演技だからね?エイプリルフール編

 連日の暖かな気温で公園の桜も開花し、綺麗な花を咲かせ始めた今日この頃。
春のうららかな陽気に誘われて、ついうとうと…なんて、誘惑に負けてしまいそうな柔らかな春。
春の誘惑は眠気を誘うだけでもなく、気持ち的にも開放的になったり、気持ちが浮上したりと冬とはまた違った気持ちになる人間も少なからずいるんじゃないだろうか。

人間だけじゃなく動物たちも春の訪れに発情したり、色めき合ったり…。
浮かれた様子に、季節はもうすっかり春になったのかな…と思い始めた春の初旬。
きっかけは、友人からのラインからだった。

「太一、実は…俺、おまえのことが好きだったんだ」

なんの脈絡もなく送られた言葉。
送られた愛の言葉に、送る相手間違えてんぞ…!と喉元まで言葉が出かかったが、送られたメッセージには俺の名前が書かれていた。

ラインの相手は、俺がレギュラーで出演しているバラエティーで共演中の俳優仲間。
十代の頃から知っている、古い友人であった。
事務所は違うが仲は良く、時折プライベートでも遊びにいく仲で俺が、ゆうくんに本気なことも知っている数少ない人間であった。



「好き…ってなんだよ、これ…」
ライン相手は俺がゆうくんに夢中になるまで、好きなAV女優について夜通し話し合った間柄である。
むっつりのドスケベ野郎の女好きでだった。

女好きで、ヤリチン。
三度の飯より女の子と遊んでいるのが好きなあいつ。
ただ、避妊は絶対しているし後腐れない相手を選んで付き合いをしているようで、おつきあいの割には大きなトラブルはない。
何度か女とスキャンダルが出ることはあるが、女に対して痛い目はみたことがないらしい。


役者というステータスをフル活用して、合コンにいったり遊びにいったりとプライベートも色々と忙しいらしい、と共通の友人からきいたばかりであった。

そんなやつが…俺に告白?
ありえないだろ。ないない。

俺がゆうくんを嫌いになるくらいに、ありえない。
天地ひっくり帰っても、あり得ません。

朝っぱらから不可解なメッセージに、どういうことだと首を捻る


『ーそれで…、返事、くれ。どう思う?俺のこと。』

ありえないっしょ…、なんの冗談よ…とアプリを閉じようとしたら、続けざまに、また送られてきた。

既読マークついたらすぐメッセージ送るって…
なに、マジなの…こいつ。


ライン相手の友人は、顔は…まぁ、悪くはない。
悪くないというか、若手俳優だし整っている部類である。
男前なあいつの顔は、ちょい悪系がはいったワイルドな顔である。
ファンの子曰くワイルドにみえるのに、笑った時にみえる八重歯が可愛くてたまらない…らしい。


俺ともゆうくんとも顔の系統が違う彼は、オーディションで同じ役に振り当てられることもなく、同じような舞台の仕事は多いけれども、特別ライバル意識というものもなかった。


ゆうくんに初めてあったときは、こんな、なよなよしたやつとやってられるか…!って反発したこともあったけど…、ライン相手に至っては初めから友好的であった。喧嘩もこれといってした記憶はない。

しかし、いくら仲がいい男だとしても、ゆうくん以外はノーサンキューな俺は、しかたなく

「ごめん、俺、ホモ無理」

シンプルかつ、ストレートな返事を返した。

芸能界という世界にいますが、こう見て俺、純情君だからね。
これ…ときめたら、一途なんです。
ゆうくんには3/1も、この純情は通じませんが…。
俺がイチャイチャしたいのは、この世でたった一人なんです…!
ゆうくんオンリーなんです!


『ー無理ってストレートだな、おい。』
「だって俺とお前だなんて考えただけで、うぇぇって感じだし」

『 ーホモ真っ盛り、男の尻、ガン堀りしたいっていっているおまえにいわれたかないし。』
「真っ盛りってなんだ…そりゃ。真っ盛りって…。
掘るなんていってないもん。
俺は抱きたいっていっているだけです。
俺がゆうくん一筋なの、知ってるでしょ?
なに、急にきもいこと言ったかと思えば煽ってきたり…。
情緒不安定なの?
ナイーヴくんなの?」

