「優等生すぎるのも人生損だぞ、菜月」
「優等生じゃなくって、本当にないんだってば」
「遠慮しているんじゃないか?
なにも、私に恩義を感じる必要はないんだぞ。
私も君を自分の為に“利用”しているのだから」
「利用?」
「そう、いっただろ?
自分のために君を側におく…っと。
私が一人寂しいから君を側においているんだ。
だから、君はそんなに恩を感じなくてもいいんだぞ。友達感覚で欲しいものがあれば言ってくれて構わないんだ」
「うん。でも…」

元々無欲であるため、クリスマスだからといってなにかがほしいと思うこともない。
しいてあげるとするならば…

(俺が欲しいものって、この生活がずっと続くことくらいだしね…。)


「ね、俺のことはいいからさ。利弥さんはほしいものないの?」
「私の…か?」
「うん。聞いてみたいな。
だって利弥さん、仕事の話はしてくれてもなにかがほしいとかそういう話、したことなかったしさ…」

何気なくそう尋ねれば、利弥は眉をよせ顔を強張らせた。

「私が…ほしいものは…」

利弥はしばし、逡巡したあと、思い出かな…とぽつりと零した。


「思い出?」
「そう。クリスマスのいい思い出。
昔から、クリスマスはろくな思い出がないんだ…。
嫌な思い出ばかりなんだよ」
「そうなんだ」
「世間一般的な家族団欒もなかったな。
家族はとても、忙しかったから。
それに…クリスマスはこてんぱんにふられたからな…。
あいつに」

利弥は目を伏せ、苦笑する。


「あいつ…?」
「そう。私はふられっぱなしなんだ。
だから、恋人たちにとっては特別な日でも私にとってはずっと灰色の思い出だな。
だから、欲しいのは、ものでもなく“いい思い出”だな」
「いい思い出…」

菜月は利弥の答えにしばし考え込み、少ししておずおずと口を開いた。

「じゃ、じゃあさ、クリスマス俺と過ごさない?
二人でクリスマスパーティしよう!そうしたら、きっといい思い出に変わるよ!俺もそうだったから…」
「俺も?」
「そう…!
俺ね、昔大好きなお兄さんと一回だけクリスマスパーティやったんだ。
その時、誰かと一緒にクリスマスを迎えて凄く楽しかったから!だからね、利弥さんも俺とパーティしたらいい思い出作れるんじゃないかな…って。
あ、でも…利弥さん俺とじゃ楽しくないかもしれないし、予定もはいっているかもだけど…。
もし入ってなかったら…どうかな?」

上目づかいで、ちらりと伺えば、利弥はじっと菜月を凝視していた。

「利弥さん?」
「ああ。楽しそうだな。菜月はいいのか、私なんかと一緒のクリスマスで。友達と遊びにいったりとか…。その大好きなお兄さんと一緒に過ごさなくても…」
「大好きなお兄さんは…」

もう、死んじゃったんです。
告げる前に、小さく首を振る。
せっかく楽しい話をしていたのに、大好きな人が死んだ話をすれば利弥はしんみりしてしまうだろう。
だから、菜月も利弥の返事に「今年は利弥さんと過ごしたいから」と務めて明るく答えた。

「それに、ほら、言ったでしょ。俺、利弥さんの犬になるって!そんなクリスマスにいい思い出がないなんて聞いたら、ほっておけないよ。一緒に今年は楽しいクリスマスにしよ?」
「そうだな…二人で楽しむか…」
「うん。二人っきりのクリスマスパーティーだね!利弥さん忙しいだろうし、パーティの用意は俺がするね。御馳走とか飾りつけとか…!」
「飾りつけ…そういえば、ツリーがうちにあったな…。なら、菜月それも出してくれるか?」
「ツリーってクリスマスツリー?うちにあるの?見たことないや。どこにあるのかな?」
「ああ、それなら…」







  
百万回の愛してるを君に