あの娘来て桜も酒もうわの空


 ひらひらと舞い降りる桜の花びらに
 愛しい君を見た。
 俺を困らせることにかけては
 君にかなう人はいないだろう。

 でも——。
 そんな君が、好きになってたよ。





 *


「今年もきれいに咲いてるなぁ……」

 俺は一本の桜の木を見つめて酒を飲んでいた。未だ三分咲きだけれど、本当に気の早い花見で。もちろんひとりじゃない、こいつらも一緒の花見酒。

「花・道♪花・道♪花・道♪」
「天才!!」

 と、いう感じで、すでにみんなできあがっていて、潰れているのも数名……。
 俺は桜を楽しみたくて、ちびりちびりと酒を飲んでそれでも時々小さな風と共に舞い降りる桜の花びらが杯に落ちて来るのを楽しんでいた。周りでは賑やかに花見の席が設けられていてこの短いひとときを楽しむ人たちは、みんな笑顔だった。
 俺はひときわでかいと言われる桜の木を見に、酒を片手に歩いた。

「洋平、どこ行くんだ?」
「や、ちょっと散歩。」

 高宮の投げかけにそう答えて、辿り着いた先には、道路の近くに生えている、枝振りも花よりもひときわでかい桜の木。道の近くだから車の排気ガスも吸っているだろうに、そんな気配をまったく見せない美しい花を咲かせると有名でもあった。その根元に座って、春だなぁなんて思いながら自身もかなり酔いは進んでいて、俺は知らぬ間に眠りの中にいた。


 『——ねぇ。』


 (……ん? だれだ……?)


 『ねぇ……』


 (女の子、か……?)


 『お酒くさい息をかけないでよね』


 ——え?と思って目を開けたそこは、さっきまでの賑やかさは無く静かな桜の咲き誇る公園の中、何故か俺はひとりで「夢か?」と。そうつぶやいた俺に対し『夢じゃないから』という声がまたした。

「……は? なんだ、どうなってるんだ……?」
『わたしは、此処だよ』

 その声に視線を上に向けると桜の枝に一人の女性が座っていた。年齢は、同い年……くらいだろうか?

「危ないぜ、そんなとこにいたら」

 思わずそう言った俺に彼女はくすと柔らかく笑うと『大丈夫だよ』と、そう言って、ひらりとその枝から飛び降りた。
 彼女のワンピースが羽のように広がって柄にもなく綺麗だなって、そう思った。

『あなた、名前は?』

 彼女がそう聞くから何故か俺は「えっと」と目を泳がせたあと素直に「水戸洋平……」って答えていた。彼女は俺の前に立ちかがんで俺と目線を同じにする。彼女の瞳に俺が映り込んできてその目が俺を一瞬とらえた。

「きみは——」
『わたしは名前、この桜の木の精。』
「……は?」
『あなたさー、お酒のにおいをさせて此処でもたれて寝てるんだもん』
「スミマセン……」
『たまったモンじゃないんですけど〜、まったく』

 ちょっと(いや、だいぶ?)高飛車な言い方なのに何故か素直に謝ってる俺がいた。飲みすぎたかなぁ、なんて。俺が酔ってまだ夢の中にいて桜の精と話しているんだろうなと思った。なんてメルヘンな夢をみてんだよ俺は……と、自分に呆れていたら——

『ねえ、夢かなにかだと思ってるでしょ?これって、現実だよ?』
「……」
『なんなら、そのほっぺた抓ってみれば?』

 そう言われて素直にやってみた。「いっ…てぇ!」と思わず声を出した俺にまたくすっと笑って『ねっ?現実でしょ』って彼女は笑う。

「……つーことは、君は俺を騙したんだ?」
『はい?』
「桜の精とかデタラメ言ってさ」
『なに? 信じてないの?』
「だって、姿があるじゃないか」
『もう、これだから人間って嫌ー。めんどうな生き物だよね』

 そう言うと彼女は再びふわりと舞い上がった。目の前でふわりと浮いてる彼女を見てもう一度自分で頬をつねってみたが、普通に痛かった。

『これでも信じられないわけ?』
「……」

 だんだん変な現実味が湧いてきて、嫌な汗が出る。あと、ちょっとだけ腰が抜けた感じもあった。

『ね、怖いとか思ってる?』
「いや……怖いってか、幽霊はさすがに初めて見た」
『失礼な奴!!』
「わっ。……びっくりした」

 咄嗟に耳を塞いだ俺に、彼女がさらにムキになる。

『幽霊と一緒にしないでくれる?桜の精って言ってるでしょ!」
「いや、似たよーなもんだろ?」
『似てない!わたしはまだこの桜と一緒に生きてるんだから!』
「え?」
『え? じゃないっ!わたしはこの桜の命、そのものなんだからね?』
「……なんだよ、わかんないよ」
『だれのおかげで花見が出来ると思ってるのよ!』

 だ、だれって……そんなん、急に言われてもなあ。まいったな。さっきからとっくに頭のなかが限界なんだが……。

『わ・た・し・の・お・か・げ、なのっ!』

 えっ——心の声まで聞こえんのか、この幽霊は!

「そう…デスカ。」
『ソウデスカ、って……あのねぇ〜』
「だって君、さぁ」
『なによ』
「いや、桜の花に似合わず……高飛車だなって……」

 言ったあとで、しまったと思った。しかし彼女は、つんとした顔をして、そのままつづける。

『この公園の中で、誰が一番綺麗な桜を咲かせてると思ってんの?』
「……」
『私が一番って言われてるんだよ?失礼しちゃう。』

 腕組みをして怒っている彼女を見ながら、このシュチュエーションに、違和感なくとけ込んでいる自分に気が付いた。

「ところで君さ、なんで現れたんだよ?」
『……え?』
「なんで、俺の前なんかに突然。」
『……なんとなく、波長があったから?』
「波長?」

 枝に座ったまま考え込んでる俺を見下ろしながら、彼女は答えた。

『あのね、今あなたとこうして話してるじゃない?』
「うん」
『他の人には、まったく私の姿なんて見えてないの、わかる?』
「は、はあ……」
『あなた、桜に話しかけてるだけなんだよ?』
「え、俺にしかって…」
『だから!波長が一緒だからってこと、わかった?』
「わかった——気が、する……?」

 とりあえずそう言い返した。なにか納得したようなしていないような……でも目の前にいる桜の精は——��名前�≠ソゃんは、たしかにそこに存在しているわけで。

『……探してたの』
「え?」
『貴方を——探していたの、ずっと。』

 いつの間にか酔いはすっかり覚めてしまっていた。でも、なんとなく。理由がそれだけじゃない気がしたから——。



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