至極真面目な顔のまま口をつぐみ、海を見つめ想いをはせる。
見つめているだけなのに、刻々と時は過ぎてゆく。

ジャックは、不意に海を見つめるのをやめて、海賊船の先端部分に歩いていった。

船で一番、潮風をあび、海を感じることができる先端部分。
ジャックは、先端部分につくと、その場で膝をついて、残された方の手で、空中に十時をえがいた。
空中で十字をきったあと、その手を握りしめてこぶしをつくり、胸にあてる。
そして、なにかに祈りをささげるかのように双眸を閉じた。


「おやじ…もういいよな…。
もう俺は充分まっただろ…」

誰にきかせるでもなく、まるで自分に言い聞かせるように呟かれた言葉。


「ようやく…だ…。ようやく…時がきたんだ…」

その言葉は、抑えきれないほどの歓喜に満ちていた。


「ようやくあんたに会える…。
ようやく…、夢じゃなく…あんたに触れることができるんだ…」

ジャックが紡いだ言葉が震えた。
長年思い続けた夢が、ようやく叶えられる。
ようやく、会いたかった人に会える。
その喜びに、心は歓喜に震え、紡いだ言葉ですら、震えた。

長年思い続け、会いたいと願った人。
夢に何度も出てきて、起きるたびにその人がいない絶望感を味わった。
夢の中でしか会えなかったいとおしい人。
その人物が…夢じゃなく現実でも会えることができると思った瞬間、心は歓喜で溢れかえりあまりの幸福に胸がいっぱいになった。
まだ、出会えてさえいないのに。


「あんたに言うことができるんだ…。
夢じゃなくて…会って、触れて、あんたを感じることができるんだ…」

瞳を開き、視線を再び海にやるジャック。
普段の馬鹿笑いの表情からは考えられないくらい、切なくジャックは呟いた。
普段は見せない彼の真摯であり一途な思い。
彼は一人、誰に聞かせることもない言葉を続ける。


「あんたに…シャルルに、俺と一生をともに過ごしてくれと…一生添い遂げようと告げられるんだ…」

静かに呟いて、立ち上がる。

視線の先、薄暗かった空は、時がたち柔らかな朝の光に包まれていた。水面は太陽の光に晒されて、キラキラと光の粒が光っていた。

こんなに、海がいつも以上に綺麗に見えるのは…あんたに会えると思ったからだろうか…。
煌めく水面にジャックはふと、思案する。
会える…そう思えた瞬間に、心だけじゃなく視界まで変わる…。自身の神経ひとつひとつがあの人を前に歓喜する。そんなあの人を大好きすぎる自分に苦笑してしまう。


「いま、あんたに、あいにいくよ…。あんたを助けにいくから…。離れていてもあんたをずっと愛していたから…だから…」
ジャックはふと口元を緩めて、

「あんたも…俺を待っていてくれるかな…」

まるで暖かな日溜まりのような優しい表情で、一人呟いた。


ザザン…ザザン…。
ザザン…ザザン…。
一隻の海賊船は、今日も大海を緩やかに渡っていく。
ルッテ・クラウンでの愛の華・カオークスの華をトレードマークにした海賊旗をマストにはためかせて。
百万回の愛してるを君に