5章

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花蓮ちゃんと相良先生の好意で、先生の家にご厄介になることになった僕。
会社の人たちに、先生の家にいると告げると、みんな様々な反応を返した。

この件に関して 編集長や笹沼さんは「迷惑かけなければいいんじゃないか?」と気にしない様子だったし、酒井君はといえば「僕もお邪魔したいくらいです」と羨ましがっていたくらいだ。
みんな概ね、好意的な意見だったのだが、1人だけ…ー夏目君だけが僕と先生の同居に反対した。
ただの作家と担当が必要以上に仲良くなるべきではない、仕事に差し支える、と。


『どうしても相良先生のところに厄介になるんですか?
カプセルホテルに泊まるんじゃなかったんですか?』

苛立った様子で、夏目くんは僕に問う。
夏目くんらしくない厳しい詰問にたじろぐ。

『落ち着くまで、です。
ちゃんと落ち着いたら出て行きますし。
それに、編集長だって構わないって言ってくれてますし』
『でも…、それでも、作家と担当の距離感は保つべきではないですか?
失礼かとは思いますが、宮沢さんは相良先生に深入りしすぎなのでは?そこまでする義理はあるんですか?』

椎名先生とあんな親密な写真を撮られた夏目くんが、そんなこと言うんですか?と、僕の方もイラッときてしまって…ー。


『…夏目君には関係ないじゃないですか。
決めるのは当人の僕と先生だと思いますけど…』
『…ですが…。
相良先生は…、あの人は…ダメです!
あの人は…ーーー』
『…夏目くん?』
夏目くんは思い詰めた表情をしたまま、口を閉ざした。
どれだけ待ってもそれ以上、夏目くんが口を開くことはなくて。
結局、夏目くんを説得できず話し合いは終わってしまった。


夏目君とは、これが初めての喧嘩であった。
僕も夏目くんも、そこまで我を通すタイプでもなかったから、これまで衝突という衝突はしてこなかったのだ。
喧嘩以降、気まずくて夏目君の顔が見れなくなった。
夏目君も同じようで、顔を合わせないようにわざと避けているようだ。

 仲直りしたいけど、僕にも折れることのできない事情がある。
今回の同居は、僕だけの意向ではない。

相良先生の護衛のためだ。
警察に相談したらしいが、あまり真剣に話を聞いてくれないらしい。なんでも、確実な証拠がない限りは動けないんだとか。
先生は一度被害に受けているというのに、何かあったらどうするつもりなんだろう。


幸い、花蓮ちゃんは合気道を習っていて武術を嗜んでない男の人だったら、どうとでもなるらしい。
実際に、昔、先生のストーカー男を捕まえたのは花蓮ちゃんだったようだ。

だけど、花連ちゃん一人のガードは限界がある。
腕力にはあまり自信はないが、僕も男だ。
先生の家にいれば少しはストーカーの抑止力になることができるかもしれない。
今更、同居解消してほしいなんて無責任なことはできない。

それに、自分は棚にあげて作家との距離感を保てだなんていう夏目くんに少しだけムカムカしていた。

夏目君だって、椎名先生と仲がいいくせに。
2人でホテル街に連れ立って歩く仲のくせに。
僕と相良先生のことをとやかく言う前に、自分の方はどうなんですか…。恋人同士なんじゃないですか?


 椎名先生の仲といい、相良先生との関係といい、夏目くんは謎だらけだ。
一体、彼は誰が好きなんだろう。
本命がいるのに、どうして僕のこと心配したり、優しくしてくれるんだ。
いっそのこと、ほっといてくれたら。
そうしたら、いつかこの恋心だって消えてくれる筈なのに。
なんで、ほっといてくれないんだよ。
なんで、いつも僕に構うんだよ。


「夏目くんの馬鹿。僕は好きなんですよ…君のことが。
もう恋なんてしない…って思っていたのに、君が僕に優しくするから、君がドキドキさせるから。
君のこと、好きで好きでおかしくなりそうなのに。
僕ばっかり、こんな振り回されて…君はずるいです」

夏目くんの前じゃなきゃ、こんな風に自然に言えるのに。
どうして、夏目くんの前になると臆病な僕が現れてしまうんだろう。



百万回の愛してるを君に