暇なのだろうか。
あいつは俺の返事に、ものの数秒で返信を返してきた。
いつもはラインなんて放置するやつなのに。

おかげで、毎日の日課であるゆうくんへの愛のメッセージが送れない。
今日は、俺もゆうくんも午前中はお互いに別の仕事が入っていて、午後もあえるか微妙だった
だから、会えない分気合の入ったメッセージを…と思っていたのに。
スルーすればいいものの、性格故かなかなか会話を中断することもできないでいた。


「んで、なんなの?
おまえとコントする暇なんてないんだけど…。
今からゆうくんに愛のメッセージを打たなくちゃいけないのに…」
『おまえも…よくもまぁ…飽きないね…。
男相手に。』

そんな一文のあと、すっごい呆れた顔をしたゆるキャラのスタンプがついていた。
今更。
俺は、きぃっと歯をみせている猿のスタンプを返事として、押してやった。

ほんと、よけいなお世話である。
簡単に答えてくれないから諦めるなんて、そんな生易しい思いで、同じものがついた男なんて好きになれません。

そんな簡単に飽きらめることができる人じゃないんです。

俺にとって、ゆうくんは誰よりも大切な人だから。
諦めて、さようなら。
そんなことして、ゆうくんの傍から離れてしまうほうが俺にとってはふられるより堪えてしまう。


宝石みたいに、キラキラしていて、誰よりも努力家で。
傍にいるだけで、胸が高鳴って元気を貰える。
姿が見えなければ悲しくなるし、笑っていれば自分のことのように嬉しい。
そんなことを感じる唯一の人。

振られて傷つくよりも、好きな人を好きだって言えないほうが俺はきつい。
ふられなれたから…ってわけじゃないけど。
ここまで好きになった人は初めてで、こんなに人を好きになれた自分を俺は誇りに思うから。
その気持ちを、大事にしたかったし諦めたくなかった。


幸い、ゆうくんはめんどくさい顔はしていても、俺が傍にいることを許してくれる。
俺はその好意に甘えて、好きだとゆうくんに告げている。

けして、思いが通じることもないのに、好きだと口にするだけで、現状に満足している。
友人の言葉を認めるわけではないが、ほんとよくやるね…って言葉を言われても仕方ないことかもしれない。


『ーいい加減、飽きないの?
毎度振られているんだろ?』

「1度のお断りであきらめるなんて、真の男じゃないね…。本当に好きならアタックのみ!」

『ーいや、おまえ、もう1度のお断りってレベルじゃないだろ…もう何回目だよ。』

「うーんと…そろそろ、100回?」

『ーおいおい…』

スマホ片手に呆れたやつの姿が、目に浮かぶ。
正確に数えたわけじゃないから、確実に100回とは言えないが、おそらく通算それくらい告白してきただろう。

「大丈夫。
101回目のプロポーズってドラマもあったし。
目標101回目でプロポーズだから。結婚式にはよんでやるよ」

『ーいやいや、無理だろ…。』

「諦めた瞬間に、そこで試合は終了ですよ」

『いや、おまえは始まってもいないし。
いわば、スタートラインにすらたてていない…』

「そ、そんなことは…」

『むしろ、毎日毎日うざい。
べたべたしてストーカーみたいで気持ち悪いって思われているかもしれない。俺だったらそう思う。』
「う…」

痛いことをついてきた友人に、言葉がつまる。
いや、確かに、自分でもすこーし、ほんのすこーし、やりすぎかなぁ…って思うこともあるけど。
でも犯罪にならない程度にしているし。

夜も12時以降は電話しないようにしてるし…!
節度を守っているし、「ゆうくんをおかずにしてます☆」なんて本人には宣告しなくなったし。(昔はしてました)


最近はゆうくんも色々許してくれるようになったし。
たまーに、たまーにだけど、俺にほほえんでくれることもあるし。
仕方ないですね…って。
ほほえんだ顔がまた可愛いんだよなぁ。
バカですか…って言葉も最近はちょっと柔らかくなったし…。
抱き着くのも、あきれつつ許してくれるし。やばい、思い出しただけでニヤケが止まらない。


「いまは粘りのある男が勝つんですよ。
ほら、この間結婚した女優。
あの女優も相手の男が何度も告白して、女が仕方ないなぁってかんじで折れたってニュースでやってたし…!
俺もきっとそのパターンで、いつかゆうくんに想いが通じて!」
『ほんと、おめでたいなぁ。
あいつが一度でもおまえに対して好きなんて言ってたか?』
「え〜と、テレビでは…!」

