左腕の痺れに目を覚ます。
つい先程までナマエと話を止め処なくしていたのだが、腹が膨れたのと、薬が効いてきたのが原因だろうが、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「……ナマエ?」
繋いだままの手を引き、ベッドに頬を付けたまま目を伏せているナマエに声を掛けたが、返事が返ってこない。どうやら深く眠り込んでしまっているらしい。
疲れているようだし、このまま寝かせてやりたいのはやまやまだが、このままベッドの脇で転寝させても身体が疲れるだけだろうし、かと言って流石に一緒のベッドで寝るわけにはいかない。
反対の手を伸ばし、ナマエの肩を揺すると寝ぼけ眼で身動ぎし、それからようやく目を薄く開いた。
「あ、ごめん。ちょっと寝ちゃってた」
ベッドから顔を上げたナマエは、猫のように目元を擦りながら、ふらふらとした足取りで立ちあがる。
「それじゃ、私戻るね」
「なんならココに泊まってってもいいぞ?」
茶化すように言うと、その言葉に覚醒したのか、ナマエは眼を光らせて俺を見た。
「ゾロがそれでいいって言うならいてもいいよ?」
言葉と共にベッドの縁に腰掛けたナマエは、俺の顔の両サイドに手をついて、覆いかぶさるような体勢を取る。
ナマエの言葉に、今しがた発言した自分の言葉を顧みる。
思い返せば、今この部屋にはナマエとふたりきり。
風邪をこじらせた俺のために、他の仲間が、看病係としてナマエを派遣させるなどという、完璧にお膳立てされたようなシチュエーションだ。
そこまで想像してしまい、喉を鳴らして唾を呑み込む。緊張しているのがナマエに伝わるかもしれないという配慮すら出来なかった。
「バァカ、早く戻れ」
挑発するように顔を近づけて来たナマエの顔を、やっとの思いで押し返す。
「ちぇ。」
残念そうに舌を出したナマエは、それでも簡単に引き下がったあたり、本気ではなかったようだ。
惜しいことをしたような気もしたが、そこについては深く触れないことにした。
「うん、わかってるよ」
「水、追加の分持って来たら、ドアの外に置いてくれりゃあいいから」
「わかったよぅ」
「ナマエっ」
帰したくないからなのか、ナマエに呼びかける言葉が、つらつらと押し寄せるように出てきた。
そのすべてをナマエは、朗らかな笑みで受け止めてくれる。
無条件なナマエの優しさに安心して、俺はナマエに甘えてしまっているのだろうと自覚するのは、いつもこんな時だ。
「ありがとな」
今日、ここに来てくれたことも嬉しかったし、今日だけのことじゃない。
優しくされたことも、いつも支えてくれていることも、この船に降り立ったことも、何もかもが、ありがたいと思っている。
そんな気持ちを込めた事を
ナマエは気付いているだろうか。
「あと………あのな」
ナマエの手を強く引いた。
帰したくないという言葉を飲み込む代わりに、これからもまた、変わらず傍にいて欲しいと伝えたい。そのような言葉をナマエが、迷惑に感じることはないだろうと思いながらも、ずっと傍に居たいだなんて、おいそれと言えたものじゃない。
言葉を濁した俺を見たナマエは、ふわりと口元を緩めて、俺の枕元にしゃがみこんだ。
「ねぇ、ゾロ」
「……」
「明日の朝も、心配だから来てもいい?」
俺の浅はかな考えなど、お見通しなのだろうか。
それともナマエの本心なのだろうか。
ナマエの言葉に、俺の心臓は期待に撥ねる。
「……お前が来てぇなら、来れば」
可愛げのない俺の言葉でさえも、ニッと悪戯っぽく笑うナマエは、きっと俺がそれを心から望んでいることを知っているのだろう。
バレていることさえも構わないと思えたのは、一方的に握っていた俺の手を握り返す、ナマエの手の冷たさが、俺の熱で暖かなものへと変わっていったからだった。