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「んで、この薬は…」
「そうですね、まずは自己紹介でもしましょうか…」
「自己紹介…?」
坂本珠樹と前回名乗ったではないか。
そう光正が口にする前に、目の前の男はソファに背を預けゆったりと微笑み口を開く。
「僕の名前は、高倉珠樹《たかくらたまき》
組織犯罪対策部…通称5課の刑事です」
「…高倉だと…」
覚えのある名前に、光正の眉が吊り上げる。
高倉…、吉澤が言っていた光正を調べているという刑事の名である。
「坂本珠樹じゃ…」
「ああ、坂本というのは、嘘です」
僕、嘘つきなんです。
坂本…改め高倉はあっけらかんと微笑むと胸ポケットから黒い警察手帳を取り出した。
「刑事…」
「ええ。吉澤刑事と同じ…。
警察なんです。国民の皆様の下僕ですよ」
「んなあほな…、お前が…刑事なんて…。そんなわけ」
だが、目の前に突き出された警察手帳は、依然吉澤に見せてもらった警察手帳と相違ない。偽装かもしれないとおかしなところがないか調べてみるが、見たところおかしなところはない。
階級と証票番号まできちんと記載されていた。
「高倉…って泰造が言ってた…」
「ああ、やっぱりゲロったんですね。
嫌な予感はしてたんです。
それで、どこまであの刑事は喋りましたか?」
「どこまで…って…」
光正は困惑しながらも、吉澤に危険な薬だと教えられたこととそれを組織犯罪対策部という組織が追っていることを話した。
「お前が…けいさつなんて…信じられねぇ…」
「信じられなくても、これが事実ですから。嘘と思ってくれてもいいですが、真実は変わりませんよ…」
「だって、千歳ちゃんは、お前はイタリアから弟を探しに来たバリスタだって…」
「あれも嘘です。
店長にいった言葉の半分は嘘ですよ。
僕はアメリカに留学はしたことはありますが、もう5年以上日本暮らしですし、育ちもこっちですしね。
イタリアのハーフというのも嘘です」
「…つまり?」
「僕はわざわざ弟を探しに日本に来ていませんし、バリスタでもなんでもありません。全部嘘です」
「嘘…だあ?なんでわざわざ嘘なんてついて…」
偽名を使い、さらには経歴も偽ってなにがしたいのだろう?
何のためについた嘘なのか…?
光正が怪訝な瞳で見つめると、高倉は肩を竦めて苦笑した。
「それは、あの喫茶店に潜り込みたかったんですよ。貴方に近づくためにね」
「俺…?」
「ええ。僕ら組織犯罪対策部は…いえ、僕は貴方を追っていました。
個人的な因縁もあってね」
「因縁…?俺がお前になにかしたのか?」
記憶をどれだけ探っても、高倉の顔に覚えはないが、実は知り合いだったのだろうか?
初対面だと思っていた再会も、実際は2度目…もしくはそれ以上にあっていたのだろうか。
「その話はおいおいするとして…。
今は貴方がのんでしまった薬の話をさせてください。
貴方がのんだ薬の名前は、スティンガー。
元々は化学兵器…また生物兵器として、とある国を崩壊させるために開発された薬です」
高倉はニコニコしていた顔を一転させ、顔を引き締めると真面目な顔で語り出した。
「兵器…?」
「はい。元々この薬は、国を陥れる…国家転覆を目的に作られました。
強い中毒性、そして薬の性質…で。
貴方も体験したとおり、この薬を飲めば人の何倍も身体は敏感になります。身体のどこもかしこも、性感帯になり激しいオーガズムを得ることができます。
また、どんなに淡泊な人間も薬の影響で、快楽を貪欲に追い求めようとします。
クスリを飲んでしまった人間はその強い快楽に依存し、より強い快楽を求める…。
