変態に恋をされた私の末路(3/3)

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    「この世のカップルん中で、一番幸せだぞ俺ら」
    「……」
    「誰も勝てねえって」
    「……。」

     また体を起こした三井サンは、そう真っ直ぐに言ってついに最終段階に入ったのか「ここで押し切れ」と言わんばかりに、彼女の説得にかかる。昔から変わらないこういうところが、真摯なのかずる賢いのかは、よくわからないけれども……。

    「好きな奴らに綺麗な晴れ着姿、見せてーんじゃなかったのかよ?」
    「……、」
    「なんつーか、綺麗ごと言うわけじゃねえけどよふたりで歩んでいくのが、これからの俺たちには必要だって——俺はずっと、信じてきたけどな」
    「……。」

     三井サンからの言葉に感動したのか彼女の鼻を啜る音が微かに俺たちにも画面を通して聞こえてきた。それを見た三井サンが、ぎょっとして声を出す。

    「なンでお前が泣いてんだよ!……薄情者が。」
    「だ、だってぇ……」
    「泣きてえのは、こっちだっつーの……」

     三井サンはまた「はぁ〜あ」と、うな垂れる。そして小さく舌を打ち鳴らしてから顔をあげて、彼女をまた真っ直ぐを見た。ここからは、主役の二人が見つめ合うターンだ。俺たちはいったい、何を見せられているのかPart.2ってところかな。

    「人の話聞かねえとことか、どっか抜けてるとことか。ドジだし、頭ちょっと、よえーけど」
    「だから……それもう、悪口……」
    「ちげーって!そういうのもひっくるめて、俺と一緒にいるから笑えんだろっつー話だよ!」
    「……」
    「なあ?お前には俺しかいねえし俺には名前しかいねえんだよ」
    「……。」

     沈黙がつづくなか、いまだに見つめ合っている二人を見てやっぱり俺たちはいったいなにを見せられているのだろうかという気持ちを拭えぬままそれでも、これもまた最終的にはいい絵になるのだろうと、早々に溜め息とともに諦める俺たち。
     三井サンは、真っ直ぐに彼女を見据えている。その目はもはや今からプロポーズでもするのかというほどの眼力だ。そうしてまた彼は、溜め息を深く吐いたあと小さくつぶやいた。

    「——だからな?ボディービルダーなんて……」
    「……」
    「なんなんだよ、ボディービルダーって……。」
    「……っ、」

     ——また、振出しに戻ってしまった。もちろんこちら側はドカンドカンと大爆笑の嵐が起こっている。三井サンはそんな俺たちの様子を知るよしもないので、こたつのテーブルに額を付けて舌を打ち鳴らしていた。そうして、意を決したように三井サンが「——わかったよ。」と、言った。

    「最悪、結婚式は延期するとしてだ、」
    「はい」
    「距離を置くのは、やめようぜ?」
    「……え?」
    「会う頻度とか連絡の頻度は考えるし……部屋もまあ、とりあえず俺ひとりで住んだままでもなんとかなるだろ」
    「……」
    「いつでも名前が帰ってこられるように、お前の居場所は開けとくからよ」
    「……寿。」

     彼女がニコッと微笑む。それを見て三井サンは本日何度目かわからない大きな溜め息を吐いた。それを見ていた彼女が優しい声色で言葉を返す。

    「それでいいよ、ありがとね。」
    「はあ〜。」
    「……あとね。もう一個、お願いしてもいい?」
    「……なんだよ。もう何言われても驚かねえぞ」

     彼はこたつの上に片肘を乗せ頬杖をついたまま呆れたような顔で私を一瞥する。絶望真っ只中の婚約者のその姿——かわいそうなので、そろそろこのへんで、ネタ明かしをしようと思います。

    「——結婚式の、余興にね?」
    「ああ。なんだ? ボディービルダーの経過でも投影すんのか?」
    「うーん。ハハハ、ちょっと違う」
    「じゃああれか。ムキムキマッチョチャンネルの宣伝してえって?だっせぇカード配って?」
    「やめて……! ちがう!」
    「あ?」
    「ドッキリとして、この映像流してもいい?」
    「……。」

     ——きょとん。本当に、その言葉がぴったりといったふうな表情で私を見た彼。ややあって状況をある程度把握したらしい相手が脱力したように大きく「はあー」と溜め息を吐き散らし床に体を投げた。そうして胸の上で手を組んで、アーメンみたいな格好で天井を見つめて放心状態になっている。そんな彼の顔を真上から覗き込んで、私はまるでテレビで見る例の板を持っているかの如く抑揚をつけて明るい声で言った。

    「テッテレ〜♪——つってね!」
    「あ゛ァーっっっ!! ったく!ふざけんな!」
    「ハハハ、カメラあそこだよ?」

     笑いながら指を差した先をチラ見した彼は声にならないうめき声を口の中で転がしている。が、つぎの瞬間、勢いよく起きあがり、私のスマホを仕込んでいた付近にズカズカと歩いていく。そうして私のスマホを乱暴に取ると、腹を抱えて涙を流しながら笑っている画面の向こうにいるリョータくんや水戸くんたちに顔を真っ赤にさせながら「てめぇらなぁ〜!」と罵声を浴びせていた。

    「——名前もよっ!おまえ、これ!」
    「えっ?」
    「ティッシュ箱をなぁ、わざわざ破ってまでやることかよっ!!」
    「いや〜、急いでたからさぁ」
    「どこにスマホ入れてんだよ雑すぎだっつーの」
    「あっはは、ごめんね!」

     この映像が彼らの手によって、どんなかたちで式場を笑いに包むのか……それを考えるとなぜか私はとても温かくて微笑ましい気持ちになった。

    『三井サン!最高っす!!さっすが〜♪』
    『みっちー。感動の映像にするよ、俺らも頑張ってなっ♪』
    『ご馳走さま〜♡三井先輩っ♪』
    「あ、あのなあ、テメェらよ……盗撮が犯罪って知ってんのかァ!?」
    『『知りませ〜ん!!』』

     いつまでもこんなふうに、みんなと笑い合って暮らしていけますように。みんなの笑顔の中心に私と寿がいることを、とても誇りに思う。
     私たちの結婚式まで、指折り数えて、あとどれくらいだろう。わくわくとドキドキが駆け巡る。みんなと笑顔で会えることを楽しみにしてるよ。
     ゲストのみんなが幸せになれるような、そんな素敵な結婚式に、なりますように……。

     本当にみんなに出会えてよかった。どんな嫌な一日だってみんなの笑顔で最高になってしまう。粉雪が舞う寒い夜も、こんな星の降る夜もずっとみんなで、この景色を眺めていたい。
     みんなが笑ってくれればこの世界中に、もっともっと幸せが広がる。みんなが笑ってくれれば、すべてが良くなる。この手で、その手で繋がっていく——。










     でも 最後 には、
      いつだって許されちゃうからね。




    (三井サン、ボディービルダーはOKなんスか?)
    (ああ? まあ……名前の想像したらアリかと)
    (もう、みっちー。それはヘンタイの域だぜ?)
    (名前ちゃんなら、なんでもいーんでしょ♪)
    (うっせお前ら! 招待状はく奪すんぞっ!?)
    (アハハハハ!!)
    (名前! お前は笑える立場じゃねえ!!)


    ※ image song『 ハピネス/AI 』

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