テレビでは、俺しか見えません〜。
俺大好き、俺に捨てられたら悲しくって泣いちゃう…捨てないで…って、これがまた健気な演技をするんだよ。ゆうくん。

もういくら演技だと知っていても、その演技の上手さに、俺はいつも参って参って仕方なくて…!
特に目!
目がね、もうほんとに恋する瞳なんだよ!
仕草も並の女の子より、恋する女を研究している感じであざとらしいほど可愛いし…!
なにより顔も女の子みたいに目がぱっちりだし。


『それは、営業用の…ってやつだろう。
素面で言われたことあるのか?』

俺がゆうくんに対してうっとりと妄想しているのに対し、あいつは一気に現実に戻す言葉を送ってきた。

「えっとぉ、それは…その…」

素面では、ない。
今までに、一度も。
むしろ、名前すらも呼ばれたことなかったりする。
おい…とか、あんた…とか、そこのとか…あなた…とか。
あ、あなたって呼び方は奥さんみたいで可愛くて気に入っています。

「ま、まだ俺たちは交流を深める段階だからさ。これからこれから」
『その交流期間、出会ってから何ヶ月目だ?』
「ええっと…は、半年…?」
『半年なんて、ませている中学生だってBぐらいはすませているんじゃないか?いや、ませてる中学生なら出会って3ヶ月くらいで告白から合体までやってるかも』
「そんなことありませんー!
純粋ピュアな中学生は3年くらい淡い恋心を抱いているはずだもん!お前みたいな節操ない中学生なんていないもん」
「もん…って…。
仮にもおまえは20すぎた大人で、結構昔は女泣かせてただろ…女泣かせの異名も持っていただろ?それが今じゃ男に泣かされて…」

確かに昔は…ゆうくんに知られたらどん引きされるくらい、女の子とつきあっていたけど。
断るのもめんどくさいし、据え膳食らえば男の恥…なんて思いながら女の子と寝てたけど。
知られたら不潔!って言われるくらい来る者拒まず去る者追わずでしたけど。
週刊誌に売られても仕方ない生活しちゃってましたが…そんなのいまや遠い昔の過去のことだから。


「ま、まぁ…そんなもんは過去。
過去は過去ですよ…」
『過去は過去ねぇ。ま、お前がいいならいいけどよ。
そんな操たてても、あいつは脈まったくないんだろ』
「ないってわけじゃ…。
最近は俺のラインやメールにもたまーに返してくれるようになったし…。
それに…えっと、そう不機嫌な顔もしなくなったし」
『あっそー。
おまえって…ほんと、プラス思考なのな…。ドエムっていうか。
なぁ、おまえ、素面であいつから好き!って言われたくないのか?』
「そりゃ、言われたいですとも。
心の底から言われたいですけども。
なに、バカなこと言っているの?」

愛しのハニーからの言葉ならどんな言葉でも嬉しいけど。
たとえ、死ねって言葉も最上級の愛の言葉に聞こえるけれども。
でも、やっぱり愛の言葉ってのは特別。
ゆうくんのあの可愛い顔で、好き…なんて恥ずかしがりながら言われたら…あああ、考えただけで悶える。にやけが止まらない。
俺、もうそんなこと言われたらこの世に未練なんてないかもしれない。


『今日さ、もしかしたら、言ってもらえるかもしれないぜ? 』
「は?
そんな簡単にいってくれるなら苦労はしませ」
『今日はエイプリルフールじゃん。
忘れてんの?』
「あ…そういえば…」

今日は、4月1日。
エイプリルフールである。

ああ、だからこいつ好きなんて送ってきたのね…っと納得。

「俺のこと、好きっていったの、嘘だったのね」
『あったりまえ。俺女好きだし。
おまえがどんな反応するか期待していたんだけど、おまえは案の定だしな。つまんね…』
「なに、俺も…って返事期待してたわけ?
無理無理。おまえなんて」
『俺もおまえなんて願い下げだ。お前みたいな我が儘で自己中で甘ったれなやつ』
「俺の甘えも我が儘も、ゆうくん限定です」