このクスリ自体の幻覚症状はありません。
麻薬のように健康状態を損ねる…といったこともありません。
ですが、問題は強い中毒性です。
実際に、この薬が蔓延したせいで、国として機能しなくなった国があります」
「んな馬鹿な…。そんなニュース、聞いたことが…」
「薬の性質上、ニュースにし辛いのと毒ガスや爆弾に比べて、目に見えて人体への危機はありませんから。
実際に、強い快感を得るためのセックスドラック、しかも健康状態に異常を起こすことはなく幻覚症状を起こしたりもしない。
取り締まる必要はないのでは?なんて呑気に考えている輩もいました。
このクスリの恐ろしいところは、じわじわと自分でも気づかぬうちに支配されていくことです。そして、人に広がっていくことです」
「支配…?」
「スティンガーというクスリは、身体の組織細胞を変える薬なんです。
主に変わるタイプは2種類あります。
1つは貴方のような身体シュメッターリング。
シュメッターリングの特徴は、自分の意思とは関係なく男を誘う身体になります。
そして、シュメッターリングの対の存在が、シュピネです。
この2タイプになる薬を総合して、スティンガーといいます。
つまり、貴方は僕に与えられたスティンガーのクスリによって、シュメッターリング…男を誘う身体へと変貌したのです。
ここまでで、なにか言いたいことは…?」
身体を変える薬。
俄かには信じられない。
が、実際、母乳が出て俄かには信じられないことが起こったのも事実。
嘘だと否定したいのだが、実際に起こったことは変えられない。
あのクスリを服用するまでは、母乳など出たことはないし、そもそも男の精液を口にしただけで射精したことなどないのだから。
「言いたいことは、だと…?
んなもんありありだわ…。なんだ、人におかしなもん飲ませやがって…!身体を変えただと?冗談じゃねぇ…!」
「だから、冗談じゃありませんって。嘘じゃなく、マジです」
「余計タチ悪いだろうが…!」
大声で怒号をあげて、光正は机を殴りつけた。
怒鳴り声を荒げる光正に高倉はぴくりとも表情を変えず話を続ける。
「母乳が出るといった効力も、シュメッターリングの特徴の1つです。
そして、もう1つ。
シュメッターリングは、シュピネの言うことを絶対に逆らえない…。
シュピネの体液に興奮し、欲するのです。
ここまで言えばおわかりかもしれませんが、僕の身体はシュピネ。
貴方の対にあたる存在なのです。
この薬はセックスドラックとしても強力なのですが、身体自身を変える…そして精神をも蝕んでしまうので危険視されているのです」
「…ちょっと待てよ、お前警察なんだよな?
この…スティンガーってとっても危険な薬なんだよな?
なに赤の他人の俺に飲ませてるんだよ…そんで、なんで自分でものんでんだよ…」
その危険なクスリを取り締まるはずの警察が、何故自らそのクスリを飲んでしまっているのか。
そして、そのクスリを警察関係者ではなく光正に服用させたのか。
問いただせば、高倉はしれっとした様子で「邪の道は邪です」と答えた。
「この薬を広めている胴元を捕まえたい為ですよ。
貴方には、胴元を捕まえるための、囮になってほしいんです…。つまり、僕の相棒となって、その身体を使って胴元をあぶり出して欲しいんです」
「俺を囮…?相棒??」
「はい。シュメッターリングのフェロモンで、日本にいる胴元であろうシュピネを捕まえたいのです。
シュピネは魅力的なシュメッターリングを好みます。
より淫乱で、魅力的な蝶を好み欲しがるのです。
だから、僕の相棒になり、このクスリをばら撒いている黒幕を一緒に追ってほしいんです」
それも嘘かー?
