18

約束の2日後の日曜日は、あっという間だった。
緊張しすぎて、土曜日は浮かれすぎて何をしたか覚えていない。
二人きりの飲み会で朝まで呑むことはあったけど、二人で遊びに行くのは初めてのことだった。

 日曜日は、あいにくの曇り空だった。
天気予報では、この後、雨か霙が降るらしい。
待ち合わせ場所へ30分前に出向き、夏目くんを待っていると5分もしないうちに夏目くんは待ち合わせ場所に現れた。

「…宮沢さん?」
「…あ、はい…」
「えっと、早いですね…」
「夏目くんこそ…」

いつものスーツ姿ではない、夏目くんの私服姿。
冬用のコートにジーンズ。
服しか違わないのになんだか新鮮な感じである。
夏目くんの視線から逃げるように俯いていれば、夏目くんは「じゃあ、行きましょうか」と僕の手をとった。

「夏目くん…あの、手…」

人通りが多い駅前で男同士で手を繋いでいたら、目立ってしまわないか…。
焦る僕とは対象的に、夏目くんは平然としている。
夏目くんは普段から注目を浴びることになれているのだろう。
案の定、道行く人からの視線が集まったが夏目くんは気にした様子はない。
僕の訴えるような視線はわかっているはずなのに、夏目くんはどこ吹く風だった。


「宮沢さん、今日はどこへ行きたいですか?
俺、どこでも付き合いますよ。
どうします、映画館、遊園地、水族館。
宮沢さんはどこか行きたい場所ありますか?」
「その中だったら…遊園地がいいです」
「遊園地、ですね。
じゃあ、あそこ、行きませんか…あのジェットコースターが有名な…」

夏目くんが行こうと誘ってくれたのは、会社の近くにある大観覧車が有名な遊園地だった。
夜になると鮮やかなイルミネーションが輝き、残業で疲れた心を癒やしてくれるあの大きな観覧車がある遊園地である。


「仕事でもないのに仕事場の近くに行くのは嫌ですか…?」
「嫌じゃないですよ」
「では、宮沢さん、絶叫系ってお嫌いですか」
「それも別に…」

絶叫系は嫌いではない。
僕が乗れないのは観覧車だけ。

「ほんとですか。
じゃあ、今日は制覇する勢いで遊びましょうね!」
「制覇ですか…」
「はい…。目指せ、全制覇です」

夏目くんはぐっと拳を握り僕へと微笑む。

「お、お手柔らかにお願いしますね…」
「はい!」

優しく微笑んでいるが、逃げられないと感じる重圧がある。
その時、僕は夏目くんのことを鬼軍曹と呼んでいる作家さんの気持ちが少しわかった気がした。


 宣言通り、夏目くんは遊園地につくやいなや、一番最初にジェットコースターの列に並んだ。
ジャットコースターは、一番スピードが出る落下時に写真をとってくれるもので、希望者はジェットコースターを乗り終えた後、記念に自分が映った写真を購入できるシステムになっていた。


「宮沢さん、ジェットコースターは落下する時思いっきり手を上げて叫ぶとストレス解消できますよ。ほら、次の落下地点で思いっきり叫びますよ」
「え…、うわわあああ」
「宮沢さん、そんな大きな声も出せるんですね…。またきますよ」
「えええ」
「ほら、手、あげて」
「無理だよ…」

どんな時でも冷静に対処する夏目くんなのに、ジェットコースターに乗っているときの夏目くんはとても子供っぽい。
僕まで子供の頃に戻ってしまったように、童心に返り我を忘れて叫んでしまった。

「お疲れ様でした。宮沢さん。結構叫んでましたね。宮沢さんあんなに声が出せるなんて初めて知りました」
「だってもうなにがなんだかわからなくなっちゃって…。」
「怖かったですか?」
「ううん、楽しかったですよ」
「それは良かったです。あ、写真できたみたいですね…」

出来上がった写真を見せてもらうと、案の定、僕は取り乱していておかしな顔をしていた。
夏目くんはこんな時でも涼しい顔である。
イケメンは、こんな時でもおかしな顔にならないなんてずるい。
初めてのツー・ショット写真がこんな変顔している写真なんて…
落ち込む僕に対し、夏目くんはパンフレットを見ながら、次の目的地を決めていた。


元気だなぁ。
夏目くんを横目に、僕は写真をいそいそとカバンにしまった。


写真といえば…。
2日前送られた夏目くんと椎名先生の親密そうな写真。
やっぱり、二人は付き合っているのだろうか。
担当と作家の間柄を超えたプライベートな仲だったりするんだろうか?


「夏目くん、あの…」
「じゃ、次、これいきましょう!回転が凄いらしいです!」
「え…ちょ…ま…、もう…夏目くん!」
「ほら、早く行きましょう!」
「もう…」

少し強引な夏目くんに連れられるがまま、日が暮れるまでアトラクションを回った。
強引…といっても、僕が疲れているときは休憩を入れてくれたし、僕が嫌がったアトラクションは無理に乗ろうとしなかった。
1人で言ってもいいよと言っても、俺は宮沢さんと乗りたいんで…と単独行動せず僕に付き添ってくれる。
僕が乗りたいアトラクションがあれば、そちらを優先してくれたし、寒くて首を竦めていると、自分が巻いていたマフラーを巻いてくれたり、手袋を貸してくれたり暖かな飲み物を買ってくれたりと、至れり尽くせりだった。
本当のデートみたいに気遣われて、夏目くんに対するドキドキは最高潮に達し。
時間を忘れて僕たちは遊園地を回り尽くした。

百万回の愛してるを君に