− ピコン♪ −
「……」
− ピコン♪ −
「……」
− ピコン♪ −
「……」
− ピコン♪ −
「うるっせーな!」
「へっ?」
部活終わりの更衣室の中。
さっさと着替えて、帰って風呂に入って飯食って寝たい俺は、いつも一番乗りで帰り支度を済ませる。
最近、宮城にメル友が出来た。
いや、ライン友?…まぁどっちでもいいけど
ったく、生意気な。
つか、あやこはどうしたよ…
それにしても、鬱陶しい。
激しく鬱陶しい。
なぜかって?そりゃあ……。
「毎日ピコピコうっせーんだよ」
「え?気になりました?すんませんねぇ」
「いやいや、お前」
「はい?」
「先輩と話す時くらい携帯放置しろよな」
「えー?だって三井サンだし…」
な、生意気な…。
「ああ!?何だてめぇ喧嘩売ってんのか!?」
「おーおー怖い怖い、んな事より三井サンは返さないんスか?」
乱暴にスポーツバッグを肩に背負った俺に、宮城が問う。部室の入り口に意識が向いていた俺の足が、無意識に宮城の方へと方向を変えた。
「あ?」
「名前サン、送ってきてません?連絡とか」
「へ?あ、あぁ…」
その宮城の言葉で俺は、存在すら忘れていた自身の携帯電話を、ポケットから取り出した。
「……」
「あー、その顔はまた返し忘れてたんでしょ?」
「…うっせーな」
俺はそう吐き捨てて、携帯をそのままポケットへとまた戻した。
「あれっ?返さねーの?」
「ああ、まあ…」
「最低だね、名前サンかわいそ」
先ほどまで後輩に上から物を言っていた俺も、彼女のネタになると、どうも立場が逆転してしまう。
苦手なんだよなぁ…連絡取んの。
カリカリと、額を人差し指で掻く俺に、宮城が抑揚をつけて言い放つ。
「恋人同士ってね、小さな連絡でも取り合わないと距離、離れてくんスよ」
「そーなのかよ?」
「そーでしょ!付き合ってる意味あります?そんなんで」
「あー…」
「…ははーん、その反応は既に名前サンに同じこと言われたと見た」
「いや…それは…」
咄嗟に目を逸らした俺の横に、宮城が寄ってきて「帰りましょ」と、言わんばかりに先に部室を出て行った。俺もとりあえず後を追う。
「三井サンさ、」
「なんだよ」
「結婚してるわけじゃあるまいし、連絡頻度って重要スよ?」
「まぁ…」
「女の子ってかまってほしいだろうし」
「……」
「名前サン、綺麗だし美人なのに何で三井サンなんだろ」
「よ、よけーなお世話だよ!」
「俺なら毎日連絡とってあげるのになー」
「お、おめーはメル友いんだろーが」
「いや、俺のライン友達との話っスよ?」
「なっ!?そ、そーかよ!」
完全にペースを乱された俺は、気が付けば宮城から説教を食らっている。いや、分かっている。自分の連絡の頻度の少なさくらい。
名前とは付き合って3ヵ月経った。
俺から告白もした。
ちゃんと好きだし、俺なりに想ってはいるつもりで。
「自分の常識変えねーと恋愛なんてうまくいかねーでしょーよ」
「わかってるよ」
「わかってねーから言ってんの!」
「うっせーな!急にでけー声出すな!」
大袈裟に耳を塞げば、隣から小さな溜め息が聞こえた。
「んで、なんて来てたんスか?」
「あ?」
「さっきのメールですよ」
「あー、なんだっけな…」
「うわっ、ほんと最低ー」
「うるせぇ!2回も言うんじゃねえ!」
「そーゆうのばっかり覚えてんだから…」
ブツブツと小言を付いていた俺も、さすがに観念して再度、自分の携帯を取り出し、先ほど届いたメールの内容を確認する。
「なんて?」
宮城が楽しそうに画面を覗き込んできた。
「…私たち付き合ってる意味……ないよ、ね?」
「いちいち読み上げんなよ」
俺はそのまま、また携帯をしまい込んだ。
そんな俺の動作を、舐めるように見ていた宮城が乾いた声で言う。
「ほらね、男と女って脆いんスって!」
「……」
「よく我慢した方だよ、名前サン」
「……」
「こりゃあ振られるのも時間の問題だね」
あー、うっせ、うっせ。
無視無視。
まあ、宮城の価値観は理解した。
こいつは、
出来れば毎日でも繋がっていたい派
って事だな。
(あれ?どこ行くんスか?)
(どーせだから名前に会いに行くわ)
(…どーせね?どーせ。)
(うっせ!宮城、気ィ付けて帰ろよ)
(ハイハイ。急ぎなよ、三井サンも)
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