出かかった言葉は、真剣な高倉の表情をみて消え去った。
嘘をついている表情には見えない。
だが、おいそれと素直に言葉を聞く気にもなれない。
勝手に薬を飲ませた挙句、その薬は危険な薬でなおかつ囮になれ…といっているのに対し、誰が素直に言うことを聞けるだろうか。
勝手に薬を飲まされた挙句、素直に言うことを聞くなど、光正のプライドが許さなかった。
「は…、勝手にやってろ。そんな話きけるわけねぇだろ…。
相棒だと?ふざけたこと言ってんじゃねぇ」
「きけなくても、やってもらわないと困ります。モタモタしているうちに、感染者は多くなってしまいますから。取り返しのつかないことになる前に僕と…」
「俺のしったことじゃねぇよ!」
光正は立ち上がると、話は終わりだ!と探偵事務所のドアに向かう。
「待ってください…!」
高倉は光正の腕を取ると、すばやくその唇にキスをした。
「…んっ…」
ぞくり…と、絡まった唾液に全身が震える。
視線が、混じり合う。
殴りたい…ーだが、手は動かず高倉の舌を受け入れている。
高倉のキスは巧みで、反論する言葉も封じられてしまう。
高倉は口付けで大人しくなった光正の肩を抱くと、顔を覗き込んだ。
「……もう、貴方は逃げられないんですよ…。蜘蛛の巣に捕まった蝶は逃げることなど不可能なんです。
だから…大人しく、受け入れてください…」
「…っ…れが…」
「シュメッターリングの身体は男を誘います。そして、自身も男に抱かれ快楽を得る身体へと変貌するのです。が、その発情した身体を鎮めることができるのは、対の存在のシュピネだけなのです…。
つまり、貴方の身体はどれだけ否定しようと僕を求めてしまうんですよ…。」
高倉は光正の耳元に顔を寄せる。
「ねぇ、光正さん。大人しく僕の奴隷になってください=v
「…ーーーーっ!」
低く囁かれた言葉に、魔法がかかったように頷きそうになる。
男の言うことを聞かなくてはいけない…!
男の言葉を聞かなくては…!男の言葉は絶対である。
まるで洗脳されたように、頭の片隅で誰かが囁いている。
高倉の言うことを聞かなくては、生きていけない。
高倉がいなければ、自分は生きていけないと。
その声は光正を従わせようと、語りかける。
「だああああああ、うるせぇぇぇ!!」
光正は爪が肉に食い込むくらいぎゅっと拳を握りしめると、そのまま探偵事務所のいきおいよく壁を殴りつけた。
どごっと派手な音とともに、殴りつけた探偵事務所の壁に穴があいた。
「誰がお前の指図なんてうけるか!お前なんかの言うことを聞かねぇよ」
怒鳴りつけると、光正は高倉を一度も振り返ることなく探偵事務所から出ていった。
「そうですね、まずは自己紹介でもしましょうか…」
「自己紹介…?」
坂本珠樹と前回名乗ったではないか。
そう光正が口にする前に、目の前の男はソファに背を預けゆったりと微笑み口を開く。
「僕の名前は、高倉珠樹《たかくらたまき》
組織犯罪対策部…通称5課の刑事です」
「…高倉だと…」
覚えのある名前に、光正の眉が吊り上げる。
高倉…、吉澤が言っていた光正を調べているという刑事の名である。
「坂本珠樹じゃ…」
「ああ、坂本というのは、嘘です」
僕、嘘つきなんです。
坂本…改め高倉はあっけらかんと微笑むと胸ポケットから黒い警察手帳を取り出した。
「刑事…」
「ええ。吉澤刑事と同じ…。
警察なんです。国民の皆様の下僕ですよ」
「んなあほな…、お前が…刑事なんて…。そんなわけ」
だが、目の前に突き出された警察手帳は、依然吉澤に見せてもらった警察手帳と相違ない。偽装かもしれないとおかしなところがないか調べてみるが、見たところおかしなところはない。
階級と証票番号まできちんと記載されていた。
「高倉…って泰造が言ってた…」
「ああ、やっぱりゲロったんですね。
嫌な予感はしてたんです。
それで、どこまであの刑事は喋りましたか?」
「どこまで…って…」
光正は困惑しながらも、吉澤に危険な薬だと教えられたこととそれを組織犯罪対策部という組織が追っていることを話した。
「お前が…けいさつなんて…信じられねぇ…」
「信じられなくても、これが事実ですから。嘘と思ってくれてもいいですが、真実は変わりませんよ…」
「だって、千歳ちゃんは、お前はイタリアから弟を探しに来たバリスタだって…」
「あれも嘘です。
店長にいった言葉の半分は嘘ですよ。
僕はアメリカに留学はしたことはありますが、もう5年以上日本暮らしですし、育ちもこっちですしね。
イタリアのハーフというのも嘘です」
「…つまり?」
「僕はわざわざ弟を探しに日本に来ていませんし、バリスタでもなんでもありません。全部嘘です」
「嘘…だあ?なんでわざわざ嘘なんてついて…」
偽名を使い、さらには経歴も偽ってなにがしたいのだろう?
