重大な誤タップ(2/2)
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「いってきます」
「いってらっしゃーい」
寿が家を出るのを見送って、私は食器を洗って掃除機を掛けて、洗濯機を回して、ピーピーピーと洗濯が終わった音の合図とともに、いざ!干そうと気合を入れて、カゴに洗った洗濯物をつめる。
リビングに面したバルコニーに出るべく半分だけ開け放っていたカーテンの、反対側のカーテンに手をかけた、まさにそのとき……。
——バサッ、・・・バサ!!!
「え?……」
——バッサ!!……バサ!!!
「き、キャー!!!!」
私はそのまま着の身着のままで、マンションを飛び出した。
どうしたもんかと外のエントランス付近でうろうろとしていると、意外な人物と遭遇した。
「名前……さん?」
振り返ると、私の最愛の旦那様を、過去ぼっこぼこに殴り散らした経歴を持つ後輩。
水戸洋平くん——。
「水戸くん……!」
「どうしたー? エプロンつけたままで」
水戸くんはポケットに入れていた右手を出して、私が着ているエプロンをピッと指さした。
「あ、ああ。てか、水戸くんは……?」
「へっ?」
「なにしてるの、こんなとこで……」
「俺はパチンコ。向かう途中でしたぁー」
水戸くんはさっき私を指差した手で、今度はパチンコのレバーを回す仕種をしてみせる。
「……あ、あの……」
「んっ?」
「変質者……! いるみたいなの!!」
「へっ?!……んしつ、しゃ……?」
「たぶん、パラシュートで降りて来たんだと思う!!」
「パ……、え。」
そのまま私は、呆気に取られている水戸くんの手を引いて、マンション内へと戻った。
部屋に向かうまでのあいだに、ことの経緯を説明して、水戸くんが「みっちーに連絡したほうがいいぜ」と言ったので、練習中に心配をかけられないな、と思い電話ではなく、メッセージを急いで打って送信した。
『洗濯物を干そうとしたら、バルコニーに人影が見えて、外出たら水戸くんがいて、いま家の中に入ってもらって確認してもらうとこ!!なんかあったら追って連絡する!!』
送信済みになったのを確認して、まず携帯はさっさとポケットにしまい込んで、水戸くんの影に隠れながら自宅の中へと、水戸くんを誘導した。
— 同時刻 ―
—— ピコンッ!
彩ちゃんと昼飯食ったあと、本屋行って週刊バスケットでも久しぶりに買おうかなーと思いながら歩いていたら突然携帯がメッセージを受信した。
『洗濯物を干そうとしたら、バルコニーに人影が見えて、外出たら水戸くんがいて、いま家の中に入ってもらって確認してもらうとこ!!なんかあったら追って連絡する!!』
……………はい?
受信相手を確認して、一瞬にしてさとした。
これ、絶対送る相手間違えたんだなあ、って。
相変わらず天然だよなあ、
夫婦そろってまったく……。
まあ……同じ��ま�″sだもんな、たしかに。
てか、名前ちゃんって、旦那のことフルネームで登録してんのかな……。
三井、寿って……?
それもなかなかおもしろいな。
俺なんか登録の名前、「みついさん」って平仮名のままだし(笑)
でも——。なんか、
おもしろそーだからこのままにしとこーっと♪
— 三井家 ―
「おじゃましまーす」
「はいはい、どーぞ!」
言いながら名前さんは、俺の服が伸びちまうってくらいの力で、俺の裾つかんで俺の陰に隠れている。
「みっちーには? 連絡した?」
「したしたっ! あ!!ほら、あそこ!!」
名前さんが指さしたのはリビング入った先、バルコニーのある曇りガラスの外だった。
たしかにバルコニーの隅で黒っぽい影が、バサバサと鳴っている。
「やっぱ、パラシュートだよねえ……?」
「ここ5階だろ?鍵かけ忘れたとかはないの?」
「ううん、昨日の夜は静かだったもん」
「うーん……」
名前さんは、無意識にぐいぐいと俺を押しやる。その仕種になんだか吹き出してしまって、名前さんが「なに?」と不機嫌そうに唇を尖らせた。
「——よし、」
「え?」
「危ないから、女の子は離れてな。」
「待って!!!」
言って名前さんは何を思ったのか突然フライパンを持ってきて、その行動に俺はぎょっとする。
「水戸くんやられそうになったら、私も戦うからっ!」
ええ……。てかこれ、無自覚なのかな……?みっちーがハマる理由、なんか分かる気がするぜ。
可愛いもんな。この天然発言を、馬鹿正直に真面目くさって言ってるあたりがな。
……ってのは、
墓場まで持っていくことにしよう。
俺が情けなく微笑み返して、フライパン持って震えてる名前さんの肩を押さえて、キッチンのほうへと誘導した。
