利弥が告げたツリーの場所は、今は物置になっていた空き部屋の1つであった。
菜月は午前中いっぱい空き部屋を掃除して、埃がつもっていたツリーを見つけ出した。
ツリーが入っていた箱は埃が沢山つもっていたものの、中のツリーは丁寧にしまわれており、新しそうである。
組み立てると菜月の背よりは若干低いが、飾りがいのある大きなツリーであった。

(クリスマスにいい思い出ないって言っていたけど、こんなになんで飾りつけ用の装飾品あるんだろ…)

装飾品を入れている箱は、全部で3つあった。
カラフルなボンボンに、ライトなど、沢山の小物が入っている。

「あれ…、なにこれ?」
装飾品だらけの箱の中に、数枚の紙が敷き詰められていた。
説明書かな…?と何気なしに紙に視線をやり、文を追う。
紙の冒頭には、親愛なる俺の理解者へ、と書いてあった。

“あんたが、俺を愛しても俺はあんたを愛せない。
だって、あんたといると、俺はすごく惨めになるんだ。

あんたは、俺を好きだという。
違うだろ?あんたは同情しているだけなんだよ。
あんたは優しいからさ。可愛そうな俺に同乗しているだけなんだ。。

あんたは愛を間違えているんだよ。
あんたの愛なんて、所詮、エゴなんだよ。
同情心なんだ。

本当に俺を思っているならさ、あんた、俺の幸せにできる?
俺を笑わすことができる?
こんな薄汚い、どうしようもないくらい堕ちた俺を幸せにできると誓える?

無理だろ?
俺もさ、無理だよ。
もうこれ以上、あんたの優しさにつけこみたくない。
あんたと一緒にはいられない。
これ以上、あんたを傷つけたくないからさ。

ねぇ、あの日のこと、なかったことにしよう。
すべて、俺も忘れるから。

だから、なかったことにしよう。
あんたが好きだ。
でも、あんたを愛すことはできないよ。
たぶん、一生。

俺は、じぶんの存在をゆるせないからさ。
だから、あんたとは一緒にいられない。
あんたを一生、俺は愛せないよ。

かつき”

「かつき…、ってこれって…」

ラブレター?
ではないようだ。どちらかといえば、告白を断っているようだ。
利弥の家にあったということは、利弥のものだろうか?

「かつきって、どこかで…?
あ、この間利弥さんが俺に向かっていったんだ、かつき…って…。」


紙は1枚だけじゃなかったようで、もう1枚あった。
今度は、消しゴムで何度も消した跡があるヨレた紙に見覚えのある字が並んでいた。


“かつき
あの日は本当にごめん。だけど、あの日にいった言葉に偽りはない。
あの日の言葉は、まぎれもない、俺の本心だ。

俺は心から、お前の幸せをねがっている。
誰よりも、お前を愛してる”


「これは…、利弥さんの字だ」

どうやら、もう一枚は利弥が書いたもののようだ。
これを読むと、利弥はかつきなる人物に、ラブレターめいた愛の言葉を贈っていたようだ。かつきなる人物がいう“あんた”は利弥のことだろうか?
主語がないのでわからない。

「かつきさん、って…利弥さんが好きな人の名前だったんだ…
利弥さんは…あのとき、かつきさんと思って、俺の名前をよんだの?」

一人呟く菜月に、答える声はなかった。



  
百万回の愛してるを君に