何のためについた嘘なのか…?
光正が怪訝な瞳で見つめると、高倉は肩を竦めて苦笑した。
「それは、あの喫茶店に潜り込みたかったんですよ。貴方に近づくためにね」
「俺…?」
「ええ。僕ら組織犯罪対策部は…いえ、僕は貴方を追っていました。
個人的な因縁もあってね」
「因縁…?俺がお前になにかしたのか?」
記憶をどれだけ探っても、高倉の顔に覚えはないが、実は知り合いだったのだろうか?
初対面だと思っていた再会も、実際は2度目…もしくはそれ以上にあっていたのだろうか。
「その話はおいおいするとして…。
今は貴方がのんでしまった薬の話をさせてください。
貴方がのんだ薬の名前は、スティンガー。
元々は化学兵器…また生物兵器として、とある国を崩壊させるために開発された薬です」
高倉はニコニコしていた顔を一転させ、顔を引き締めると真面目な顔で語り出した。
「兵器…?」
「はい。元々この薬は、国を陥れる…国家転覆を目的に作られました。
強い中毒性、そして薬の性質…で。
貴方も体験したとおり、この薬を飲めば人の何倍も身体は敏感になります。身体のどこもかしこも、性感帯になり激しいオーガズムを得ることができます。
また、どんなに淡泊な人間も薬の影響で、快楽を貪欲に追い求めようとします。
クスリを飲んでしまった人間はその強い快楽に依存し、より強い快楽を求める…。
このクスリ自体の幻覚症状はありません。
麻薬のように健康状態を損ねる…といったこともありません。
ですが、問題は強い中毒性です。
実際に、この薬が蔓延したせいで、国として機能しなくなった国があります」
「んな馬鹿な…。そんなニュース、聞いたことが…」
「薬の性質上、ニュースにし辛いのと毒ガスや爆弾に比べて、目に見えて人体への危機はありませんから。
実際に、強い快感を得るためのセックスドラック、しかも健康状態に異常を起こすことはなく幻覚症状を起こしたりもしない。
取り締まる必要はないのでは?なんて呑気に考えている輩もいました。
このクスリの恐ろしいところは、じわじわと自分でも気づかぬうちに支配されていくことです。そして、人に広がっていくことです」
「支配…?」
「スティンガーというクスリは、身体の組織細胞を変える薬なんです。
主に変わるタイプは2種類あります。
1つは貴方のような身体シュメッターリング。
シュメッターリングの特徴は、自分の意思とは関係なく男を誘う身体になります。
そして、シュメッターリングの対の存在が、シュピネです。
この2タイプになる薬を総合して、スティンガーといいます。
つまり、貴方は僕に与えられたスティンガーのクスリによって、シュメッターリング…男を誘う身体へと変貌したのです。
ここまでで、なにか言いたいことは…?」
身体を変える薬。
俄かには信じられない。
が、実際、母乳が出て俄かには信じられないことが起こったのも事実。
嘘だと否定したいのだが、実際に起こったことは変えられない。
あのクスリを服用するまでは、母乳など出たことはないし、そもそも男の精液を口にしただけで射精したことなどないのだから。
「言いたいことは、だと…?
んなもんありありだわ…。なんだ、人におかしなもん飲ませやがって…!身体を変えただと?冗談じゃねぇ…!」
「だから、冗談じゃありませんって。嘘じゃなく、マジです」
「余計タチ悪いだろうが…!」
大声で怒号をあげて、光正は机を殴りつけた。
怒鳴り声を荒げる光正に高倉はぴくりとも表情を変えず話を続ける。
「母乳が出るといった効力も、シュメッターリングの特徴の1つです。
そして、もう1つ。
シュメッターリングは、シュピネの言うことを絶対に逆らえない…。
シュピネの体液に興奮し、欲するのです。
ここまで言えばおわかりかもしれませんが、僕の身体はシュピネ。
貴方の対にあたる存在なのです。
この薬はセックスドラックとしても強力なのですが、身体自身を変える…そして精神をも蝕んでしまうので危険視されているのです」
「…ちょっと待てよ、お前警察なんだよな?