ほかの人間に演技ならともかく、素では甘えられませんね。
俺って意外にクールな人間なので。甘えるのは恋人のみです。


『ま、お前のことはおいておいて…だ。今日はエイプリルフール。うそついてもいい日だろ?
一応、カメラ回ってなくても好きだ…って言ってくれるかもしれないぜ?』
「そんなカメラなしに言ってくれるもん?」
『試してみればいいだろ。今日、自分のこと好きか、って。
嫌いです、って言われたら今日はエイプリルフールだから本当は好きなんだな、ってふってみたら好きって返してくれるんじゃねぇの?』
「はぁ…」

ウソな言葉で、言われてもねぇ…。
本気でいってくれなきゃ意味ないんだけど。

 それに、今日エイプリルフールだからゆうくんの言葉は全部嘘だね…!なんて子供っぽいこと言っても、ゆうくんなら、はいはいそれで…?で終わる気がする。
いや、気がするじゃなくて、確実にいうと思う。
ゆうくんそんなに冗談にのってくれる性格じゃないし。


でも、演技もしてない、素面のゆうくんが俺に好きだって言ってくれたら。
一回でも、ちゃんと、俺のこと好きって言ってくれたら。

そしたら。
たとえ嘘でも…俺、嬉しくってどうにかなっちゃうかもしんない。



 それから、朝からなんやかんやとあいつとラインでやり取りしていたら、マネージャーの琴音さんが迎えにきたので、車で仕事場に向かった。

結局、ゆうくんには、なにもメッセージも送れないまま。
どこか消化不良な思いを抱きながら、仕事をこなしていた。


「エイプリルフール…か…」
午前中。撮影の合間の休憩時間。
はぁ…と、スマホ片手に、溜息をひとつ。
スマホ画面には、ラインのアプリが開いており、ゆうくんとのやりとりが表示されている。

「ゆうくん…」
ひとりごちて、思わず呟いちゃうのは、やっぱりゆうくんの名前。

今日は、午前中は雑誌の写真撮影だった。
そんなに疲れる仕事でもないし、カメラマンは何度か仕事した人で撮影はスムーズに進んだというのに、自然とため息が出てしまった。
いつもは休憩中、今さえあればゆうくんとラインしたりしているのに。


「どうしたのよ。なんか黙っちゃって」
目敏い俺の担当の敏腕マネージャーの琴音さんは、俺の落ち込んだ様子にやっぱり気づいたようで、差し入れのクッキーの箱片手に訝しがった様子で声をかけた。


「いつもはゆうくんゆうくん、で携帯ずっと弄っているのに。
なに、ゆうくんに振られた?
いつものことじゃない…」
「いつものって…」
「だって、いつものことだもの。他にどんな言い方があるの」

琴音さんは悪びれもさず、へらりと笑いながらいう。
そりゃ、そうだよ…。俺がふられるのはいつものことだよ。うう…。
どうせ、俺は万年ふられ男だよ。


「で、なんで今日はいつになく落ち込んでいるのよ?」

はい、と言葉とともに、クッキーを手渡された。
スタッフさんからだろうか。それとも琴音さん直々の差し入れか。
貰ったクッキーは俺が好きなメーカーのクッキーだった。

貰ったクッキーを口にほおばりながら

「今日、朝からゆうくんにメールもラインもしてなくて…」
と、つい落ち込んでいる理由を白状してしまう。


「あら、珍しい…。
なに、押してダメならひいてやる作戦でもしているの?」
「いや…、そんな作戦はするほど、余裕なんてないし。
そんな作戦したら、そのままフェイドアウト間違いなしじゃない?俺の場合。
俺、まったくゆうくんの眼中にないしさ…。」

うう。自分で言っていて悲しくなってきた。
でも、ゆうくんみたいな本当はクール子に、押してダメならひいてみろ作戦なんかやっちゃったら、もういいですよ…って逃げられちゃいそう。
ゆうくんといえば、トップ俳優になることくらいしか熱くならないし。
ほかのこととなると、さらっと受け流しちゃうし。


俺、ゆうくんのことになると、ほんと自信ないんです。
キャーキャー言われて、ライブでは俺様な台詞連発しているのに。
中身ほんと、ヘタレでいやになる。


「今日ってほら、エイプリルフールじゃん。
だから…その、ね…」
「なにが、その、ね…よ…。
恥ずかしがっても、意味わからないし可愛くもないわよ」

うう…。意地の悪いマネージャーである。
人が落ち込んでいるのは、めざとく見つけるくせに。


「で、なによ…」

琴音さんは、クッキーをむさぼりつつ、俺に話を促した。
ちょっと女々しいし恥ずかしいなぁ…と思いつつも、黙っていれば琴音さんから激しい糾弾がくること間違いなしなので、仕方なく口を開く。


