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『どんくさくて、何も考えていない、つまんねぇやつ。』
僕の今のご主人様…政孝様にも、そういわれた。
『おまえみたいな馬鹿な奴、俺は嫌いだ』って。
今のご主人様…政孝様は、今までのご主人様とは少し違った。
今までのご主人様は皆、自らのお金で僕を買うことで、僕の所有者になったのだけれど、政孝様は僕を見初めて僕を買ったわけではなかった。
僕は、政孝様のお父様によって、“無理矢理押しつけられた”のだった。
政孝様のおうちは、いわゆるヤクザのお家で、政孝様のお父さんは組長さんで、政孝様は組の若頭だった。
ヤクザの世界は、汚い抗争やら裏切りが多い。
だから、組長さんは絶対に裏切りそうにない相手として、政孝様に僕を忠実な「犬」として押しつけた。
女よりも男のほうが丈夫で妊娠もしないし、いつでも切り捨てられるだろう…といって、自由が好きな政孝様を監視する意味合いもこめて僕を送りつけたのだ。
「いらねぇよ、こんなもん」
政孝様は、僕と最初会ったとき、そういって顔をしかめていた。
「こんな、なに考えてるかわかんねぇやつ、いらねぇ…」
いらないと冷たく言い捨てる政孝様。
確かに僕の顔は政孝様がいうように、能面で感情が乏しく人間味がないと言われる。
今までのご主人様は、人形のようで綺麗だと外見は褒めてくださることが多かったのだけれど、政孝様は気に食わなかったらしい。
捨てられたくなかった僕は政孝様に土下座をし、
「なんでもするから、捨てないでください」
そう、縋れば。
「は…、じゃあ足に口づけろって命令したら喜んでするのか?」
挑発めいてそう返した政孝様に命令通り足にキスをしようとしたら、「きもちわりぃ」と顔を顰められて、思い切り蹴られた。
初対面は最悪だった。
政孝様はこんな僕を凄く嫌っていたし、僕も僕を不要とする政孝様が怖かった。
なにをしても、冷たい視線で見つめるだけの政孝様。
そんな政孝様に捨てられたくなくって、必死に頑張って頑張ったぶんだけ、ミスをする僕。
最初の頃は、すっごくギスギスしていた。
側にいるのも硬直しちゃって、それをまた政孝様が怒って、いつ捨てられるんだろう…と不安になって。
それが、いつからだろう。
政孝様が捨てないでとすがる僕を抱きしめてくれるようになったのは。
僕を絶対捨てないといって、頭を撫でてくれるようになったのは。
今までのご主人様と違って、もう捨てられたら生きていけないと僕が思うようになったのは…。
「政孝さま、好きです。愛しています」
今までのご主人様には、道具として口にしていた言葉。
だけど、政孝様には、道具としてではなく、僕本心の言葉として口にすることができる。
こんな風に自分を出すことはいけないと教えられたのに、政孝様はこんな僕を変えてくれた。
愛してる。
それは、政孝様に教えてもらった魔法の言葉だった。
自分を道具のように使ってくださいというよりも、愛してるといえ。
不安になったら、何かをするよりも前に、俺の側にいろ。
なにをするわけでもなく、ただ隣にいるだけでいい。
依存したいなら、もっと俺を夢中にさせてみろ。
お前のすべてで俺を誘ってみろ。
その言葉は僕を甘やかすばかりのものではなかったけれど、とても優しくて、僕の心に深く刻まれた。
政孝様の言葉を思い返すと、苦しくなるくらい、僕の心は政孝様に囚われて。
今までのご主人様の前では、泣いたことがなかったのに、政孝様の前では泣いてしまったことがある
政孝様は泣いてしまった僕を怒るでもなく、
「お前も泣けるじゃねぇか…」ってにっこりと笑って、僕の頭を撫でてくれたんだ。
『お前の今までの依存は愛情ではなく、執着だ。
俺はそんなもの、ほしくねぇ。
そんなもん、息苦しいだけだ。お前がいくら依存しても、他人なんざ結局自分と違うんだから、いつまでたっても不安は消えねぇんだよ。だから、もし不安になったときは、1人であれこれ考えず、まず俺に聞け。勝手に目の見えないところで動かれると迷惑なんだよ』
ずっと俺の目の見えるところで、俺の隣にいろ。
お前はそれだけ守ればいい。
お前が無理に俺を守ろうとするほど、俺は弱くない。
そしてお前も、道具なんかじゃなく、1人の人間であって俺にとっては不用品じゃない。
だから、俺が知らないところで勝手に傷つくな。
俺のものであるお前が傷つけるのは、たとえお前自身でも許さない。
それが、政孝様に命じられた最初の命令だった