(クリスマスに、30超えた大人が仲良さそうに腕を組んで歩いている。
ただの友達…なんてこと、ないよな…。だったらどういう関係?恋人?でもそしたら、利弥さんとの関係は?二股?)

 駅前で予約していたケーキを受け取り、家に帰宅すると菜月は、そのまま脱力するようにリビングにあるソファに身体を沈めた。


「ねぇ、うさこさん。
利弥さん、クリスマスはいい思い出ないんだって。
ふられたから、って。
それって、小牧さんに毎年振られてるって意味なのかな?
それとも別のひと?
利弥さんの大事な人って、誰なんだろうね?
小牧さんと利弥さんって親友…だけの関係なのかな?」

 ソファの主である、うさこさんにむかい、喋りかけた。
縫いぐるみに喋りかけても、当然、返事なんてない。
 

(利弥さんにとっての大切な人は…俺にとっての、かっちゃんみたいな人なのかな。
自分の支えになってくれたくらいの大事なひと。
利弥さんにとっての俺のかっちゃんが、小牧さん、なの…?)

 問答していたところで、ガチャ、と家のドアが開く音がした。
リビングのソファから玄関を覗くと、利弥の姿がみえた。


「おかえりなさい。利弥さん」
「ただいま、菜月。メリークリスマス。
プレゼント、ありがとう」

 利弥は、菜月がいるリビングへと歩をすすめながら、手をはためかせる。
その手には菜月がクリスマスプレゼントにと贈った手袋がはめられていた。

「それに、こんなに御馳走も用意してくれたんだな。
私の好物ばかりだ。
随分料理が上手くなったんだな」

 テーブルに並べられた料理の数々に、利弥は目を細め、菜月褒めてくれた。

「だって、お世話になっているし…。
いったでしょ?利弥さんと、いいクリスマスにしたい、って。
だから、料理くらい、頑張るよ」
「いやぁ、いい嫁を貰った気分だよ」
「よ、嫁…」
「そんな菜月に、俺からプレゼントだ」

利弥はそういって、仕事鞄と一緒に手に持っていた、クリスマスカラーにラッピングを施された30センチほどの長方形の箱を手渡した。

「俺に?いいの?」
「いいもなにも。クリスマスプレゼントだからな。
貰ってくれないと、私も困るぞ」

 菜月が気に入るかわからないが…、と利弥は視線で菜月に早く箱を開けるよう、促す。
菜月も流行る気持ちを抑え、せっかく綺麗に包まれた包装紙をびりびりに破かぬように、慎重に包みを開けた。

箱の中身は華の絵が描かれた、完成済みのパズルであった。
1000ピースパズル、と包装された袋に書かれている。
華の種類は竜胆のようで、初めて会った日利弥が持っていた、あの花束の花でもあった。


「竜胆のパズル…」
「パズルだったら、枯れないし、いいかなと思ってな。
花あげるって約束しただろう?
だから、俺から菜月にクリスマスプレゼント、だ」
「花…」
「そう。頑張っている菜月に、俺から感謝と愛をこめて、な?1000ピース、なんて一度崩したらなかなか組み立て難しそうだけどな?菜月に、この花は似合うと思って…」


(俺には、もう花をあげるひとも貰う人もいない。
利弥さんに初めてあったとき、そう思ったのに…。あのとき…俺のほうが、なにをしてもやる気も起きない、ちゃんとやれない俺の方が、利弥さんより人間失格なんだって思ったのに。)

じんわりと、菜月の中で歓喜に似た思いがこみ上げる。
ただのクリスマスプレゼント。
利弥には、ただの贈り物のひとつに過ぎないのに。
思わず泣いてしまいそうなくらい、嬉しくて。
感謝の言葉がすぐに口につかないくらい、心の中に喜びが広がる。

「どうして…」
「ん…?」
「どうして、俺に優しくしてくれるの?」


パズルを机の上に、おき、菜月は利弥に静かに尋ねた。


「どうして、俺なんかに…優しいの。
利弥さんは、そんなに…そんなに、優しいの…?」
「…私がか…?」

「うん。すっごく…優しい。
おれみたいなダメ人間に…。
なんにもできない、身寄りもいない。どうしようもない人間に。
利弥さんは家においてくれて、ご飯も作ってくれて、優しく気遣ってくれて…」
「……」
「どうして、そんなに優しいんですか?
俺、馬鹿だからわかんない。
馬鹿だから…、だから知りたいんです。

貴方がどうしてここまで俺に優しくしてくれるのか。
貴方がどうして悲しそうな顔をするのか…俺は、知りたくて知りたくてたまらないんです。だって、俺は…」

菜月は、利弥の目を真っすぐに見つめ、

「俺は、貴方が好きだから、貴方のすべてが知りたいんです。貴方のこと、一番知っている俺でありたい…って思ってしまうんです」
目の前にいる利弥に、微笑んだ。



  
百万回の愛してるを君に