ピカピカとイルミレーションで町中は彩られた12月。
クリスマスまで、あと数日とせまった頃。
菜月は朝から、利弥に頼まれていた仕事に精を出していた。

「うぅ…まさか飾りが3箱もあるなんて思わなかった….
しかも、もっと小さなツリーだと思っていたのに」

そう口では不満を言いながらも、菜月は楽しそうに自分の身長よりやや低いツリーに装飾品を飾っていった。

 ツリーを出すことになったのは、朝食時、菜月の何気ない一言からであった。


「もうすぐクリスマスだね、利弥さん」
時計代わりにつけていたテレビからは、クリスマス間近なので恋人に喜ばれるプレゼントという特集が流れていた。
利弥は、ぼんやりと心あらずな顔で、テレビを見つめていた。


「利弥さん?」
「あ、ああ。
クリスマスか…」

もうそんな時期か…と、利弥はカレンダーを一瞥した。
菜月がこの家に世話になることになって、早数か月。
足はほぼ完治し、またバイトを始めることができるまで体力的にも回復していた。
当初は回復したら、これ以上利弥の世話になれないと利弥の元を去るつもりでいたのだが、利弥に20までは遠慮なく甘えなさい、と言われ、菜月自身もこの生活を壊したくなくて利弥の言葉に甘えた。
といっても、年が明けて落ち着いたら仕事を捜そうとはしていたが。


「まだ、仕事忙しいの?」
「いや。最近はだいぶ落ち着いてきたよ」
「ほんと?」
「ああ。クリスマス頃には今の仕事はひと段落しそうだ。まぁ、年が明ければまた次の仕事が入ってくるんだがな。貧乏暇なしってやつだ。」
「貧乏じゃない癖に。
でも、大変だね…。
ロングバケーションできないの…?
いっつも遅くまで仕事ばかりしてるし。そろそろながーいおやすみ、とってもいいと思うんだけど…」

ロクに休みがない利弥を心配して菜月がそう愚痴ると

「…大人には時に休めない時があるんだよ。なつきくん」

利弥は、苦笑いを浮かべ、子供をなだめるように返事を返した。

「俺は怠け者な大人になりたいな…」
「子供だなぁ…」
「いいよ、子供でも。子供の方が気楽だもん」
「そうだなぁ…」

丁度、つけていたテレビで、子供が楽しそうにサンタさんについて無邪気に語っている。
クリスマスに欲しいものについてだそうで、あれこれととんでもないお願いを口にしており、微笑ましかった。

「子供のときは、確かに楽しかったな。気楽…とはまた違った自由があったと思うよ。
沢山、欲しいものや夢があったから。今は、叶えられないものが多くなってしまったよ。
どうあがいたって手に入らないものもあると知ってしまったしな」
「手に入らないもの?社長の利弥さんでもあるの?」
「沢山あるぞ。私はこうみえて、利己的な人間だからな。といっても、もう大半は諦めてしまったものばかりだけれどな。
菜月は、なにか欲しいものはあるか?」
「欲しいもの?」
「もうすぐクリスマスだからな。
ほら、クリスマスといえば、プレゼントだろう?
今年はサンタさんがきてくれるかもしれないぞ?
年上のサンタさんがな…?」

利弥は口端を緩め、悪戯っぽく笑う。

「そのサンタさん、仕事で忙しいんじゃないの?」
「うーん。クリスマスプレゼント用意するくらいの時間はあると思うぞ?」

「いいよ、無理しなくても。
ほしいものなんてないし。
だって、ここにいられるだけで、助かってるしさ…。
ほかに必要なものなんて…」
「ない?本当に?なにもほしくないのか?」

探りをいれるかのように、問われる。

「本当はあるんじゃないか?
実はずーっと欲しがっていたものが…」

そう重ねて利弥は尋ねてきたが、菜月には欲しいものなどすぐには浮かばなくて。
やっぱりないよ…と、返事をすれば利弥は不満そうな顔をした。



  
百万回の愛してるを君に