ごちゃ倉庫
◎俺のズッキーニ
2016-8-23 13:36
俺のズッキーニ
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一言でいえば『残念』だ。
例えばどんなにかっこよくても、どんなに頭がいい人でも《残念》な人ってやっぱりいると思う。
かっこよくて、頭もよくて凄い仕事についているのに、なんか残念な人、って。
僕の場合は、それがとても身近にいる訳で……。
「うわーどうして起こしてくれなかったんだよー」
「いやぁ、シンジのパジャマから覗くピンク乳首を見ていたらすっかり遅くなってしまって……。
ピンクチェリー万歳だな。
ピンクチェリーは正義。
いやぁ、スワンスワン」
「ふざけんな!スマンですめば警察はいらないんだよ!
あぁ、もー、朝食作る暇ないじゃんかっ」
「大丈夫だ、シンジ!
今日も叔父さんのあそこはお前の痴態でズキズキズッキーニだからな!
俺のズッキーニを食べれば朝から元気百倍、パンパン…」
「ぎゃぁぁぁ!ナニ見せてんだよぉぉぉ!」
僕の、叔父さんだったりします。
(俺の、ズッキーニ☆)
「あはははは。今日も朝からズッキーニ!ははは」
「笑いごとじゃないよ!朝からあんなのっ」
朝からあんなナニを見せられて、僕の機嫌は氷点下だ。ブリザード吹いちゃっているかもしんない。
ナニがズッキーニだ。ナニがオレのあそこがズッキーニだ!
朝から僕の乳首見てるは、ナニを見せるは……。
何が楽しいんだ!僕は男なのに!
僕の名前は、森シンジ。
中学一年生。
そして、朝から変なナニを見せて僕の機嫌を氷河期にさせたのは僕の実の叔父さん。
名前を、森保(もりたもつ)という。
ああみえて、医者だ。
32歳。僕とは20歳差。
色々はっちゃけると痛い年でもある。
「でも凄いよなー、
そんな朝からズッキーニ☆とかいいながら甥にズボン下げる人が今の平成のブラックジャックだなんて!」
「…平成のブラックジャック…」
ガク、っと頭が下がる。
ああみえて、保は美形だ。
そしてエリートな医者でもある。
手先が器用で、頭の回転もよく、度胸もあって手術はほぼ成功させる。
しかも手術痕も見えなくするような腕前からか、患者からは《神の手》と持て囃され、ついこの間はテレビにも出た。
イケメン外科医として。
ブラックジャックのような天才外科医と紹介されて。
家では、ただの変態な痛い人なのに!
みんなあの顔に騙されているんだ!!
あんなヤツブラックジャックでもなんでもない!
ただの変態医者だ!
「しっかしオレだったらあんなかっこいい人のナニの一つや二つ、朝から見れたら嬉しいんだけどなー。
そんな普通は見れるもんでもないし。
大きそうじゃん、アレ」
「…」
「実際、大きいんだろ、アレ」
「死ね」
アレアレアレアレと…五月蝿い。
そりゃ、保は僕のモノと比べると凄く太くて立派なズッキーニ…
って何考えているんだ、僕は!
しかも今は学校なのに!
お昼なのにこんな下ネタトークして…
幸い…なのか、クラスメートは各々好きな者同士とお弁当を広げていて誰も僕等の話なんか聞いちゃいなかった。
良かった。
「羨ましいなー☆あんなかっこいい人…」
ほぅ…っと恍惚に塗れた顔で溜息をつく僕の友達落合学(おちあいまなぶ)。
小学校からの友達だ。
学は女の子みたいに可愛らしい顔をしているんだけど、中身は男好きのゲイで、ぶっちゃけノリだとか性格は保に近いもんがある。
可愛らしいんだけど…痛い残念な人。
僕の周りには残念な人しかいないのだろうか。
…類は友を呼ぶ?
いやいや、僕は残念なんかじゃない。多分。
「あぁ。いいなー☆オレもぉ、一回生でみてみたぁいー。生ナマー」
「生…生って!」
生で…ナマでアレみたいだなんて!
