2話 悪魔の薬
朝、目が醒めると同じベッドで、裸の男が眠っていた。
そして、自分の姿といえば男と同じ、なにも纏わぬ姿であった。
男二人が裸で同じベッド。
仕置き屋の光正からすれば、この状況は何も初めてではない。
初めてではないのだが、相手が相手だけに起きがけの脳は思考停止してしまった。
「…え…と…」
昨夜なにが起こった?
そして、何故隣で眠る男は裸?
昨日の記憶。
仕置きがあると言われ、行ってみると隣に眠る王子…坂本がいた。
坂本はやってきた光正を部屋に入れるなりキスをし薬を飲ませ…
(そうだ…クスリのんでから身体が熱くなって頭真っ白になったんだ。
わけわかんねぇくらい、気持ちよくなって…。
それで…俺あいつの精液を口にした瞬間にいっちまった…)
昨日の記憶は、坂本に顔射され、あまつ顔についた精液を飲まされたところで終わっている。
坂本の精液を口にした途端、全身は震えて自分でも制御できないほどの射精感に襲われた。
あんな頭がおかしくなるほどの快感に襲われたのは、今までに一度もない。
それこそ、おかしなクスリのせいだったにほかならない。
(…クスリ、あれは麻薬だったのか…)
スティンガー。
坂本はあの薬をそう呼んでいた。
(そういえば、泰造が言ってたな…。
スティンガーは中毒性の高いクスリ。
組織犯罪対策部ってところが追っている…って言ってた。
そんでもって、その組織犯罪対策部ってとこは、泰造の話だと俺のことを調べているらしい、って。
麻薬なんて使ってない俺には、関係ない話だと思っていたけど…)
光正は警戒し、距離をとりながら坂本に視線を移す。
(まさかこの坂本が俺に接触しておかしなクスリを使うって予想していたんだろうか…。
そもそも、この坂本ってなんなんだ?なんで、警察が追っている薬を、ただの喫茶店の従業員の男が持っているんだ…?)
すぅすぅと寝息をたてて寝ている男は、昨日光正を組み敷いて獰猛な獣の空気を纏わせていた男と同一人物なのか?と首を傾げてしまうくらい、穏やかに眠っている。
眠っている寝顔は、眠れる森の美女ならぬ、眠れる森の王子であった。
ただ今は穏やかに眠っていても、またいつ目覚めて昨日の坂本になってしまうかもわからない。
昨日の坂本を前にして、また自分が昨日のような痴態を繰り広げない保証はない。
逃げるようで癪だが、昨日のようになにもできずに男に弄ばれぬだけましだ。
光正は急いで服をかき集め、逃げるように部屋から出ていった。
ホテルから出ると、朝の太陽光が眩しくて光正は目を細めた。
スマホを取り出すと、時刻は朝の9時だった。
ホテルに呼び出されたのが19時なので、丸12時間坂本と一緒にいたことになる。
ポッケにしまっていたサングラスをかけて、光正はダラダラと歩き出した。
(とりあえずこんなことになった、兄貴を締める。んでもって、泰造にでも相談するか…。あいつだったら、俺が変な薬飲まされたって言っても、信じてくれるだろ…。神保には秘密にしとかねぇとな。この俺がなにもできず喘いでいたとか知られた日にゃ、一生揶揄われるな…。)
そんなことを考えながら、探偵事務所に戻るとそこに室長である隆盛の姿はなかった。
(逃げたな…兄貴のやつ…)
基本的に、口では負けるがガタイのいい光正が本気で怒れば隆盛はひとたまりもない。
それがわかっているのか、光正が本気で怒っているときは隆盛はいつも姿を消す。
今日も、こうなることをわかっていたのだろう。
隆盛は朝から何処かへいっているようだった。
スマートフォンのアプリで連絡を入れても返事はなく、千歳も居場所を知らないという。
(ま、待ってりゃ帰ってくるだろ)
曲がりにも隆盛はこの探偵事務所の責任者である。
そう長い時間事務所を開けっ放しにはしないだろう。
光正は被っていた鬘を室長机に放り投げると、探偵事務所のソファに横になり、隆盛の帰りをまった。
探偵事務所に戻ってきて数時間後。
ガチャ、とドアが開く音とともに、うつらうつらしていた光正の意識は覚醒した。
「おい、こら兄…」
やってきた隆盛に昨夜のことを問いつめようと飛び起きて…視線に入った人物を見て固まる。
現れたのは、数時間前まで同じベッドで眠っていた坂本珠樹であった。
