わんにゃん1
ボクは猫。
ロシアンブルーの猫。
きゅっと引き締まった身体に、小さな口許と、首にかかった大きな鈴がチャームポイントの家猫なの。
雄猫で、もうすぐ2歳になるの。
愛くるしくて、いつまでたっても天真爛漫な天使、なんてご主人はボクのこといつも褒めてくれるんだ。
そうそう、ボクの名前ね。
ボクはね、るぅって言うんだ!
これはね、ご主人につけてもらったの。
高貴な僕に御似合のかっこいい素敵な名前でしょ。
ボクはね、ご主人のこと、大大大大大スキなんだ!
ご主人はね、ほんとーに!優しくて、頭もイイ、とってもいい人なんだよ!
猫って忠義心がないとか気まぐれだとか言われるけど…少なくともボクは違うと思うの。
ご主人が許してくれる限りご主人の側にいたいし、遊びたい!
ご飯よりも玩具よりも、なにより一番ご主人が好きなんだから。
ご主人の言うことならなんでも聞けちゃうし、ご主人の為なら大好きなご飯だって我慢出来ちゃうの!
ずっと甘えたいし、冷たくされたりすると悲しくなるの。
ご主人命、なの!
ご主人が大好きなの。
ご主人もご主人で、ボクが大好きでいつも甘やかしてくれるんだけど…
ここ最近、ちょっとボクにとってショックな事が起こったの。
お話聞いてくれる?
あのね…ご主人がね…
「るぅ〜」
あ、ご主人だ!ご主人がボクを呼んでる!
ボクは犬みたいに、ピンと耳を立てて、しっぽを振る。
ご主人は、身体のサイズにあっていない、少しブカブカしたシャツに寝癖をつけたまま、眠気眼でボクを探していた。
ちょっとね…、ご主人ってださいんだよね…。見なりとかさ…。
そんなところもご主人らしくて好きだけど…
田舎者まるだしなとこ、正直どうかと思うときもあるんだよねぇ。
ご主人、ボクはここだよぉーっ
気付いて貰う為にご主人に走り寄るボク。
でも、走り寄るのボクの前にボクのライバルが立ちふさがった。
御主人の顔はたちまち、現れた人間に対して、真っ赤に染まる。
「み…都さん…」
「千太郎さん…おはようございます…朝ご飯出来てますよ」
「…あ、はい…じゃああの…いただきます…」
ご主人は言われるがまま、テーブルに座って、でれ…と気の緩んだ顔で都さんを見ている。
足元まで近付いたボクに気づかずに…。
ご主人ー。ねぇってばー。
あそんでよー。
ご主人はボクを探す事を辞めて、都さんにデレデレ。
なんだよーもうっ
ボクも見て欲しいのに!
ボクの方が都さんより、ご主人と付き合い長いのに!
なんでボクの方がほっとかれるのー。
ボクの不幸はコレ!
ご主人を都さんに取られた事。
今までボクとご主人はずっと一人と一匹暮らししていたんだけど…
あるとき、ご主人が都さんを連れてきたんだ。
なんでもご主人と都さんは『お付き合い』をしているらしい。
ご主人の家に都さんが、最近越してきたんだ。
ご主人は都さんが大好きでずっと一緒にいたいんだって!
将来は結婚も考えているんだって。
あんなに女にモテないご主人が…
あ、都さんってね、猫のボクから見ても綺麗な人なんだ。
笑ったところとか、綺麗な花みたいに凛としているんだよ。
その都さんがご主人と付き合うって言うんだもん…。
あのモテないダサイ、仕事の研究命のご主人がだよ?
これは何かある!
ご主人は騙されてるっ…
って思ったね!
だってあんな綺麗な都さんだよ?
『お付き合い』している人はご主人以外に沢山いる筈だよ。
ご主人、優しいけど、口下手みたいで話も自分の好きなことばかり喋るし。僕に対して、研究成果と称して5時間ほど一人で喋っていたこともあるの。
そんなご主人だから、今までのお見合いは相手の方から断られたのに…。
都さんはそんなご主人を好きだといっている。
わざわざこんな綺麗な人がご主人なんかに惚れる理由がわからない。きっとお金目的なの!
ご主人とたまに見ている火曜サスペンスでもやっているの。
お金は愛を変える、人を変えるって。
だからボクは、ご主人を守る為に都さんの監視をしているの!
ご主人を守るのもペットの役目でしょ!
だから常に目を光らせているんだけど……
「に…にやぁぁぁぁ」
ふみゅ、っと何かに思い切り踏まれた。
酷い痛みに襲われ、つい絶叫じみた声が口からでた。
「あ…、わりぃ…」
ちっとも悪そうに思ってなさそうな口調でしら…と視線をそらすそいつ。
にやぁぁぁぁ!
