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夏目くんと飲み会をして、いい夢を見た次の日の朝。
夢だとわかっているのに、目をさましたら、夏目くんの姿を探してしまう。
いつも部屋には僕1人だけなのに、毎度凝りもせず探してしまう僕は、どれだけ夢見がちな男なんだろう。

いつも空いたビール缶だけが虚しく床に転がっていて、虚無感だけが僕にまとわりついていた。
見た夢が夢だから、顔を合わせないですむことにほっとする反面、1人部屋にいるのは寂しい気持ちもあって。
だからといって、夏目くんに泊まって欲しいなんて可愛くおねだりする勇気もない僕は、その日にみた夢を振り返って妄想するのがいつものパターンだった。


けれど編集長との飲み会があった日は、いつもと違って焼けつくような熱さと呼吸がままならない息苦しさを感じ、眠りから覚めた。
はっきりと意識が覚醒したとき…ー、
僕の周りは火の海になっていたんだ。


まさか。
人生には、ある日突然、まさかが起こる。
だけど、まさか、こんなことが自分の身に降りかかるなんて思いもしなかった。



 椎名先生に誘われて参加した編集長との飲み会の日、深夜に僕が住んでいたアパートは放火にあってしまったようで、一夜にして家は燃えてしまった。
放火犯と鉢合わせすることなく帰れたのは幸か不幸か。
僕が住んでいたのは、古いアパートだったので、火の手はあっという間に広がってしまったらしい。
幸いにも、古いアパートであき部屋が多かったのもあって、夜中に起きた火事だったけど死者は1人も出なかったようだった。

アパートは焦げてしまって、見るも無残な状態になっている。
黒焦げの建物は、元の原型は残っておらず、到底人が住めるものではない。
僕の部屋もほとんど焼かれてしまい、僕も逃げる時に火傷を負ってしまった。
背中と、右肩部分、そしてオデコには火傷痕も残ってしまった。


自力で家から脱出できた僕だけど、アパートにやってきた救急車に乗せられて、そのまま、入院する運びとなった。
火傷箇所は思ったよりも重症だったようで、運び込まれてすぐに皮膚の手術をすることになった。

術後も、痛みが和らぐまでは入院が必要らしい。


入院中、沢山の人がお見舞いに来てくれた。
編集長や、夏目くん、酒井くんや、笹沼さんまでこの繁忙期に来てくれた。
みんな火事にあった僕のことを案じてくれて、仕事のことは気にするな…と優しい言葉をくれ励ましてくれる。
何か困ったことがあればサポートするから、なんてありがたい言葉をくれたのは1人や2人じゃない。
酒井くんまでもお見舞いの品だから…と、生活用品をスーパーまで買いに行ってくれた。
こんなにも沢山の人に支えられていたのだと改めて気づき、僕はみんなの前なのに号泣してしまった。

「なんだ、宮沢、お前も泣くことあるのか?」
「ありますよ、僕だって…!」
「そりゃ、いいことだ。お前、相良先生の担当外れた時すっごい無気力だったからな…ー。いや、それより前から…か。
いつも心あらず、みたいな顔してたし…。それが今じゃ、結構楽しそうな顔してるじゃないか…。俺は嬉しいぞ」
豪快に笑いながら、笹沼さんは僕の髪の毛を撫で回す。

「わわ、髪そんなにぐしゃぐしゃにしないでください。あ、眼鏡も取らないで…」
「いいじゃないか。眼鏡くらい…って、お前眼鏡とると…」
眼鏡をとった僕を笹沼さんは、ジロジロと見ている…気がする。
眼鏡をとると…何?
眼鏡をとるとほとんど僕の視力はきかなくなる。
今だって、近くにいる笹沼さんの顔が見えない。
なんとか眼鏡を取り返そうと手を伸ばしたんだけど、僕の手は届かなくて。代わりに夏目くんが笹沼さんから僕の眼鏡を奪い返してくれた。


百万回の愛してるを君に