凍てつく明星



賑やかなるハロウィンを終えた翌日に、松田陣平という男はやってきた。何分急なもので、名刺が間に合わないと強行犯捜査係の後輩がボヤいていたのを覚えている。彼とは同じ教場で過ごしたいわゆる同期で、そのほかにいた4人の同期たちと一緒に行動しては事件を起こし、問題児と呼ばれていた。とは言え、自分の所属は特殊犯捜査係で、彼とは違う係になる。同じ捜査一課でも扱う事件が違うので、まだ彼の姿を警視庁で見ていない。

「聞いてくださいよ、アイツったら……」

一つ下の後輩である佐藤美和子が言う。残業もそこそこに仕事を終えた11月3日の夜、帰り際に肩を怒らせ退勤する彼女に声を掛けたのが始まりだった。騒がしい大衆酒場に入って、件の男の愚痴を聞く。佐藤曰く、あの松田陣平の教育係を任され、勝手な行動や警察官らしかぬ言動に辟易しているらしい。そもそも初の顔合わせから「来たくもない係に回された」と言い、態度は大きく、口も悪かったと聞いて、我を通す姿が想像できて笑ってしまった。

「もう、笑い事じゃないんですよ」
「いや、変わらないんだなって思って」

学校でも教官に対してそうだったからと当時の様子を説明する。当時そこまで彼と親しかったと言われれば首を横に振るが、全く関わりがなかったわけではない。彼らが起こした事件に居合わせたこともあれば、特別訓練などで同じ班になるなど何かと関わりはあった。それに、ここ数年は連絡をしなければならない理由もあって、彼の様子は学校を卒業してからも知っている。友人なのかと問われると、素直に頷いて良いのか分からない微妙な関係だ。

「アイツ、配属されてから庁舎に泊まり込んで寮に帰ってないみたいなんです」

今朝も椅子並べて寝てたし、と中身のないジョッキの底を見つめながら佐藤は呟いた。日々事件が途絶えないとはいえ、異動してきたばかりの彼にできることは限られている。松田のその行動が何を意味するのか、私は予想できても明かす訳にもいかず、心の中に留めておく。

「さすがに私にもそこまでは分からないな」
「先輩に分からないなら私だってお手上げですよ」

そんな話をしつつ、明日も仕事があるので飲みはほどほどに解散した。吹き付ける木枯らしが容赦なく体温を奪っていく。寒さが身に染みる季節になってきたということは、もうすぐあの日がやって来る。


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