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誰かの為に役に立てるのは、とても嬉しい。
自分の存在意義を感じ、自分がいらない存在じゃないと安堵するから。
ありがとう、おまえのおかげだよと言われれば、どんなことでも耐えられた。
どんなに自分を犠牲にしたとしても、僕のおかげだと褒められれば、それだけで自分のことのように喜べる。
自分がどれだけ傷ついて、自分の利益なんかこれっぽっちもなくっても、ただ一言、ありがとう役にたったよ…と言われれば、それだけで、もう他のことはどうでもいいと感じてしまうくらい歓喜に満ちて。
ただ道具のように扱われているとわかっているのに、
「僕を、使っていただきありがとうございます…」
そんな言葉とともに涙を浮かべながら、ご主人様に仕える喜びに震えてしまうんだ。
馬鹿だ惨めだと、笑われても、誰かに必要とされるのは、僕にとってはとっても幸せなことだった。
どうやら、僕は病的だと言われるくらい、自己犠牲の精神が強く他者への依存心も強かった。
自分をどれだけ犠牲にしてでも、他人の…自分の仕えるご主人様の幸せを願い、役にたてるようどんな無茶もしてしまう。
ご主人様が命令する前に、ご主人様の幸せをねがい、ご主人様の為に行動する。
僕のことなんてただの道具にしか思っていないのに、命をかけてご主人様の為に動く。
すべては、ご主人様のために。
ご主人様の幸せのために。
自分はご主人様を支える影の存在でいい。
ご主人様のさえ、幸せならば、自分はどれだけ日陰の道を歩き他人に非難されても構わない。
病的ともいえる自己犠牲の塊がぼく≠ニいう人間であった。
悲劇のヒロインを気取る、マゾじゃないか。
僕をそう表現したご主人様もいた。
自分を犠牲にしても、他人の幸せを願って尽くして尽くして、結局何も得ることもなく、その身を朽ち果てていく。
まるで、道具のようだ。
自分の感情がないから、他人にそんなに尽くせるんだと、ご主人様以外のことが考えられない僕に、ご主人様は嘲笑った。
自分でもわかっているんだ。
こんな自分は可笑しいって。
自分のことをちっとも愛してもくれないご主人様のために、毎回どこまでも盲目的になってしまうのはおかしいって。
ご主人様がうっとおしく感じるくらい、ご主人様に依存し愛を求めてしまうのはおかしいって。
自分ではちゃんと理解しているつもりだ。
ご主人様たちにとって自分は人間じゃなくてただの、道具で僕自身を必要とされているわけではない。
所詮使い捨てで、いらなくなれば不必要なものだと捨てられる。
わかっては、いるんだ。
こんなに依存しても、想っていても、僕の思いはご主人様にとって重みになるだけだって。
わかっている。だけど、辞められない。
やめることができない。
僕を飼ってくれる御主人様を愛すこと。
必要とされることを、望まずにはいられない。
ありがとう、その一言で身体は喜びに震え。
役立たずと言われるのが、凄く悲しくて辛くて。
ご主人様が僕のもとから去れば、胸がぎゅっと痛み、息をするのもままならなくなる。
誰かにいらないと言われることが一番、僕にとって怖いことだった。
僕は、人より過剰に愛情を欲し、飢えて人に依存しているのだ。
不要だと言われることに必要以上に怯えていた。
仕えたご主人様のために、いきる。
ご主人様が第一で、ほかのことなど考えない。
それが僕に求められた生き方で、馬鹿な僕は他の生き方を知らなかった。
孤児院で育ち、裕福な家に引き取られた僕は、子供として引き取られたわけではなく道具として教育されるために引き取られた。
僕に求められていたモノは、昔からご主人様の為になる道具であり、そこに自分という存在は不必要だった。
感情なんて不要。
ただの道具に意志はいらない。
感情なんて、捨ててしまえ。
僕を教育した人間は、まるで呪いのようにそう僕に言い続けた。
