめんなさい。ごめんなさい。

俺は…
俺は、ジンが愛しいです。
たとえ、後ろ指差される関係であっても。
おかしな、関係であっても。

愛おしくて、愛おしくて、仕方がないんです。
沢山の人を殺してきた、ジンが…。


「シング様…」
「抱けよ…」
「えっ…」
「俺を抱け、最後に…愛しているなら…」

抱いてほしい。
ぐちゃぐちゃにしてほしい。
何も考えられないくらい。
俺をジンのものにしてほしい。
ジンだけの、ものだけにしてほしい。

ジンを、愛しているから…。

だから…。
「私はロボットです」
「それでもいいんだ、俺はお前が好きなんだから…」
「シング様…」
「愛してる、ジン…」

近づいて、そっとキスをする。
ジンは、一瞬目を見開き…、

「シング様…」

俺の頬を包みキスを返してくれた。


俺の望み通り、ベッドに俺を押し倒す、ジン。

「大丈夫ですか…」
「…大丈夫…だから…」
初めて抱かれる行為。
怖い、けど、それ以上に嬉しかった。
ジンに抱かれるのが、
ジンに愛して貰えるのが。


「シング様…、」

ジンの黒い長い髪が、サラリと揺れる。


嗚呼、なんて……


「ジン…」
「シング、さま…」

なんて、綺麗なんだろう……。

なんて…

「シング様…」
「ジンッ」

なんて、愛おしいんだろう。




2016-3-16 14:57

おやすみマスター3





結局、ジンは軍へは行かなかった。
自らの意思で、長い眠りについてしまったのだ。

スリープモード。
自殺、なんだろうか。

俺がどんなにジンを見ても、ジンは起動しなかった。
原因不明の、意識不明。

きっと、ジンは戦地にジンをいかせたくないという俺の思いにこたえてくれたのだろう。

己を、殺してまで。
起動したままならば、俺たちは、離れ離れにされてしまうから…。

軍はジンを差し出せとわめき、民衆は俺たちを迫害する。
だから、ジンは己を殺し、俺の願いまで、聞いてくれたのだ。

自分を、最後まで殺して。


「お休み…、俺のアンドロイド」

静かに眠るジンの寝顔にキスをする。
涙を零しながら。

いつか必ず…
そう、必ず。

必ず、もう一度、ジンを起動させる。
そう、綺麗な寝顔に誓って。



 その後、俺は家を出、あてもなく旅をした。
ポッケには、お守り代わりにあいつのマイクロチップをもって。


俺の旅は、とある国で終わりになる。
その国はちょうど殺人ロボットや国の在り方や戦争について議論されている国だった。
今後、大国にも殺人ロボットの在り方を話し合う、という。

ロボットが、過ごしやすい社会。
ロボットだけに依存しない社会。

俺は、その話に乗り協力し、それからは、ただ毎日毎日走るように終わっていった。

戦争に使うロボットの禁止。ロボットに依存しない、社会。
殺人ロボットが使われなくなるまでに、二十年かかった。


そして…
「博士ー」
パタパタと、騒々しい音をたててこちらへやってくる、白衣を身に着けた少年。
頭には可愛らしい猫耳をつけており、お尻には、ふわふわしたしっぽがついていた。

「君か…」
「はい」

少年は振り返った俺ににっこりと笑う。
そして…、

「博士のおかげです、僕らロボットがこうやって生きてるのは」

俺に握手を求めた。

20年.
そう、20年かかった。

ロボットと、人間の協調する社会。
争いを少しでもなくす社会をつくるのに。

無事今までの努力が実り博士となった俺は、ロボットに依存しない社会の為、国に協力し、時に色々なロボットを産んだ。

20年.
俺の全ては、ロボットに注ぎ込んだ。
その結果が、今のこの社会だ。



「ごめんな…二十年かかった…」

そっと、愛しい顔を撫でる。何度も何度も動けばいいと願った、俺の愛しい…俺だけの、ロボット。
ジン。

動かなくなったジンは、ずっと家の地下に保管していた。
誰にも触られないように。
俺以外誰にも見られないように。

こうして、会うのは本当に久しぶりだ。
いつかの日のように、ドキドキしながら、口づける。

不思議と、怖さはなかった。
ジンは絶対に、動く。絶対に、もう一度俺を見てくれる、そう信じていたから。

でも…


「、…さま…シング…さま…?」

目をぱちぱちと瞬くジン。
絶対動くと信じていたのに…

俺の瞳には涙が込みあがってきた。

「うん、久しぶり、ジン」
「私…は…」

呆然とただ瞬きをするジン。
ジンの記憶は、あの日で止まっているんだ。
いきなりの起動にびっくりしているんだろう。

「ジン…もう…大丈夫なんだ。俺達は一緒にいられるんだよ…、もう…誰も邪魔はさせない…俺がお前を守るよ」
「…さま…」
「俺、もう39になっちゃったけどさ…おじさんだけど…まだ愛してくれるかな…ジン…」
「当たり前です…
我がマスター。愛しき、俺だけの…マスター」


そういうとキツクジンは俺を抱きしめた。
目に涙を浮かべながら。

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百万回の愛してるを君に