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『お試し期間込みで、付き合おう』
利弥が菜月にキスをして、付き合おうと告げて、数日がたった。
年はもうすっかり明けており、いまは1月の半ばである。

あれから、利弥は宣言通り、菜月に対して恋人のように接するようになった。テレビを見ているときも戯れでキスをしてたり、ソファに座っているときもすぐ真横に座っていたり。

その距離感は、ただの同居人では知ることのなかったほどの近さであった。
その距離感が嬉しい反面、問題もある。
そう、その問題は…

(…俺、今日こそ、やれるのかな…。
利弥さんと…)

問題は、利弥との夜の営みである。
仮でも、恋人同様に付き合うことになったのだから、当然、性行為も含まれている。

その言葉どおり、恋人になる宣言をした日、利弥は自室に菜月を呼び入れ、ベッドに押し倒した。

『と、利弥さん…んっ…』
利弥は菜月の言葉をキスで塞ぐのが好きなようで。
何度も角度を変えて、口づけて、菜月の口内を荒らした。

ねっとりと、唇を舐めあげられれば、経験が皆無な菜月はすぐ息があがってしまい、くたりと力が抜けてしまう。
赤らんだ顔で、荒く息をつく菜月の頬を撫でながら利弥はクスッと微笑む。

『キスだけで、ぼんやりか…?』
『俺、経験ないお子様だもん…。仕方ないよ…。利弥さんみたいに経験ない子供だもの』

経験豊富なキスに、翻弄されたことが悔しくて、むっとむくれてみせれば。

『ふぅん。
じゃぁ、私はそんなお子様に悪いことを教える大人かな?』

悪戯な手が、菜月の服に潜り込んだ。
冷たい掌の感覚に、びくりと身体が震える。

潜り込んだ掌は、ゆっくりと身体のラインをなぞるように、菜月の身体を愛撫していく。

くすぐったいような、ゾクゾクするような感覚に、菜月の肌は粟立った。

『くすぐったい…よ…』
『くすぐったい…ねぇ?じゃあ、これは…?』

利弥は、そっと菜月の胸の突起を指で掠める。
爪先で弾かれると、くすぐったいだけじゃない、甘い刺激が身体に走り、零れそうになる喘ぎに菜月は慌てて口を塞いだ。


『どうして、口を塞ぐんだ?』
『だ…って、なんか、俺へんで…』
『へん…?』
『なんか…そこ…、触らるれと、おかしくなる…。
ぞわぞわってして…くすぐったいだけじゃなくって…その…』
『ふぅん…?』

利弥は目を細め、きゅっと、菜月の乳首をつまみあげた。
クニクニ、と執拗に胸を愛撫する利弥に、翻弄され、菜月の瞳にじわりと涙が浮かんだ。
ただ乳首を触られているだけなのに、下半身まで熱を帯び始めている。

『も…、そこ、駄目です…、いや…』
『どうして…?』
『どうしてって…、だって、変だよ…。おれ、男だよ…?』
『菜月は、私の恋人になりたいんだろう?
こうして触れられるのは嫌?』
『嫌じゃない…けど。でも…、そこは…』

男なのに乳首で反応してしまう自分の身体が嫌で、やめてくれと訴えてみれば、利弥は平然と、『じゃあ、やめようか…?』と、胸から手を離した。

『恋人になるのも、やめようか?』
『え…』
『だから、恋人になるお試しも、やめようか?』

菜月の反応を試しているかのように、ちらりと利弥は一瞥する。


『嫌なんだろう?こうやって触られるの。
だから、やめようか?』

押し倒していた菜月の身体から利弥は離れていった。
高まっていた熱が一気にひいていく。

『え…、い…、嫌…』
離れていく利弥の腕を、菜月は慌てて掴んだ。
利弥のその一言で、本当に、この関係が終わってしまう。
今のお試しの関係は、本当に脆いものだった。

『びっくりした、だけだから、その…。
男なのに、こんな反応しちゃって、なんで…って、怖くなっただけで…。だから、その…』

やめないで。
小さく羞恥で顔を染めながら言えば、利弥は満足そうに微笑んだ。


『男でも、そこが反応する人間は稀にいるらしいが…。菜月はきっとそんな体質なんだろうな。男でも、感じてしまう。
なぁ、菜月…、もっと、いやらしいこと、してもいいか?
ここ、だけじゃなくて…』

利弥の手が、菜月の下半身に伸びる。
ジジ、とゆっくりとズボンのチャックをおりていく。

『君を、もっと、私の色に染めても…いい?』

耳朶を食まれ、囁かれた言葉に、菜月は浮かされるように頷いた。



  
百万回の愛してるを君に