「私を…すき…?君が…?」
「はい」
「好きっていうのは…その、つまり…」

戸惑いがちに菜月を見つめる利弥に、「たぶん、その…恋愛感情のように好きだと思うんです」と菜月は答える。


「まだ知り合ったばかりで俺、利弥さんのこと、ほとんど知らないかもしれない。だけどね、誰よりも知りたくて、貴方のことばっかり考えている。多分、これって恋だと思うんです。
だから、貴方がなんで俺をここにおいてくれるのか、優しくしてくれるのか…俺、知りたいんです」
「……」
「同情、ですか?憐み…ですか?」
「憐み…か…」

利弥は、ふ、と小さく苦笑し、「君も、あいつと同じことをいうんだな」と呟く。 

「おなじ…?」
「似ていると思ったんだ。あいつに。君が。
私が…一番大切に思った人に。
どれだけ愛しても、愛を受け取ってくれなかったあいつに。

初めてあったとき、似ていると…あいつがまた私の前にやってきたと…そう、思ったんだ…。
菜月を見て。
だから…私は…君を…」

不意に、利弥は口を閉ざす。
どこか戸惑いがちなその顔は、道に迷った迷子のように心もとない。

「利弥さん…?」
「…時折、私は君を恐ろしく感じてしまうよ…。
あいつと…同じような言葉を言うから。同じように笑うから。
だから、凄く…怖いよ、君が。私の思い通りにならない、君が」
「思い通り?」
「君がもっと、あいつと違っていたらよかったのに…そしたら…」

利弥は、菜月の頬に手を添えて「君をここまで、思うこともなかったのに…」と呟く。

「俺を…思う…?それって…?」
菜月が利弥の顔を見つめると、利弥の双眸はゆらゆらと陽炎のように揺れていた。

「君の好きは…、きっと綺麗な好き、なんだろうな…。
とても純粋な。
私とは違う。私は…」


そっと、利弥は菜月の頬から手を離すと、視線を落としながら

「人間、失格、だからな…」と微笑する。

「人間…失格…?」
「そう。あいつが私の元をさった時から、ずっと…」

愁いを帯びた、その表情。
寂し気なその表情に、胸がざわついた。

(この人の…何がここまでこんな顔をさせるんだろう…?
なにが、この人をここまで…辛そうな顔をさせるんだろう…?
大切な人のせい…?俺だったら…そんな顔させないのに。俺が、利弥さんの大切な人だったら…絶対にそんな顔、させないのに…)

 それ以上利弥の辛そうな顔を見ていたくなくて、そっと利弥の唇に己の唇を重ねた。まるで飼い犬が悲しんでいる飼い主を慰めるような、そんな口づけだった。

突然の菜月の行動に、利弥の身体が戦慄いた。

「ねぇ、利弥さん。俺…利弥さんが好きです。
思わず、キスしたくなるくらい、俺、貴方を好きなんですよ?
出会って数か月で、俺、利弥さんのこと何も知らないかもしれない。だけど、もっと知っていきたい。
もっともっと知っていきたいんです。貴方のことを一番好きな俺でいたい。
来年のクリスマスも、その次のクリスマスも、ずっとずっと一緒にいたいんです。利弥さんさえ、よければ…」

突然こんなことを言って、利弥が重荷に感じたらどうしようか。
ちらりと利弥に視線をやっても、利弥は菜月を凝視したまま、動かない。
ただただ、じっと菜月を見ていた。


「ごめんなさい。急に、こんなこと言って。気持ち悪いと思ったら出ていくから。だからさ、今日くらいは一緒にいよう?だってほら、今日はクリスマスだし!思い出、作ろうよ…!…、さっきキスして嫌な思いになったかもしれないけど…。その…」
「いや…、嫌じゃなかったよ…。」
「え…」

聞き間違いかと思い、聞き直すと、

「そうだな、菜月がせっかく用意してくれたんだから、今日は楽しむか」

利弥は、テーブルにつくと、菜月が用意していたケーキを箱から取り出した。

(嫌じゃなかったって…俺がキスしても嫌じゃなかったってこと?気持ち悪いって思われてないのかな?)

「菜月…?」
「あ、はい…」
「クリスマスパーティ、するんだろう?」
「うん。やるよ!あ、蝋燭つけて!火つけなきゃ…」
「誕生日じゃないんだぞ…」
「気分だよ!盛り上げるでしょ」

菜月は先ほどの空気を払拭するようにことさら、明るくいうと、部屋の電気を消した。
クリスマスのツリーのライトの光と、ケーキの蝋燭の光だけが、仄かに部屋を灯る。
こうして、利弥と菜月の二人だけのクリスマスパーティが始まった。




  
百万回の愛してるを君に