飾り付けは、午後4時を回る頃には完成した。
ライトや装飾品をたくさんつけたツリーは、華やかで室内を一気にクリスマスの楽しいムードへと変貌させた。
けれど、華やかなツリーとは一変し、菜月の心は飾り付け中にみた手紙のせいで、心はざわついていた。

(利弥さんに好きな人がいることなんて、わかっていたのにな…。利弥さんが俺をおく理由は、一人の部屋が寂しいからって理由で…そこに愛情とかないのに。ただのペットに対する愛なだけなのに…。なのに、俺は…)

手紙の主と利弥のこと。現在の関係のこと。
一度気になり出すと、どんどん二人の関係を知りたくなってくる。
けれど、直接利弥に聞く勇気もなければ、他にこの手紙の主を知るものもいない。

(かつきさんってだれなんだろ…。
今も利弥さんの側にいる?でも、側にいるならどうして利弥さんはあんなに浮かない顔しているんだろう…。あの紫の花の人は?一番大好きなひとって…)


プルルルル。
菜月の思考をかき消すように、部屋の電話が鳴り響いた。
数コールしたあと、自動的に留守番へと切り替わった。

「ねぇ…おまえまで俺を裏切るの?ひどいな…。最初に俺を抱いたのはおまえなのに、自分が好きな玩具手に入ったらポイなわけ?」

(この声…たしかこまきさん?)
聞き覚えのあるその声音に、つい聞き耳をたてる。
声の主は少し酔っぱらっているようで、ろれつが危うい。
菜月が聞いていることなど知りもせず、電話口の相手はメッセージを吹き込んでいく。


「おまえにまで見捨てられたら、俺、死んじゃうかも…。
なーんてね。
ねぇ、利弥。またやらない?
もうね、クリスマス前に俺、干からびちゃいそうなの。
心も、身体も。
なーんかさ、苦しくなっちゃうんだよね。
だからさ、久しぶりに乱れちゃおうよ。クリスマス前に、お互い。なにもかも忘れてさ…ぐちゃぐちゃになりたいんだよね。おまえもだろ。この時期はとくにさ…。おまえ、まだクリスマスの‘あのこと’忘れられないだろう?だからさ…」

(あのこと…?クリスマス…?)

「いいっていわないと、俺も最終手段にでちゃうかもね…?
ねぇ、いいの?利弥」

そういうと声はワントーン低くなり、

「おまえが大事にしているもの、俺、壊しちゃうかもね…。おまえが叶えようとする‘夢’壊しちゃうかも…。
まぁ、壊れた方がおまえのためだと思うけどね、俺は…」
クスクスと笑いながら、電話口の相手は「あってくれるよね?」と脅すように言葉を重ねた。


電話口のただならぬ雰囲気に臆するも、このままこの人は利弥に害を与えるのでは…?と考えた菜月は思い切って受話器をとった。


「あ、あの、もしもし」
「はりゃ?だれ?きみ?俺間違えちゃったかな?」
「俺は中川菜月といいます。
あの、いま利弥さんにお世話になってて」
「中川…。ああ、そう…君が…」

それまで呂律回らずに一方的にメッセージをいれていたのが一変し、電話の相手は落ち着いた口調になった。
ころっとした変わりように、先ほどの口調はなんだったのかと訝しむ。

「俺は小牧。あいつの古くからの友人だよ。年は〜利弥と一緒、っといえばわかるかな〜?
そうだ…、中川君、いきなりだけど、君に言いたいことがあるんだよね、俺」
「え…、俺に?」
「うん。そー。君にー」

突然の相手の言葉に、菜月は動揺する。
この電話口の小牧という人物を菜月は顔を見たこともないし、知っている情報といえば利弥の知人というくらいだ。ほぼ他人であるはずなのに、一体どんな話があるのかと、菜月は身構えた。


「なんでって?だってあいつが最近俺とあってくれないの、きっと君のせいだからね。俺がこーんなにあいたいって言うのに…。だからね、君にちょーっと言いたいことがあってね」
「俺のせい…どういう…?」
「詳しい話聞きたい?んんー?
じゃあ、あえないかな?
電話、あんまり好きじゃないから直接あってはなしたいんだよね。色々と。
うーんと…今月は23日が休みだから、23日にどこか喫茶店でも…どう?」
「どうって…」
「あぁ緊張しないでも大丈夫。大丈夫
ちょ〜っと、忠告?っていうか
ヤキ入れっていうかなんていうか。

とにかく君は俺の言うこと聞いておいたほうがいいと思うよ。今後のために…ね。
ま、とにかく会ってよ、ね?
23日。場所は…そうだな、桜庭駅のブロークン・ハートって喫茶店で。いい?」

「桜庭駅のブロークン・ハート…」

小牧が指定してきたのは、菜月がアルバイト先に挨拶するときによった、あのお洒落なアンティークの喫茶店だった。

一方的に会えと言われ、どうしようかと迷ったものの、利弥の知人であるというこの人物ならば手紙のことも知っているかもしれないと思い直す。


(利弥さんの親友の小牧さんは…かつきさんを知っているんだろうか…。利弥さんがどうしてたまに寂しそうな顔する理由も知ってる…?)

菜月はこまきに了承の返事をし、23日二人であう約束をした。
 



  
百万回の愛してるを君に