「その…俺の好きって、言葉を嘘ってとられたらいやだな〜って…。
いや、ゆうくんはそんなエイプリルフールなんて気にする柄じゃないってわかってますけど。
わかっちゃいますけど…。
でもでも、万が一、嘘ってとられちゃったらいやだなって…。
いつも、俺は誠実に真実を告げたいな…って。

そんな風に考えてたらライン送れなくなってしまって、なんか悶々としてため息が零れたんです。
そんな理由です、ため息をついていたの」

そんな訳で、どうもいつものようにゆうくんすきすきエンジンがかからなくて…といえば、

「なに、そんなことで落ち込んでたの。
ばっかみたい」

案の定、琴音さんは、呆れた顔である。

「好きって言葉を疑われるのがいや?
そーんなことであんな深刻な顔してたの?」
「琴音さんにはそんなことでも、俺には重大なことなんですよ〜!」

この魔女マネージャにはオトコノ純情ってものがわからないんだね!
この淡い恋心がわからないなんて乙女失格だよ。
拗ねたように口をとがらせて言えば、琴音さんははいはい、と俺を窘めた。


「はいはい、純情です、純情ですわね。
ああ、素敵素敵。見習いたいわぁ。同性でもそんなおおっぴろげに好き好きっていえて。ああ、ほんと、見習いたいわぁ」
「そんな人の純情を馬鹿にしているから、琴音さんはいつまでたっても結婚どころか、彼氏ができないんですよ」
「なにか言った?」
「イエナニモ…」

小声で言ったのに…。地獄耳である。
もうすぐアラサーの琴音さんにとって、この話は禁句なようだ。


「俺の言葉を、ゆうくんにだけは嘘だって思われたくない…好きって言葉、嘘と捕らえられたくない」
「はいはい…。ったく、携帯貸しなさい」
「え…って、琴音さん…!」

俺が答える前に、俺のスマホは琴音さんの手にわたっていた。
というか、奪われていた。
琴音さんは、俺が打てないほどの素早さで、スマホをタップしている。


「あ、あの琴音さん…?なにを…」
「よし、送信っと…。返すわ」

投げられたスマホを慌てて拾う。
スマホには、メールが1件送信されました、と画面にかかれていた。

「は…え…」

慌てて、メールを開けばそこには

“ごめん。もう、俺、ゆうくんのこと諦める”の文字。

諦めるって…、これ、なに。
こんな文章、俺絶対に打たないし。
それに、もうこれ送信されてる…?


「な…、こ、琴音さん…!あ、あんたなんてことを…!」
「も〜、いいじゃない。あんたがグダグダしているからでしょ」
「こんなの送って、ゆうくんが本気にしたらどうするんですか!」

俺、今ゆうくんには嘘でも俺の気持ちを疑ってほしくないって言いましたよね?
確かにいいましたよね?

なに、俺とゆうくん仲違いになるようなことしちゃってくれているんですかー!
マネージャーのばかぁ!!


「ああ、どうしよう…なんて返信しよう…」
「そんなすぐ、返信しちゃダメよ。
せっかくひいている振りしているのに。
ゆうくんがあんたが諦めたらどうするか、反応を見ましょうよ」
「反応見ましょうって…!そんな場合じゃ」
「あんたもね、ゆうくんを追いかけ回してもう半年よ?そろそろ、決心固めなさい」
「け、決心…」
「いいこと?今日中に、ゆうくんがあんたに連絡とらなかったら、もうゆうくんのこと諦めなさい。
正直、あんたに脈はないわ。あんたがどれだけ思おうが、ゆうくんにあんたの思いが通じることは0。
なしに近いわ」
「そ、そんな…」
「私も敏腕マネージャとして、自分が担当するタレントにそんな叶わない恋をしてほしくない。
ってことで、今日ゆうくんからメール返信がこなければゆうくんのことは諦める。
これは、マネージャー命令です」

