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「夏目…くん」
「俺は…」

PIPIPI…

僕らを会話を遮るタイミングで鳴り響く電子音。
2日前といい、どうしてこうもタイミング悪く電話が鳴ってしまうのだろう。
今回は僕のスマートフォンのようだ。

夏目くんに断ってから、スマートフォンを取り出し…
「…え…?」
ディスプレイに映る名前を見て、呆然とする。

「宮沢さん…?」
「あ、あの…酒井くんから、みたいです」
「あいつから…?宮沢さん、あいつと仲良かったんですか?」

夏目くんの言葉に首を振る。
仲良くはない。むしろ嫌われているはずだ。
こうして電話がかかってくるのも初めてのことだった。
困惑しながら電話に出てみれば、

「ああ、宮沢さん、先生来ていませんか?」

耳が痛くなるような酒井くんの焦った声がした。


「先生…?」
「相良先生ですよ…!!」
「来てないですよ…。
担当を外れてからずっと会っていませんし。
そもそも先生は外に出られなくて…」
「それが、出ちゃったんですよ…。
あなたの話をしてたら、青い顔して…!」

普段、僕に嫌味を言う酒井くんからは考えられないくらい、切羽詰まった様子である。
酒井くんはとつとつと、先生が家を出て行くまでのことを話す。

酒井くんの話を纏めると、先生は僕の失敗を聞いて飛び出したらしい。
先生のことだ。
きっと、先生の担当から外された僕のミスの多さに申し訳ないと思い家から飛び出してしまったんだろう。


酒井くんに僕のところには来ていないことを伝え、僕もすぐに心当たりのある場所を探すといい通話を切った。
心配そうに見ている夏目くんに、先生が家を出たことを告げる。
酒井くんの焦りが伝染したのか、僕まで焦り、支離滅裂な話し方になってしまった。


「大丈夫です、落ち着いてください。」
「だって先生が…。先生、外は怖いっていって…すぐ倒れて…。今もどこかで倒れてしまっているかもしれないし…。
それに事故にでもあったら…」
「大丈夫です…。すぐに探せば…!すぐにここから出て、急いで相良先生の住んでいる場所を探しましょう。ね」

慌てる僕に夏目くんは落ち着くよう、宥めた。
観覧車に乗ることはせず、そのまま園内を出て相良先生が住む駅へと向かった。
先生が家を出てから、既に1時間経過している。
花蓮ちゃんや、そのお友達も探しているようだけど一向に見つかっていないようだった。


「先生…まだ、見つかってないって…」
「大丈夫です、って…。俺たちも手分けして探せば…」

電車の中。
僕を安心づけようと励ましてくれた夏目くんは、はたと顔をしかめた。

「すいません、宮沢さん。
そういえば俺、相良先生の顔、知らなくて…。
写真とかありませんか」


相良先生は椎名先生と違い、顔は知られていない。
出版社の人間の中で、課長など限られた人は顔を知っていたのだが、花蓮ちゃんのチェックで会える人はまばらだ。
男嫌いな花蓮ちゃんだけど、夏目くんに対する態度は特に辛辣であったから夏目くんに先生を会わせていなくてもなんら不思議ではない。

「こんな人です」

1枚だけスマートフォンにあった先生の写真を夏目くんに見せると、夏目くんは大きく息を呑んだ。
動揺が見て取れるほど、夏目くんは写真を見て顔色を変えた。


「……っ」
「夏目くん…?」
「いや…、探しましょう、早く」


夏目くんはタイミングよく空いた電車のドアから出ていった。

慌てて僕も彼の後を追った。
其の時は知らなかった。
まさか、夏目くんと相良先生が知り合い同士だったなんて。
酒井くんが言っていた『夏目くんが相良先生の担当になりたかった』といっていた言葉の真意を。
夏目くんと相良先生は過去に接点があったことを。

僕はその時、それを知ることはなかったのだ。

百万回の愛してるを君に