P.S.あいらぶゆー(1/2)
本当に��神様�≠ネんてものがいるのだとしたらぜひ一度会ってみたい。そして言ってやりたい。ねえ、あの人に伝えたいことが、まだこんなにも山ほどあるのに、どこに行っちゃったの?って。
それでも、どんなに月日が経っていっても心は繋がっているから、ぜったいに忘れないでねって二度と会えない私の代わりに、伝えてよ——。
*
『 神様はさ、絶対いるよ 』
彼はいつもこう言っていた。��神様�≠ネんて、いちばん縁が無さそうな顔をして彼はずっとその目には見えもしない��神様�≠ニいうものを信じていた。
「バカじゃないの?神様なんかいるわけないし」
そうしてこれが私の言い分だった。神様なんてものぜったいにいない。
そんな私に彼はいつだって、勝ち誇ったような笑みを見せる。「もしも仮にいたとしたらなんで幸と不幸があるの?」となんとなく聞いてみたら神様信仰者の彼はこう言っていた。
「それは、おまえ、アレだよ」
「あれ?」
「神様が人間に与えた試練?っつーやつ。」
は?なんですかソレ。なら、だったらそんなに神様を信じているのならどうしてアイツは負けたのよ。それも��試練�≠セった、って言うの?
「アホくさー、だからアンタは童貞なんですよ」
「なっ……童貞じゃないし、この永遠処女。」
「ん、なっ……!」
アホだよね、わたしもアンタも。毎日毎日さ。飽きもしないでこんなくだらないことばかり言い合っていたんだから。でも、だけど。それが私の日常だった。
神様なんか居ないってば。それでも、いまでもアンタは、信じているの?わたしに試練を与えた目には見えない��神様�≠チて言うものを——。
カミサマはわたしに一度きりの試練を与えた。わたしは、18歳で人生を終えた。そう、わたし死んじゃったんです。
『雨降ってるから気をつけて帰って来なさいね』
たしか——そんな内容のメールだったと思う。委員会の仕事で帰るのが遅くなってしまって雨が降りしきる中、自転車置き場で確認した母からの一通のメール。親バカだなー、なんて。ひとりで笑いながら自転車にまたがって、ペダルに両足を置いた。なんとなく耳をすませてみれば体育館のほうから、バスケ部員たちの声が聞こえた。
雨の滴と、冷たい感覚。不機嫌な雷鳴。バスケ部員たちの掛け声に混じって時折り聞こえてくる��親友�≠�ヤジる童貞男(仮)と、その仲間エトセトラたちの声をBGMにしながら私は自転車を漕ぎだした。
ちゃんと自転車のライトも付けていた。自転車に乗るときはイヤホンで音楽だって絶対に聴かなかった。いつも通りの坂を下って、いつも通りの交差点に差し掛かって。事故多発の交差点だからスピードもちゃんと落として、左右の確認だって怠らなかった。眩しくて、雷かな?とそのときはそう思っていた。そして急に目に飛び込んできた真っ白くて痛い閃光。目の前が一瞬、ほんの一瞬だけ白い世界。そのあとは、真っ黒になってしまった。
あ、そうか。雷じゃなかったんだね。あれだ、ヘッドライト。車の、ヘッドライトだったんだ。真っ黒。ただの真っ黒の世界。雨は?雷は?自転車は?突然、見えなくなった。なにも見えない、音も無い。真っ黒だったからわたし、眠くなってきちゃって。だから、目を閉じた。ちょっとだけだったら、寝てもかまわないよね?って。つぎに目が覚めたとき、わたしの世界は180度変わっていた。
あー、よく寝た。寝過ぎて頭が痛い。どれだけ寝ていたのかわからなかったけれど私はようやく目を開けた。そこは自分の家だった。リビングやみんなの部屋。いつ帰って来たんだろう?とか、頭を駆け抜けて辺りを見回したら��私�≠ェ居た。目を瞑っている。化粧をしたそれは、紛れもなく私自身。
意味がわからなかった。私はここにいるのに。どうして私が見えるのかそのときは本当にわからなかった。両親の泣きじゃくっているすがり声を聞くまでは——。
目を瞑ってアーメンみたいな組み手をしていてなにかの中に横たわってすこしも、ちっとも動かない私を私は、上から見ている状態。
「名前……なんでぇ、なんでよぉ……」
——お母さんの声かな? あれ、泣いてる?
なに……? なんで?
「名前……名前、父さんだぞ?」
お父さんまで……どうして泣いているの?ナウシカを見たときだって、愛犬が死んだときだって泣かなかったのに。かすれ声で、鼻だってリンゴみたいに赤くなって私に縋り付いて、オイオイと泣いている。
日頃は無口なお父さん。お願い。泣かないでよ頼むから。お母さん、お父さん。私は——ここに居るんだよ……?