「数時間ぶりですね。お身体はいかがですか?」
坂本は、探偵事務所のドアを閉めてつかつかと光正に近づいてくる。
「…な、なに言ってやがる…。
数時間ぶり?数日ぶりの間違いだろ」
咄嗟に光正の口から出たのはバレバレの嘘であった。
昨日はサングラスに鬘を着用していたものの、朝になったらサングラスは外されていたし鬘なんてごまかし程度でしかないだろう。
1度くらいしか顔を合わせない仕置きのターゲットなら騙せたかもしれない。が、坂本とはすでに何度か顔を合わせているし、会話もしてしまっている。
「昨日のことをお忘れで?」
「忘れたもなにもお前とは会ってねぇし…」
「そうですか…では、」
思い出させてあげますよ。
坂本はそう一笑すると、ソファーにすわっていた光正の隣に腰を下ろした。
「…なん…」
「昨日、貴方に与えた薬は特殊な効力がありましてね…。
まず…ここ」
とん、と坂本は服の上から人差し指で光正の右胸を押した。
「…っ…」
途端、ビクビクと体が震えて、光正は身体を丸め蹲る。
「…てめぇ…」
「あはは、すっごい感じちゃいました?」
「…俺の身体に…なにをした…」
「…認めるんですね?昨日僕といたこと」
「……」
「あらら、だんまりですか?それとも、わからせてほしいです?」
僕に昨日されたこと。
坂本は光正の耳朶をなぞりながら、耳元で囁く
「…ぶっころしてやる…」
「おや…それは怖いですね」
坂本は愉快そうに笑うと、光正の頬にキスをし、
「でも無理ですよ。貴方はもう僕に逆らうことはできませんから」
と悪戯っぽく笑う。
「逆らうことができない…だと…」
「げんに昨日から僕に逆らえず、僕にされるがままじゃないですか?
口では強気なことを言っても…身体は…ってね。
ほら…、こうやって肌を撫でるだけで感じちゃうんじゃないですか?」
坂本は光正の服に手を滑りこませ、わき腹を撫でた。
坂本の冷たい手が肌を滑る。
くすぐったい…そうおもうよりも先に光正を襲ったのは、快感で。
ぞくぞくとした甘い旋律が背筋を轟かせる。
光正は身体を小さく痙攣させたまま、上目線で坂本を睨んだ。
「そんなににらんでも、上目づかいで誘っているように見えちゃいますよ」
「てめぇ…」
「そんなに唸って見せても、猫が威嚇しているようにしか見えませんねぇ。さしずめ、貴方は僕みたいなネズミにおちょくられる猫でしょうか?大きな身体が台無しですね…。振り払うこともできずに、ビクビクと体を跳ねさせて…」
「ふざけ…あ…」
坂本の指先が、陥没していた乳首をつまむとそのまま引っ張られた。コロコロと指先で乳首を転がされ、光正の口からは吐息が零れ落ちる。坂本は光正の反応をみながら、つまむ手を強めたりかと思えば触れるか触れないかの優しいタッチで撫でる。
「やめ…」
「だんだんと硬くなってきましたね?勃起してますよ。
貴方の乳首…」
「…くっ…」
「はは…乳首を弄ったらなにも言えないようですね?気持ちいんですか?」
「てめぇが…、こんな風にしたんだろ…うが…」
息も絶え絶えいうと、そうですね、と悪びれもせず坂本は笑う。
坂本の手で光正の陥没していた乳首はすっかり立ち上がり、硬く勃起している。
坂本は立ち上がった乳首の先に爪をたてたりやんわりと揉みこんだりと、玩具を見つけた子供のように無邪気に弄んでいる。
「たの…しいか…。こんなおっさんの乳首触ってよ…」
「ええ。とても楽しいです。貴方みたいな男らしい人が僕の手でこんなにかわいく喘いでいると思うと」
「喘いで…ねぇ…」
「素直じゃないですね。
涎までこぼしているくせに、認めないおつもりですか?」
「…っ」
口を開けば開くほど、淫靡な声が漏れて気持ちよさから口端から涎が落ちる。
これ以上坂本に喘ぎを聞かれたくなくて、光正は口元を手で覆い唇を噛み締めた。
「僕に喘いでいる声聞かれたくないんですか?低い声でとってもセクシーですよ?光正さん…。普段は男を組み引いて汚い言葉で男を罵っている男が、こーんな可愛くなっているなんて、貴方のお兄さんが知ったらどう思われるでしょうね?」
「……」
「お兄さんだけじゃなくて、店長や、吉澤刑事が貴方のこんな姿知ったら、どう思われると思います?