この…スティンガーってとっても危険な薬なんだよな?
なに赤の他人の俺に飲ませてるんだよ…そんで、なんで自分でものんでんだよ…」
その危険なクスリを取り締まるはずの警察が、何故自らそのクスリを飲んでしまっているのか。
そして、そのクスリを警察関係者ではなく光正に服用させたのか。
問いただせば、高倉はしれっとした様子で「邪の道は邪です」と答えた。
「この薬を広めている胴元を捕まえたい為ですよ。
貴方には、胴元を捕まえるための、囮になってほしいんです…。つまり、僕の相棒となって、その身体を使って胴元をあぶり出して欲しいんです」
「俺を囮…?相棒??」
「はい。シュメッターリングのフェロモンで、日本にいる胴元であろうシュピネを捕まえたいのです。
シュピネは魅力的なシュメッターリングを好みます。
より淫乱で、魅力的な蝶を好み欲しがるのです。
だから、僕の相棒になり、このクスリをばら撒いている黒幕を一緒に追ってほしいんです」
それも嘘かー?
出かかった言葉は、真剣な高倉の表情をみて消え去った。
嘘をついている表情には見えない。
だが、おいそれと素直に言葉を聞く気にもなれない。
勝手に薬を飲ませた挙句、その薬は危険な薬でなおかつ囮になれ…といっているのに対し、誰が素直に言うことを聞けるだろうか。
勝手に薬を飲まされた挙句、素直に言うことを聞くなど、光正のプライドが許さなかった。
「は…、勝手にやってろ。そんな話きけるわけねぇだろ…。
相棒だと?ふざけたこと言ってんじゃねぇ」
「きけなくても、やってもらわないと困ります。モタモタしているうちに、感染者は多くなってしまいますから。取り返しのつかないことになる前に僕と…」
「俺のしったことじゃねぇよ!」
光正は立ち上がると、話は終わりだ!と探偵事務所のドアに向かう。
「待ってください…!」
高倉は光正の腕を取ると、すばやくその唇にキスをした。
「…んっ…」
ぞくり…と、絡まった唾液に全身が震える。
視線が、混じり合う。
殴りたい…ーだが、手は動かず高倉の舌を受け入れている。
高倉のキスは巧みで、反論する言葉も封じられてしまう。
高倉は口付けで大人しくなった光正の肩を抱くと、顔を覗き込んだ。
「……もう、貴方は逃げられないんですよ…。蜘蛛の巣に捕まった蝶は逃げることなど不可能なんです。
だから…大人しく、受け入れてください…」
「…っ…れが…」
「シュメッターリングの身体は男を誘います。そして、自身も男に抱かれ快楽を得る身体へと変貌するのです。が、その発情した身体を鎮めることができるのは、対の存在のシュピネだけなのです…。
つまり、貴方の身体はどれだけ否定しようと僕を求めてしまうんですよ…。」
高倉は光正の耳元に顔を寄せる。
「ねぇ、光正さん。大人しく僕の奴隷になってください=v
「…ーーーーっ!」
低く囁かれた言葉に、魔法がかかったように頷きそうになる。
男の言うことを聞かなくてはいけない…!
男の言葉を聞かなくては…!男の言葉は絶対である。
まるで洗脳されたように、頭の片隅で誰かが囁いている。
高倉の言うことを聞かなくては、生きていけない。
高倉がいなければ、自分は生きていけないと。
その声は光正を従わせようと、語りかける。
「だああああああ、うるせぇぇぇ!!」
光正は爪が肉に食い込むくらいぎゅっと拳を握りしめると、そのまま探偵事務所のいきおいよく壁を殴りつけた。
どごっと派手な音とともに、殴りつけた探偵事務所の壁に穴があいた。
「誰がお前の指図なんてうけるか!お前なんかの言うことを聞かねぇよ」
怒鳴りつけると、光正は高倉を一度も振り返ることなく探偵事務所から出ていった。