END




目覚めて1番最初に見るのが好きな人だったら…
前に感じたのは、幸せよりも混乱だった。そして、今日感じたのは羞恥だった。

「おはようございます、宮沢さん…」
「え…、な、夏目くん…!え?ええ」
裸の夏目くんにアワアワしていると、夏目くんはおかしそうにくすりと笑い、僕の口端にキスを落とす。


「今日は勝手に帰られないように、先に起きておきました。地味に悲しかったですからね。あんなに抱き合ったのに次の日、いきなり去られるの」

唇を尖らせて、恨みがましく告げた夏目くんの表情が子供みたいで。もう急には帰らないよ、と頭を撫でれば夏目くんはぎゅうっと僕を抱きしめた。
大きな子供みたいだ。
夏目くんも、こんな一面あるんだなぁ。
世話焼きだって言っていたけど、甘えたでもあるらしい。

やっぱり年下なんだよなぁ。
こうして甘えられると、ぎゅうっと抱きしめていたくなる。


「実は、近くにマンション、買ったんです」
「夢だったって言ってたもんね」
「はい、それで、引っ越しはいつにしますか?」
「引っ越し…?」
「ええ。宮沢さんの引っ越し、です」

夏目くんの新しいマンションに僕の引っ越しと何の関係が?
ぽかんとした顔で尋ねると、夏目くんは僕の頬をむにっと引っ張る。

「い、痛いよ、夏目くん」
「俺たち、両思いなんですよね?
宮沢さんも俺のこと、好きなんですよね」
「好きです…けど…」
「だったら、一緒に住んでも何も問題ありませんよね」
「問題っていうか…」

でも、いきなり同棲なんて…。まだそんな心の準備ができてない。
ただでさえ、気持が通じたのだって未だに実感わかないのに。
戸惑う僕に、夏目くんは追い討ちをかけるように、
「もっと一緒にいたいですよね」と耳元で畳み掛ける。


「ですけど…」
「じゃあ、いいですよね」
「えっと…」

困惑する僕の顎をすくって唇に、ちゅっと口付ける夏目くん。

反則だ。キスで、僕の言葉を封じるなんて。

「夏目くん、ずるいです…。
そうされたら、僕が断れないって、知ってますよね…」
「そうですね。俺はズルいんですよ。
だから、ねぇ、宮沢さん」

夏目くんは、僕の身体にすり…と擦り寄ると、甘い声で
「ズルい俺を、もっと好きになってくださいね?」と囁いた。


***

それからの僕らといえば、言葉にするのも恥ずかしくなるくらいラブラブな毎日を送っている。
夏目くんは、とにかく僕をベタベタに甘やかした。
会社の人には、僕らの関係は誰にも言っていないけど…バレてしまうのも時間の問題かもしれない。
夏目くんはところかまわず、僕の身体に触れてくるのだから。
会社の休憩室でも、会議室でも…人目を偲んできわどいことまでしてしまっている。

夏目くんいわく、これでも我慢しているとのことで…。

『言わせたい人には言わせたらいいんですよ。
それをはねつける力もありますから。絶対に宮澤さんを守りますから』
だから、安心して俺に甘やかされてくださいね、と年下なのにしっかりものの彼に、僕は思う存分甘やかされている。それこそ、愛されてないんじゃないか…なんて不安に思う暇もないくらいに。


それから、相良先生は、あの夏目くんの従兄弟と付き合い始めたようだ。
なんと相良先生の好きだった人っていうのは、夏目くんの従兄弟だったらしい。
花蓮ちゃんがあんなに夏目くんを嫌っていたのは、夏目くんが自分のお父さんを傷つけた大嫌いな従兄さんにそっくりな容姿をしていたから。
すれ違いで2人は別れてしまったんだけど、別れてもずっとお互いに想い合っていたらしい。

夏目くんが先生の未発表の作品を知っていたのは、たまたま、従兄弟さんが借りていた先生の作品を読んだかららしい。
相良先生と夏目くんは、顔見知り程度の知り合いだったようで、一方的に夏目くんが片思いしていただけだったようだ。
夏目くんいわく、あの頃の相良先生は従兄弟さんに夢中で、夏目くんなんて眼中になかったようだった。

年の離れた夏目くんを先生はいい弟としか見てくれなかったみたいで、身体の付き合いはおろかキスをしたこともなかったらしい。
夏目くんが初恋の人がトラウマと言っていたのは、昔、夏目くんは女の人に本気になれないことで自分がゲイなのか悩んでいたようで。
ゲイだと気づいたキッカケが従兄弟さんと相良先生の濡れ場を見てだったそうな…。

自覚した夏目くんは今のようにうまく立ち回ることができなくて、その時の彼女のことをこっぴどく振ってしまったらしい。
その彼女がちょっと曲者な子で…色々と面倒事があったらしい。
色々の部分は詳しくは、教えてくれなかったけれど、いつか聞く機会があるだろうか。


相良先生は花蓮ちゃんに、従兄弟さんと付き合ったことは、まだ告げてないらしい。
絶対反対するだろうから、しばらくは内緒にしていくようだ。
内緒の恋は大変だろうけど、いつかきっと花蓮ちゃんも許してくれる日がくると思う。

なにせ、久々に再開した2人は始終幸せそうだったから。
そんな2人に負けないくらい、僕らも幸せでいたい。


「ね、宮沢さん…」
「ん?」
「今夜も、月が綺麗ですね」

君と手を繋いで。
僕はコクリと頷く。
空には綺麗な三日月。
隣には、僕が大好きな君。


「うん。明日もその次も、ずっとずっと綺麗だといいね。
年をとってしわくちゃになっても。目が悪くなっても。
ずっと、キレイだって言ってくれると嬉しい
ずっと、隣で……」

明日も、明後日も。
ずっとずっと、君の隣で言えたらいい。
2人だけの愛してる…を。


百万回の愛してるを君に