「なんで……なんで、死んじゃったのよ……っ」
……はい? 死んだ……? わたしが!?
違う違う!わたし、死んでなんかないよ!お母さん、お父さん。わたし、ちゃんと生きてるっ!ほら、見てよ? わたし……ここに居るじゃん!そこに寝ている私、それは偽者だってば。見て、こっち見て、わたしを見てよ——!
え? もしかして、見えて……ないの?わたし本当の本当に……
「名前、目を……開けてよっ……!」
——死んじゃったの?
*
あのときわたしが入っていたのは棺桶だった。マスカラとかアイラインの塗りはすこし甘いけどお母さんが化粧してくれたんだよね?あんな美人に仕上げてくれてありがとうお母さん。それから本当に、ごめんなさい。親不孝で、流さなくてもいい涙まで流させてしまって。ごめんね本当に。それからの一週間わたしは家族と共に過ごした。私のお通夜をして私のお葬式もした。私も一緒に経験した。なんだか変な感じだった。私の意識はちゃんとあるのに、私はもう死んでいて。そして骨になってしまった。
私が眠る棺が火葬場に入れられて出てきた私はサラサラの骨になった。やっと実感した。わたし死んじゃったんだな、って。
『 人間の魂は死んでから49日間だけ
この世にいられるって知ってるか? 』
この世にいられるって知ってるか? 』
童貞男(仮)、水戸洋平がいつも言っていた。どこまで奴は神様なんかを信仰してるんだろう。
洋平とは、中学からの腐れ縁で、あのころからヤンチャをしていた彼らとわたしは、いつも一緒だった。
��不良�≠サう言ってしまえば聞こえは悪いが、わたしたちはそんなレッテルなんて気にしていなかった。だって、とっても楽しかったから。
放課後のゲーセン。自転車に三人で乗ったり、ジュースの空き缶で缶蹴りをしたり。意味もなく笑い合える、そんな普通の中学生をわたしたちも周りのみんなとおなじようにしていただけ。喧嘩とかタイマンとかそんなの私には無関係だったしそもそもそういうときは絶対に連れて行ってくれなかったから。
ただただ、みんなとの時間が楽しかった。ただそれだけのこと。
「ふーん、くだらない」
「お? なんだー、その冷めた目はー」
「また偉そうに語ってるなーって思って」
「そっか、だよなー。お前はまだまだお子ちゃまだからわかんねーか」
「——! なにィ!?お子ちゃまじゃない!」
で、またまたはじまる毎度お馴染み、洋平との口喧嘩。神様なんかいないよ。そんな迷信、信じられない。信じていなかった。だけどいまはその迷信もすこしは信じられる。神は信じないけど。
本当にこの世に神様というものがいるのなら、一秒でいい。一瞬でいいからもう一度会いたい。この広い世界のどこかで、あの日と変わらずに、辛口を聞いているであろう彼と、もう一度——。
わたしが死んだあの日から今日で丸々49日が経つ。私はもう骨になってしまった。けれど私はちゃんと居る。私の姿はだれにも見えないみたいだけど意識はちゃんとあって。これっていわゆる幽体離脱ってやつだと思うんだ。この49日間、わたしはいろんなところに飛ばされた。はじめの一週間は我が家だった。その、18年住んでいた自分の家で過ごした。お母さんとお父さんと私でソファに一緒に並んで座りながらいっぱいビデオやらアルバムやらを見返した。私の小さいころのやつ、あらためて見返したらわたしは昔から美人だったね。鼻も高いし胸もボイン!目もクリンとデカいしぃ?……なんてね。
「ふふ……見てよ、この子」
「ああ、こんな格好……」
ハハ、止めてよー。抜けた前歯を拝んでる写真なんかさぁ。もっといい写真があるでしょうが。恥ずかしい写真だけど結構ナイスな役目じゃん?とか思ったりしてね。きっとわたし、お母さんとお父さんを笑わせたかったんだろうな。
「やだ、こんな……ふふっ」
「そうだ……そうだなぁ。」
ふたりは私にまた笑顔を与えてくれた。一週間ぶりに笑った、お母さんとお父さん。よかった、やっと、笑ってくれた。
(——ありがとう、私を産んでくれて。)
二人の耳元で囁いてみたら二人とも私を見て、見えていないはずなのに二人同時に振り返った。そうして、お母さんがそっとつぶやいた。
「名前、ありがとう」
照れくさくてずっと言えなかったけれど心から思う、ありがとう。それと、ごめんね。
涙を一粒残して私は次の場所へと飛ばされた。