人間である前に、僕らはご主人様の道具である。
道具は使われてこそ、幸せなのである。
そこに、人間のような感情はいらない。
感情を持つことは、不幸である。
意思があれば裏切ったり、愛するご主人様の愛を疑ったり、予期せぬ暴走をしてしまうから。
ただ、主人の幸せを願う。
盲目的に愛す。
それが、道具の幸せだと教えられた。
僕を教育したひとも、当時のご主人様の道具であって、使われることが私たちの幸せなのですと僕に言って聞かせた。
ご主人様の役に立てることが、道具の最高の喜びであり、役に立てないことが最高の不幸だと。
その人は幸せそうに笑っていった。
『私は、ご主人様の道具でいられて幸せです』と。
僕にも、それはいつの間にか染み付いていて、いつから自分自身の幸せは、仕えるご主人様の幸せになった
僕にとっての幸せは、ご主人様の幸せ。
ご主人様に捨てられるのが、僕の不幸。
なんでもするから、捨てないで。
いい子にするから、どうか、愛して。
なんでもしていいから、どんなに酷くしても笑っているから、どうか捨てないで。
悲鳴をあげろというのなら、声が枯れるまであげるから。
ご主人様じゃない人間に抱かれろと言われても、喜んで抱かれるから。
薬でも、手錠でも、蝋燭でも何を使ったってかまわないから。
ずっと命じられたまま、笑っていられるから。
いつまでも、貴方の望みをかなえるから。貴方の道具でい続けるから。
だから。だから、
どうかどうかどうかどうか…。
捨てないで捨てないで捨てないで捨てないで捨てないで。
捨てないで捨てないで捨てないで捨てないで捨てないで。
お願いだから、捨てないで。
傍にいて。
どれだけ邪険にしたっていい。
犬扱いでも、奴隷でもいい。
玩具でも、なんでもいい。
愛してほしいなんて、そんな大それたこと、望まない。
ただ、捨てないでほしい。
ずっと、傍にいさせてほしい。
なんだってするから。
なんだってしていいから。
どんなに傷つけられてもいいから。
傷つけられたって裏切らないから。
お願いだから、傍にいて。
迷惑かけないから、ずっと一緒にいて。
一生、僕のご主人様でいて。
どんな酷い命令もきくから、一生僕を繋いでいて。
どんなことだって、耐えてみせるから。
捨てないで。離れていかないで。
一人にしないで。
ご主人様に依存しないと道具の僕は生きられない。
だから、壊れるまで捨てないで。
捨てるなら、いっそのこと、僕が動けなくなってからにして。
もう何度そういって、縋っただろう。
何度、そのたびに、怖がられたり殴られたりしただろう。
両手じゃ数え切れなくて、途中で数えるのをやめた。
まともじゃない僕を、今までのご主人様は最初は可愛がってくれたり面白がったりしていたものの、そのうち僕の病的な性格を持て余し、最後には捨てられた。
僕の忠義心は、重くご主人様にしてみれば窮屈でしかない。
依存しすぎるのも、ご主人様には狂気的に感じ、恐ろしさを感じてしまうらしい。
それに、役にたとうと思って空回りして失敗してしまうことも多かった。
役立たずで使い物にならない道具などは、あっさり捨てられる。
不要な物として、寒空の下、放りだされる。
僕がどんなにご主人様を愛したって、今までのご主人様たちは、道具として可愛がってくれたものの、僕を自身を愛してくれることはなかったと思う。
道具として必要としたけれど、所詮、代わりのきく道具に過ぎなかった。
捨てられる度に心がズタズタになるのだけれど、新しいご主人様に仕えるうちに、また捨てられたことも忘れ、盲目的に愛してしまう。
ずたずたになって、馬鹿だと罵られ傷だらけになっても、次から次へとかわるご主人様に依存していまう。
きっと、僕は馬鹿なんだろう。
どうしようもない、馬鹿。
馬鹿すぎるから、捨てられる。
何もできない役立たずだから、使えないって、切り捨てられるんだ。