なんという横暴な。
ヒドすぎる。
好きな人と無理矢理離すなんて…。
悪魔だ。魔女だ。

いくら自分が彼氏がいないからって、こんなの…。

「そんなの…」
「こないって?自信ないの?」
「自信なんて、ないに決まっている…」

俺がゆうくんを一番好きでいられる自信はある。
この気持ちは本物だと大声でいえる。

でも、ゆうくんは俺の10分の…いや、100分の1さえも思ってくれてないだろう。

いつも自分さえ好きなら…って好き好き言っているけど。
それは、俺の自己満足にすぎなくて…。
俺が好きだなんて言わなければ、ただの友人でいられるかも怪しくて。

「俺とゆうくんは…俺がただ一人で想っているだけの一方通行なんだから…。
俺が勝手に思って、勝手に舞い上がっているだけなんだから」
「太一…」
「でも、仕方ないじゃん。好きなんだから…。思うくらい、いいじゃん。別に最初からこの気持ちが叶うなんて思ってないよ…ただ、好きなんだもん」

うう…目が、つーんとしてきた。
男らしくない。
崩れた顔を見られたくなくて、うつむいた。

気まずい空気が楽屋に蔓延する。
と、そのいたたまれない空間から助けてくれるように、遠慮がちに楽屋をノックされ、「あの〜、今から大丈夫ですか?」と声をかけられた。


「なんだか気落ちしてるけど…いける?」
「誰のせいですか…」
「ごめんなさいね。そこまで落ち込むとは思わなくて」
「…大丈夫ですよ…、なんたって、俺、プロですから…」

ゆうくんからのメール…ちょっと、いや、かなり気になるけど。
お仕事はきちんとしないと。

俺は、自然な笑顔を作り、スタッフさんの元へ走り寄った。



撮影は順調に進み、予定通り午後2時にはすべて終わった。
俺といえば、やっぱり気分は浮上していない。
「はぁ」と浮かないため息を零しながら、楽屋でスマホとにらめっこしていた。

さっきのメールは嘘だからね!
早くそう打てばいいのに、どうでもいい返事を返されるのを怖がっている。
ゆうくんの顔でもみれば、きっとこんな不安なくなると思うんだけど、あいにく今日は一緒の撮影はなかった。
ゆうくんの顔を見れないから、余計不安が募っていく。


「はぁ…」
「ああ、もうヤダヤダ。今をときめく人気俳優様が」

琴音さんは、背後にダークオーラを纏う俺にやだやだこんなのと一緒にいられない、といいながら、楽屋の扉を開けた。
出て行くなら早く出て言ってくれ。
そう思っていると…

「あらぁ?」
琴音さんは、気色ばんだ声を出した。
誰かきたのだろうか?
背後は振り返らずに鏡を見ながら、扉を伺うと…。

「あ、あの…。すいません、急に…」
なんと、そこにはゆうくんの姿があった。
近くで撮影でもしていたのか、猫耳パーカーというラブリーすぎる衣装をきている。
ちなみに、下は膝が隠れるくらいの半ズボンだ。
何これ、可愛い…。
頑張っている俺へのご褒美…

「ゆうくん…!!」
鏡で見るんじゃなくて、実物が見たくて楽屋入口に振り返る。
俺の姿をみとめた途端、ゆうくんはビクリと身体を跳ねさせて、不自然に視線をさ迷わせている。


「あの、近くまできたから…挨拶に…、その…」
「うん、うん。そうなの。そうだ、ゆうくん。ちょっとあいつの相手してあげてくれない?私、これから打ち合わせなの。1人じゃ嫌っていうから」
「…え…」

お願いよ、そんなことを言いながら、琴音さんはガッチリとゆうくんの肩を掴んでいる。
琴音さんのあの攻撃から逃げられた俳優は数少ない。
案の定ゆうくんも、琴音さんのお願いに負けて、俺の楽屋に招かれた。

「んふふ、じゃ、あとよろしく。いい、ちゃんと聞くのよ?」
琴音さんは、最後にしっかりと俺に忠告をして、楽屋を出た。
楽屋には、ゆうくんと2人…

美味しすぎる状況に、ついつい興奮して鼻血が出そうになる。
そんな興奮している俺とは対照的に、ゆうくんは不機嫌な様子でしばらく俺を見ていた。

「あれ、どういうこと」
言葉を切り出したのは、ゆうくんからだった。

「へ?」
「あの、メールだよ…!いつもはうざいくらいライン送っているのに、今日はあのメールだけで…しかもなんにもそのあと返さないし…」
えーと、ゆうくん。怒ってる…?
いきなりあんなメール送ったから?
俺が諦めるって言ったことに対して、怒っている…の?
もしかして、諦めてほしくないって思ってる?
俺に詰めかけるゆうくんは、いつも通り不機嫌なんだけど…でもその表情が必死で。
あんなに憂鬱だったのに、俺は詰めかけるゆうくんに、顔が綻んでしまった。


