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「あの…ーー僕はなんでよび出されたんでしょう?」
「ちょっと漱次が夢中な相手とやらに会ってみたくて…」
「む、夢中…?」
「あいつ、機嫌良かったし。
俺に内緒で“あの人”に会っているんじゃないか…って思ってね。どうやら違ったようだけど…」
「違う?」

困惑ぎみに夏目くんの従兄弟さんを見やれば、彼は苦笑する。

「すみませんね。急に呼び出して…。
呼び出したのは、ただの興味ですよ。
最近、漱次のやついつもと違った様子で、これはなにかあるな…、と思いまして。
この間あった時、たまたま放置されていたあいつのスマホ覗いたら、あなたに大事な話があるからって送ってたからさ。
大事な話するような人間があいつにいたんだな、って少し驚きまして。どんな人間かあってみよう…っと。もし、あの人みたいな人だったら、あいつから奪ってやろうかな…なんて」
「奪う…?」
「冗談ですよ。
あなたは確かに可愛いけど、ちょっと地味だし。
俺、あんたにこれっぽっちも触手動かないようだから…。」
「は、はぁ…」

ニコニコ微笑んでくれているが、さり気なく悪口を言われているような気がする…。
呼び出したのは従兄弟さんってことは、夏目くんは今日ここにはこないわけで…。僕は一体、いつまでここにいればいいんだろう。


「あの…」
「こんの…くそ獅童!
てめぇ、なに勝手なことしてやがる…!」
「な、夏目くん…!」
「漱次。ここをどこだと思っているんだ。騒々しい」
「お前が、勝手なことするからだろ…!
人の携帯を勝手に使って。
なんで宮沢さんを…!」

荒い呼吸のまま、従兄弟さんに掴みかかる夏目くん。
夏目くんが、こんなに取り乱しているの初めてみたかも。

夏目くんが怒っているのに対して、従兄弟さんはどこ吹く風で涼しい顔をしている。

「まぁまぁ、落ち着け。漱次。とりあえず座れよ。目立つだろ」
「……」
従兄弟さんの言葉に、夏目くんはしぶしぶ従兄弟さんの隣の席に座った。

「そんで、なんで俺のスマホ勝手に覗いて勝手にメール送ったんです?話によってはただではすみませんから」
「そりゃ、怖いな…」
怒っている夏目くんを前に従兄弟さんは、呑気に赤ワインを口にしている。
従兄弟さんには、敵わないと言っていた意味がわかる気がする。


「大事な話があるって書いておきながら、先延ばしにするお前がいけないんだろ。だから俺が取り持ってやろうと…」
「タイミングがあるんだから、余計なことするな。
今は忙しいんだ」
「忙しい…ね。
ま、俺には関係ないことだし。今日の目的は果たせたし…」

従兄弟さんはそういうと、立ち上がって…
「急に悪かったな。宮沢さん。また機会があれば」
僕の口端に、口づけを落とした。


「…あ、あの…」
「おい…」
「呼び出したお詫びに、俺の代わりにフルコース食べていいから。勘定はやっておく」
従兄弟さんはそういってヒラヒラと手を振りながら、立ち去っていった。

「嵐のような従兄弟さんですね…。って、夏目くん…」

夏目くんに声をかけたら、がっくりと椅子に項垂れていた。

「あの…大丈夫ですか…?」
「…大丈夫、です。まさかあの人がこんなことするなんて思ってなくて…、ちょっと驚いてて…それに…」
「それに?」
「会わせたくなかったから…。宮沢さんにあの人を…。俺とあの人、そっくりでしょ?」

「そうだね…。顔のパーツはそっくりだったかも」

「宮沢さんから見て、あの人、どう思いました?」
「どうって…?」
「かっこいいな…とか」
「そりゃ、かっこいいと思いましたけど…。」
「ですよね…」

深く落ち込む夏目くん。
従兄弟さんのこと、敵わないって言っていたし、気にしているのかな。

「あの、でも、夏目くんのほうがかっこいいですよ?」

夏目くんの従兄弟さんは、夏目くんよりも凄味がある美形サンで、人目をひくのは従兄弟さんのほうかもしれない。
でも僕の中で1番は夏目くんである。

僕が褒めると夏目くんは口元を緩めて、
「…ホントですか」と上目遣いで僕を見つめる。

「ほ、ほんとです…。あ、あのそれで話って…」
「ああ。相良先生のことでお話しようと思いまして。
先生のトラウマについて宮沢さん、詳しく知ってますか?」
「ええ…っと、あまり。先生、あまり話したがらないから」
「そうですか。」

夏目くんの大事な話というのは相良先生のトラウマのことだったのか。
僕はてっきり…あのときのおまじないのキスのことかと思っていたのに…ーー。

あの時のキスの意味…

「夏目くんの家ではキスが挨拶だったりするんですか?」
「へ…?」
「違うんですか?」
「違いますけど?どうしてそんな…」
「さっき、従兄弟さんにもキスされましたし。
それに夏目くんも…この間おまじないを僕にしましたし」
「俺の家では挨拶でキスなんかしませんよ。キスするのは…俺が…」

夏目くんの言葉の途中で、ウエイターさんがきて頼んでいたコース料理を持ってきてくれた。


「この話は、また今度でもいいですか?」
「今じゃ駄目なのかな?」
「すみません。俺ヘタレなんで…ほんと、すみません」
「う、うん…??」

しきりに謝る夏目くんに、それ以上聞くこともできず。
其の日は、結局あの時のキスの意味も聞けぬままにお開きになってしまった。

百万回の愛してるを君に