冬を噛む
「さむ.......」
轟々と吹き荒れる豪雪の真っ只中、私達はその島に上陸した。一面真っ白な世界に身を竦める。嫌な記憶が蘇りそうになる私を、隣の
船長が掻き消すように背を押してきた。余計なことを考えるなと言われている気がして、彼なりの優しさに冷えた身体が暖まった気がする。気を持ち直して顔を上げれば、数メートル先に氷に覆われた大きな建物がそびえ立ち、固く無機質な扉が行く手を阻んでいるのを捉えた。普通なら、誰かここに住んでいるとは到底思えない。それでも、私たちは確信を持ってここに来ていた。船長がブザーを鳴らす。
「居留守使われたら終わりじゃない?」
「その時は別の手段を取る」
何度かしつこく鳴らせば、ようやく扉が開いた。緑のウェーブかかった髪を持つ女が顔を覗かせる。ノースリーブなのにもちっとも寒そうにしない姿にこっちが逆に凍えそうだった。
「あら、何か用?」
わざとらしいその振る舞いに、隣に立つ船長の眉間に皺が寄った気がした。
「担当直入に言う。WMWに会わせろ」
それともはっきりシーザーと名指ししたほうがいいか?と付け加える船長に一瞬目を丸くした女だったが、すぐに妖艶な笑みを浮かべてみせる。そうして私たちを招き入れた。
建物の中はやけに天井が高く、配置された机やソファがやけに小さく感じた。船長がMことシーザー・クラウンと交渉をしている間は、着々と進んでいく話の内容についていくのが精一杯で、そこにある駆け引きなど考えている余裕はない。交換条件に船長の心臓を要求されたときでさえ、言葉を発するすることを許されなかった。
「それで、この女は何だ」
シーザーの真っ赤な瞳が私を捉える。殺気すら向けられていなのに、その人のおぞましさを肌で感じた気がして視線を逸した。私はとるに足らない一般人だと印象付けるために身体を震わせて、船長の腕を引く。
「調査に必要な助手だ」
「助手ゥ?それだけでここに連れて来るわけねぇだろうが!」
目を見開いてこちらに迫ってくるので顔を押しのけようと手を伸ばすが、彼の能力によりすり抜けてしまう。気味が悪くて手を引っ込めれば、もとの顔が形成されて、まじまじと見つめられる。そうして納得がいったように口角を上げた。
「ははあ、分かった。コイツはお前の妹だな?」
見当違いの回答にソファからずり落ちそうになった。ここに来る前に、いつも着ていた白いつなぎとは違って多少は船長に近しい服装にしたのは事実ではあるものの、コートに隠れて大して分からない。それに、どう見ても似ているところは一つもないだろう。なんと答えていいか迷い船長の方へ顔を向ければ、冷ややかな視線をシーザーに向けていた。彼の発言に返答することなく、言いたいことはそれだけかと告げる。
「……まあ兄貴の心臓握られてりゃ大したことも出来やしないだろうからな」
私には何も枷を付けないらしい。泳がされているのか、そこまで頭が回っていないのか分からないが、ほっと胸を撫で下ろす。あの心臓の抜かれている感覚は、痛みは無いとはいえあまり良いものではないから、なるべく避けたかった。
その後、簡易な部屋を与えられたところで無駄に神経をすり減らした反動が一気に襲ってくる。扉に背をつけてずるずると座り込めば、床に座るなと引っ張り上げられた。いつもならそんなこと咎めやしないのに、一体なんだというのだろう。それでもさらに小言を言われる訳にもいかず、仕方なく硬いベッドの上に腰を下ろした。
「おれはあいつの部下に用がある」
「だったら私も行く」
「お前は休んでいろ。むしろ隙があると思わせておいた方がいい」
「船長……」
反論する間もなく、船長は部屋を出ていこうとする。その去り際、思い出したように言い残していく。
「しばらく
船長は禁止だ」
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