「嘘なんだ」
「嘘…?」
「あれ、俺が書いたんじゃなくて、琴音さんが書いたんだ」
「琴音さん…」
ゆうくんは、呆然とつぶやく。
しかし、すぐにハッとして
「お前が書いたんじゃないんだな?」と念をおすように俺に詰め寄ってきた。

「う、うん。俺じゃないよ」
「そう…、ならいい」
用はすんだとばかりに、ゆうくんは俺に背を向けた。

「ねぇ、ゆうくん。今日はエイプリルフール、なんだって。」
「…エイプリルフール」
「うん。ねぇ、ゆうくん、俺のこと、すき…?」

背中越しに尋ねると、ゆうくんはしばし沈黙した。
嘘でも好きって言ってくれないのかな…なんてしょんぼりしていると
「お前は…」
「ん?」
「お前は、どうなんだ」

逆にゆうくんの方から問い返された。
「俺は…好きだよ」
「…エイプリルフールがどうのこうの言っていたのに、いつも通りなんだな」
「うん。だって、嘘でもゆうくんが嫌いなんて言えないし、この気持ちに嘘はないからね。嘘の日だからって、嘘つきたくないし」
「嘘でも…」
「そう。俺はいつだってゆうくんに対しては誠実な男でいたいの」

俺の言葉に、みるみるうちにゆうくんの耳が赤くなっていく。

「お前はなんでそんなこっぱずかしい台詞を男の俺の前で言えるんだ」
「なんで…って、好きだから…?」
「だから、そんな…!」

ああ、可愛いなぁ…。
そう思っていたら、自然と身体が動いて。
俺は背後からゆうくんを抱きしめていた。

「ゆうくん…、ね、ゆうくんは…嘘でも好きって言ってくれない?」
「……」
「ね、一年に一回だし。このとおり…!」
頼み込む俺。
俺のこと、好きだって言えよ≠ネーんてかっこよくも言えない俺は、こうやって頼むしかないわけで。

「お前は、嘘でも言いたくないって言ったよな…。俺も、嘘でそんな言葉、言いたくない」
「え…?」
「だから…、俺だって…、嘘では好きなんて言いたくないってことだよ。特にお前には」
「俺…?それってどういう…」

尋ねようとしたところで、PIPI…と携帯電話が会話を遮った。
しぶしぶゆうくんから離れて、携帯にでれば、相手は琴音さんだった。
琴音さんいわく、次の仕事の予定を伝えるのを忘れていたらしい。

そんなの後でいいのに…なんて思っていたら、ゆうくんは俺を置いて楽屋から出て行ってしまった。
ああ、ゆうくんが言っていた言葉の意味知りたかったのに。
ゆうくんは、なんで俺に嘘をつきたくなかったんだろう。

結局、エイプリルフールなのに、好きって言って貰えなかったな…なんて落ち込んでいると、ゆうくんからメールがきた。

なんだろう?なんでわざわざメール?
今さっきまでいたのに、言い忘れたことでもあったのかな…?と何気なしにメールを開けば

『諦めるなんて、なんかモヤモヤするからもう送るな』の文字。
それから、『好きなんかじゃ絶対にないけど、お前のことは嫌いじゃないから。好きじゃないけど、お前は俺の大事なユニットのパートナーだから。けして、好きなんかじゃないけど、お前がいつもと違うと俺も調子くるうから。お前は今まで通りでいろ』

なんて、ツンデレなゆうくんらしい返事が返ってきていた


「大事なユニットのパートナー、ね…」

ゆうくん、これどんな顔で打ったんだろう。
俺はニヤける顔をそのままに、琴音さんの指示に従い、次の仕事場に向かった


「ゆうくん、欧米ではさ、エイプリルフールって嘘をついてもいいのって午前中なんだって。知ってた?俺、午前中はゆうくんにメール、送ってないからね。だから、俺が言った言葉全部嘘じゃないからね」

メールにそう、返信をつけくわえて。












百万回の愛してるを君に