そのままバルコニーを開けたとき、思わず俺は「ハァ、」と、溜め息が出た。
その��パラシュート�≠フ正体を手に取り「もう、大丈夫だ」と言って、部屋の中に戻ったとき。
「キャー!!!」
と。名前さんが俺に突進してきて、腕のあたりをフライパンで叩かれた。
あ、ずっと目瞑ってたのかい……(笑)
特に痛くもなかったので、すっと名前さんの手からフライパンを取り上げ、俺がもう片方の手に持っていた物を翳してみせた。
「……え。」
名前さんが、それを見上げてきょとんとしている。
「ビニール傘。」
「……、」
「壊れたままバルコニーに置いたのだ〜れだ♪」
「……ひさし……、デス。」
「紐が取れて、風に当たってバサバサ鳴ってたみたいだぜ?」
私は、気まずくなってうつむく。
水戸くんが私の手にその傘を持たせてくれたので取りあえずそれをキッチンの隅に置きに行った。
「じゃあ、俺はパチンコに向かうとするかっ」
「ごめんね、ほんと。痛かったよね?」
「いや……、だいじょーぶさ。」
「わたし、興奮しちゃってさ……」
「ハハ。でも、よかった。」
水戸くんがリビングのドアを開け放ったとき——玄関に寿が立っていた。
—
「ハハハ!」
水戸が珍しく破顔して爆笑している。
あいかわらず俺は赤面のまま、ビールを煽る。
「あ〜、腹痛てえ!!」
宮城は腹抱えて笑ってて、名前は呆れているのか、どういう心境なのか苦渋の
面
(
ツラ
)
を浮かべてた。
「名前さんの浮気相手が俺かー」
「バカ!! 真に受けてんじゃねえ!」
「水戸と名前ちゃんがあーんなことや、こーんなことしてんの想像したわけだ♪」
「だから!! してねえって!!」
俺は空になったコップをぐっと水戸の目の前に着き出して「おかわりっ!」と言った。
水戸は「はいはい」と言って、ビールを注ぎに行くため席を立つ。
「ねえねえ、三井サン」
「あん?!」
「……したんでしょ?」
「あ……? なにが。」
「エッチな想像〜♪」
宮城がじとっと俺を見て来て、俺がぎろりと見下ろせば隣の名前が「もういいからっ」と、なぜか俺の肩を叩いて、やめてくれと言わんばかりに仲裁に入る。
「……あ? なんで名前が照れてんだよ」
「はっ!!? 誰が照れてんのよ!」
「なに想像してんだよ!!バカ野郎!」
「ちょ、やだ……なんなの、リョータくん助けてよっ」
名前が宮城に助けを求めると、宮城は「オレ関係ねえもん」と両手の手のひらを天井に向けて、とぼけた顔をする。
「水戸とのなんか変な想像してんだろーが!!」
「し、してないって!!!」
「ああ? じゃあなんで、ンなにツラ真っ赤にしてんだよ」
言って、名前の赤くなった両の頬をガシッと下からわし掴みすれば、唇を尖らせる形になった。
目を潤ませながら俺を見上げる名前に、その唇を思わず塞ぎたくなって、ハッと思いとどまる。
「はいはい、夫婦喧嘩はやめてね〜」
水戸がそう言いながらコツンと、新しくビールの入ったジョッキを俺の目の前に置いた。
また少し店が忙しくなってきたのか、水戸はそのままカウンターへと戻って行った。
「——でもさ、」
宮城がぽつりとつぶやく。俺は、名前の頬をわし掴みしたままで宮城を見やる。
「ははして(放して)、ははして(放して)」
という名前の声をフルシカトで、宮城に「あ?」と聞き返した。
「あのマンションさ、」
「……?」
「はじめて入った
男
(
メンズ
)
が、水戸ってことっしょ?」
「……!あ、……ああ、」
「しかも、旦那の留守中にっ!」
「……!!」
俺は、ようやくここで名前を解放する。
頬を擦りながら、ブツブツと文句垂れてる名前に「ごめんな」と一応言い置いて、宮城をまた見やる。
「名前ちゃんと、あ〜んなことや、こ〜んなことしてる愛の巣に入っちゃったわけか〜!」
「なっ……、」
「はじまるかも知んねーよ?」
「……は?」
「これから、��昼顔�≠ンてえな展開が……♪」
俺はハッとして、勢いよく水戸を見る。
「……え? なに?」
と言って、呆気に取られている水戸に、また腹抱えて笑いだす宮城に、溜め息つく愛する嫁、名前の姿。
「よし、名前……」
「え、……なに。」
「明日、新居契約しにいくぞ!!」
「はあ……?!」
新居の
住所
は絶対 教えねえ!!
(とりあえず、みっちー。一杯おごるよ)
(バカ、今日の分ぜんぶタダに決まってんだろ!)
(ハァ、ほんと俺の先輩優しくねえ……)
(うるせえ! 浮気詐欺が!!)
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