ねぇ、今、あそこのドアが開いたら…あなたの感じている顔、見られちゃいますね?
普段の貴方を知っている人が、今の貴方を見たらどう思われるでしょうね?気まずくて目を合わせられなくなるか…はたまた、自分も貴方を喘がせたいと思うようになるか…。
どっちになるんでしょう…。
誰かくるまでこのまま僕と遊びましょうか…?」
本気とも冗談ともとれぬ口調で坂本は言うと、光正の服をたくしあげた。
ピン、と主張した勃起した乳首がやけに卑猥に光正の目に入り、光正は顔を背けるが「駄目ですよ、ちゃんとみてください」と坂本に顎をとられた。 背けることができない現実に、光正は悔し気に眉間にしわを寄せる。
「そうですね…、吉澤刑事がこんなツンツンに尖った乳首見たら…いくら温厚で真面目そうなあの男も、襲いかかっちゃうんじゃないですかね?いや、それか…、男らしいあなたのイメージが崩れて大嫌いになるか…」
「……泰造と知り合い…だったのか…」
光正の名前を呼んだのも驚きだったが、それ以上に吉澤の名前が坂本の口から出たことに光正は驚く。
一体、この男は何者なのだろう?
そもそも、何故この男はセックスの前儀まがいなことをしているのか…。
「貴方の乳首、真っ赤になってますね…。
こうされるの、好きですか…?」
コリコリとしこりたった乳首は憂いた果実のようになっている。
坂本がやわからく抓ったり撫でたりするたびに乳首は硬くなり、全身にしびれるような刺激が広がった。
「どうやら貴方の乳首はずっと、ここをいじられたがったようですよ…」
嬲るように言われたが、吐息を零さぬように口を塞ぎ唇を噛んでいる光正には話の半分も入ってこない。
襲いかかってくる快感にビクビクと身体を跳ねさせ身悶えるだけである。
「…んああ…」
ぎゅ、っと乳頭を潰された瞬間、頭が、真っ白になった。
刹那、ピュと勢いよく坂本が弄っていた光正の胸から液体がこぼれ坂本の指を汚した。
「あ…やっと出てくれましたね…母乳」
「は…?ぼにゅ…?」
「はい、母乳です」
ペロと、坂本は親指を舐めると立ち上がった光正の乳頭をぐるぐると撫で回す。
母乳。
その言葉通り、光正の胸からは白い液体が流れていた。
「貴方も自分の出した母乳、舐めます?」
「な…なんで…母乳…なんて…」
「びっくりですよね、男で母乳なんて。
ねぇ、母乳出せて気持ちよかったですか?」
うん、気持ちよかったぁ…。
なんて、口がさけても…いや、死んでも言えるはずがない。
「てめぇ、いい加減、どういうことか説明しやがれ…」
光正が坂本の首根っこを掴んでも、坂本は表情ひとつ変えず、ニコニコ笑っている。それがまた気に障り、光正の強面の顔は凶悪になっていく。
「あはは…、一回出したらスッキリしました?
それとももう一回やります?」
「スッキリじゃねぇ!昨日からおかしなことばっかやりやがって…!俺の身体にナニをした!場合によっちゃ、タダじゃおかねぇぞ」
「タダじゃ…ねぇ…。ま、いいでしょう。説明します。フェアじゃありませんからね…。だから、その手、離してくれますか?」
坂本に言われ、しぶしぶ、光正は手を離すとソファから立ち上がり坂本の真正面の探偵事務所の出入り口近くのもう1つのソファに腰を下ろした。