そんな…破廉恥な!
「ヤダナァ、シンジ、赤くなって!
ナニ考えているのぉ〜?
オレは、生でシンジの叔父さんみてみたいって言ったの!」
「あぁ…そっち…。
…って違う!
べ、別に僕は変な事考えてないんだからなっ!
けしてアレだとか考えてないんだからなっ」
「もーツンデレさんなんだから」
「はぁ!違うし」
僕はやけくそのように手元のソーセージパンを食べる。
うぅ…ソーセージパン…。
なんでまた今日ソーセージパンなんかにしちゃったんだろ……。
「いいないいなーシンジはいいなー」
変なフシをつけながら歌う学。
全然よくない!
あんな叔父さん…
あんな下品な叔父さんっ
僕にアレコレ危ない事をする叔父さんなんかっ……
僕は普通な叔父さんが良かったんだからっ
「シンジ羨ましいー」
「僕は、保なんか好きじゃない。ノシをつけてくれてやる」
「またまたぁ、机に置いてあるのは何?」
「こ、これは……」
僕の机に置いてあるのは、旦那様の健康長続き料理本。
ちなみに、僕の両親は死んでしまって、今は叔父である保と二人暮らしだったりする。
家庭能力皆無な保だから料理はもちろんのこと、家事全般は僕の仕事になっている。
保が食べる料理は大体僕が作るもの、だ。
インスタントなんか冗談じゃない。
だから僕は度々こうして健康を考えた料理を日夜研究しているのだ。
「健気だねー、叔父さんの健康思って料理本みて研究するなんて」
「別に。
保の為なんかじゃ……。最近保がちょっと顔色悪いのが気に食わないだけだから。
心配とかしているんじゃないんだからな」
そうだ。
オペが終わって家に帰って青い顔して無理して笑う保が嫌だから。
それだけなんだから…。
なんだか気恥ずかしくなって、残りのソーセージパンを一気に口に詰める。
ニヤニヤとした学の視線が少し気に食わなくて、学の視線から逃げるようにそっぽを向いた。
結局、その後も学のにやけた顔が頭にこびりつき、授業も妙に頭に入らなかった。
くそ。
これもそれも、保のせいだ!
*
真夜中、深夜12時。
僕は簡単な夕食を机に並べたまま、保の帰りを待っていた。
机には、サラダとハンバーグと付け合わせ。
栄養バランスがバッチリ取れた夕食である。
ちゃんと家庭科だとか、レシピ本みて細かく作ったヤツだ。
「保…まだかな…」
保は、最近帰りが遅い。
テレビの仕事を受けてから、保直々に手術してもらいたい患者が多く連日のように手術が続いているらしい。
手術はやはり気力と体力を使うらしく、ここんとこ、保はげっそりしている。
あの病院の院長。保が金になるからって、使いすぎなんだ。
他の医者がイマイチだからって。
保ばかりに負担かけて
あんな酷使して、保にもしなにかあったらどうするつもりなんだ!
保がなにかあったら…
「…嫌だ……」
保がいなくなると考えただけで胸がキシキシと痛む。
そりゃ、変態で残念な叔父さんだけど。
でも…保が…
僕を溺愛する保がもしもいなくなったら、僕は……。
胸が苦しい。
圧迫されたように、息がしづらい。
「たっだいまー、シンジきゅんー。
ダーリンのお帰りだぞうー」
玄関から、ようやく待ち望んでいた保の声。
な、なんで今。
保がいなくなった事を考えていたから、僕絶対今変な顔しているのに。
タイミング悪いよ。
「あ…」
「シンジきゅん、ただい…どうした!?シンジ!!」
「え……」
僕の肩を掴み、真剣な形相をする保。
青い顔しているのに、いつものヘラヘラした顔じゃない。
真剣で、真面目でカッコイイ……
「どうして泣いている?学校で何かあったのか?」
「あ…」
気付けば、僕は泣いていたらしい。
保は眉をよせ、苦しげな顔をしながら指の腹で僕の涙を拭った