しっぽ!しっぽ思いっきり踏んでぇぇぇ。
絶対わざとだ!わざとしか考えられない!
ぎん…っとネズミも恐れる鋭い眼光で、ボクのしっぽを踏み付けた奴を睨みつける。
が、ボクに睨まれたのなんてなんのその!
逆に、睨みつけるボクに、へっ…と笑ったんだっ!
やっぱりわざとだ!
むかつくーっ
ボクのしっぽを踏んだ犯人は、犬のラオウ。
名前は都さんの好きな漫画からつけたんだって。
こいつは都さんが飼っている犬でボクの天敵なの!
なんで天敵かって?
元々ね、ボクとラオウは、都さんがご主人の家に引っ越ししてくる前から知り合いだったの。
ボクの散歩コースに都さんの家があったから…
必然的に、庭にいたラオウとも顔を合わせていたの。
ラオウはね、ごーるでんれとりばーって犬の種類に似た雑種。
図体大きいし、キリッとした顔しているんだ!
雑種の癖にさ!
散歩にいけば、雌犬の視線は大抵ラオウに釘つけだし、雄犬からも一目置かれているみたい。
この地区のボスなんだって。
ラオウに頼ればなんでも解決するし、誰も喧嘩に負けた事がないんだって。
ボクもラオウに会う前、猫の噂でラオウの事を知っていたの。
凄い犬だって。
…ほんとはね…、ボク、ラオウとお友達になりたかったの。
ラオウの噂は凄いものだったし、実際、ラオウカッコイイから…。
だから初めて会った時、お友達になって下さいって頼んだんだけど…
『は?チビ猫の友達?
寝言は寝て言え、チビが…』
そう…断られちゃったんだ。
ボク、ただお友達になりたかっただけなのに!
酷い奴だよね、ほんと…っ
くやしい。ボク、確かに小柄だけどちびじゃないもん。
ラオウがでかいだけだもん。
その日以来ボクの天敵にラオウはなったの!
それにね、後から聞いた話、ラオウはご主人と都さんをくっつけた『きゅーぴっと』なんだって
ボクの友達になってくれず、見下し、それどころかご主人まで都さんに取るように計算していたなんて…ズルイよね。
もうほんと、ラオウってば大嫌いなの!
ほんとに、ほんとに大嫌いなんだから。
「おい、猫…」
「猫じゃないの、るぅな…ん…っ」
チュッと軽く、ラオウに鼻先を舐められた。
ペロペロとボクの顔を舐めるラオウ。
その瞳は、ユラユラ?ギラギラしていて…
な、なんなの…急に、こんな…
はっ…ラオウってばまさかボクを食べる気なのっ!
だからそんなギラギラしているの?
にやぁぁぁぁ。
「や、やめるのっ…」
「なんだ、色気ねぇ…、もっと可愛くなきやがれ」
「なく?…え、餌なら沢山貰っている筈なのっ!
ボクを食べるな、なの!馬鹿っ」
「は…」
ポカン、と間の抜けた顔をするラオウ。
ボクを食べようと…したんだよね?あれ…なんでそんな顔…
なんか間違えたの…ボク…。
急に顔なめ回したのって、食べる以外に目的ないよね…
「もういい…すっげぇ萎えた、」
「ラ、ラオウ…」
「うっせー、くんな…」
ラオウはちょっと怒りながら…都さんの部屋に歩いていった…。
んー、ラオウってば、やっぱりよくわかんない。
なんでさっきあんな瞳してたのかな…。
お腹減ってたんじゃないの?
もうラオウってばわかんないやつ!
「…ラオウなんて嫌いなの…」
ボクは頭を抱えながら…、またご主人と都さんの監視を続けた。
ーラオウさいど。ー
猫は知らない。
俺が猫を好きなこと。
ずっと可愛いと思いながら見ていたこと。
あの馬鹿猫は知らない。
つぅか知ろうともしない。
ご主人たちをくっつけたのだって、善意じゃねぇ。
俺の為、俺が猫に会いたかったからだ。
ずっと好きで見ていた奴に「お友達になって」と言われて…
はい、なりましょうなんて言える訳がねぇ。
友達なんかじゃ満足しねぇ。
俺がなりたいのはご主人達みたいな『恋人同士』なんだから。
猫と愛し合いたいんだから。
最初からお友達として見られたんじゃ、発展させるのは難しいからな。
友達なんてごめんだった。
愛とか恋とか…。
まだ猫は子供過ぎてそういうことよくわからないらしい。
相変わらずご主人命だ。
お前は犬かっていいたいね…。
俺のアプローチもことごとく、撃沈している。
あのうというぶうぶな猫にとっちゃ、俺の気持ちなんてわかんないんだろうな…。
でも、まだ時間はたっぷりあるんだ。
絶対猫を俺のもんにしてやる。