目が覚めると6人用の布団に残っているのは俺だけだった。 時計を見ると11時。 いつもより寝過ぎたようだ。 下に降りると他の5人と昨日我が家に泊まったなまえちゃんが既に朝だか昼だか分からない飯を食べていた。 「兄ちゃんに黙って先に食ってるとかヒドくね?」 そう言って空いている席に座る。 「……」 「……」 (え、空気重っ!) 辺りを見渡すと、末弟のトド松が困ったような視線をなまえちゃんへ向けていてようやく合点がいった。 一見静かに食事をしているように見えるがその眉間には深いシワが刻まれ、禍々しいオーラを放ってる。 普段凄い勢いでご飯をかっ込む十四松やイったい仕草が目を引くカラ松がなまえちゃんの両隣りで小さくなっている程に。 (あの松山さんがねぇ……) 高3の時、俺と松山さんは同じクラスだった。 お調子者で問題児の俺と優等生で才女の彼女と接点なんて皆無に等しく、唯一記憶に残ってるのは文化祭の時で、俺のクラスは“猫カフェ”をやっていた。 といっても本物の猫はムリだったから男も女もノリノリでネコ耳と尻尾つけて接客してただけなんだけど。 *** 『松野くん。コレ、4番の席のお客様に運んでもらえますか?』 「はいはぁー……っ!」 ヤベぇ、ちょー可愛いし!誰だっけ、こんな子うちのクラスに居た!? 「何おそ松、松山さんの事見つめちゃってやらしー!」 (ぇえーーっ!?あの松山さん!?) 普段制服を規則正しく身に纏う彼女が短いスカートにニーハイソックスという何ともエロい格好をしていて……そりゃコーフンしない訳ないでしょ!! 「ぜ、絶対領域が眩しい……!」 眩むようにおどけてみると上品に笑って上手いことかわされた。 『松野くん、4番席お願いしますね』 「へ〜い」 受け取ったコーヒーを持って4番の席を探すと猫背姿の同じ顔がそこに居た。 「なに一松〜、まさかホントに猫居ると思って来ちゃった?」 「……まぁね。てゆーか、さっき何話してたの?」 「あ、女子たちと?いや、優等生がネコ耳と尻尾つけて短いスカートで接客してたらそそるじゃ〜ん、って話」 「キモ」 「んな事言ってお前の方がそーゆー性癖もってそうじゃん。まっ、気の済むまでゆっくりしてけば」 *** なんて事もあったっけ。 当時彼女は誰にでも敬語を使い、丁寧で親切でいっつも笑顔。 悪く言えば“つまらない女の子”だった。 そんな子よりもバカでガードが弱そうな女子といる方が、つい成り行きでそういうカンケーになっちゃうかも!?なんて淡い期待できちゃうし。 だから俺にとっての松山なまえは興味すらない女の子だったんだ。 綺麗ぶった硝子玉 「まだ食べるの?いい加減ブタになっちゃうよ?」 『うっさい変態松!食べ終わりましたよーだ!大体みんなと同じ量だし!!』 プリプリと怒る松山さんの表情は初めて見る顔で。 「訂正、もうブタでした。あんなイビキ掻いて寝てるんだもんね」 『なっ…!いっぺん死ねっ!!』 (えー……) 俺の松山さんへの印象は一瞬にして変わったのだった。 back / TOP |