放課後。
ゴミ袋を持って校舎を出た俺の目に、珍しく一人で歩いている水戸の後ろ姿が入って来た。
奴の手にもゴミ袋が持たれているところを見ると、アイツもジャンケンで負けたとかその類なのだろう。

「あー?もしもし?」

そんな後ろ姿の水戸が、携帯電話で誰かに電話をし始めた。

「うん、バイト前に声聞いておこーかなーって」

ははん、オンナだな。
なんだよ、いつもうるせー桜木たちと一緒にいるふりして、ちゃっかりヤルことはやってんだな。

「え?そうだっけ?でも俺けっこー電話してない?」

相変わらずスカしてやがるぜ。
こいつって宮城より全然年上っぽいよな…。
なんで桜木なんかと仲いーんだろ。謎だ。

「ああ、バイト終わって遅くなきゃまた電話するよ」

「じゃあね。」と、水戸は電話を切って、ゴミ捨て場にゴミ袋を放り投げた。俺も続けてゴミ袋を投げ込むと、その音で水戸はようやく俺の存在に気付いたようだった。

「あれ、ミッチーじゃん」
「おう、帰りか?」
「ああ、これ捨てたから帰るとこ」

なんか…異様だな、この組み合わせ。
もう気まずいわけでもねーけど…なんだか変な感じだ。

「オンナだろ」
「へっ?」
「さっきのだよ」

少し不思議そうに考え込んだあと水戸は「ああ」と眉毛を下げて、質問の内容を理解したようだった。

「まーね」
「わざわざ電話すんのか?帰りに」
「へ?…なに、めずらしーね俺にそんなの聞くなんて」
「ばっ、ちげーよ!世間話だろ、世間話!」
「ハハ、世間話ね?なるほど」

相変わらずムカつく野郎だぜ。
逆に俺が女々しく変な質問したみてーになったじゃねーか。

水戸がおもむろに地べたに腰を下ろしたので、俺も反動で座ってしまった。チラッと奴を見やれば、目を細めて少し笑っていた。

「名前さんと喧嘩でもしたの?」
「はっ!?し、してねーよ!」
「あそ、ならいいけど」

何で俺イコール名前なんだよ、どいつもこいつも。
別に上手くいってるっつーの。たぶん。
いや、でも俺は電話なんて絶対しねーしな…。
やっぱするもんなのか?電話とかって。

「あ、さっきの質問だけど」
「あ?」
「毎日じゃねーけど、するよ」
「な、なにが」
「電話。」

そう言った瞬間、ゆっくりこちらを見た水戸から、何故か気まずくなった俺は咄嗟に目を逸らした。

「へ、へぇ…」
「しなそうだもんなァ、ミッチー」
「ああ、しねぇな」
「偉そうに言う事でもないんだけどな」
「う、うるせー!」

ハハハって笑う水戸に赤面でムキになる俺。
数ヵ月前に殴り合ったなんて思わせないくらいに、水戸とは普通に話せるようになった。

こいつって…肝座ってるよな、何気に。

「俺、文章とか苦手なんだよね」
「あ、分かる分かる!」
「いやいや。ミッチーよりは返してると思う、さすがに」
「なっ…!」
「だから、電話はするよーにしてるね。毎日じゃねーけど」

「他校だしなー」なんて空を見上げた水戸はなんつーか…落ち着いてて。ふと、オンナってこんな男だと安心なんだろーなー、なんて考えたりした。


まあ、水戸の価値観は理解した。

こいつは、



 

3日に1回は電話派


って事だな。



(…仮に電話したとしてよ)
(うん?)
(なに話せばいいんだよ)
(えっ!そこから!?)
(…悪かったな)

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