船長談義


「うちの船長ってさ、最悪の世代なんて呼ばれてるやつらの中でもやっぱダントツでカッコイイよな」

 唐突に切り出された話題に、かるたは手作りのうぐいす餅を食べる手を止めて、パチパチと目を瞬かせた。向かい側に座るシャチは真剣な顔で顎に手を当てているが、その口の端には餡子がついている。かるたはそれを指摘せずに、表情を変えないで問うた。

「いきなりどうしたのシャチ。森羅万象イチの愚問じゃん」
「わかる。わかるが口に出したくなった」
「わかる〜」

 シャチとかるたは互いに頷き合った。かるたは手元の皿に食べ掛けの餅を置いて、深く考え込むように腕を組んでこうべを凭れる。

「まずなんと言っても、あの怖いくらい整ったご尊顔ね……」
「目付きはヤベーけどそこがまた良い……」
「そしてあの美しいスタイル……」
「俺らも全世界も羨む長くてバランスのいい美脚……」
「鍛え抜かれた筋肉……」
「豪快に刻まれた刺青……」
「ワイルドなもみあげ顎ひげ……」
「カッケェピアス……」
「敵に見せる薄くて冷たい笑み……」
「カリスマ性……」
「あの低い声もたまらないし……」
「纏う空気もなんか違ぇし……」
「能力使う時の構えとかもう……」
「カッコよさカンストしてるな……」
「『気を楽にしろ』……」
「『すぐに終わる』……」
「私も手術されたい……」
「わかる〜」
「『とるべき椅子は』……」
「『必ず奪う』……」
「「はぁ〜〜〜〜」」
「マジで痺れる……」
「おれらもうメロメロだもん……」
「博識なお医者様だし……」
「べらぼうに強ぇし……」
「頭もキレるし……」
「クールで冷酷で……」
「でもやさしくて可愛い……」
「「わかる〜〜〜」」
「……何やってんだ? お前ら」

 サングラスの下でうっとりした様子の二人に、第三者の声が掛かる。耳当てつきの防寒キャップを目深に被った船員、ペンギンだ。いつの間にかダイニングに入って来ていたらしい。彼はテーブル中央に置かれた見慣れない緑の餅を見て、かるたが作ったおやつだろうと見当をつける。

「船長のカッコイイところについて語ってた」
「でもカッコイイんだけど可愛いなぁって話してた」
「そんな当たり前のことを長々と喋ってたのか……」
「でもたまに口に出したくならない?」
「わかる〜」

 言いつつ、ペンギンはシャチの隣の席について帽子を外す。食事の時は帽子を外すというのは、コックであるかるたが船長のローを含め、すべての船員に言いつけていることだった。ペンギンは餅に手を伸ばしながら、敬愛なるキャプテンの姿を脳裏に浮かべた。

「そりゃめちゃくちゃカッコイイけど、可愛いところもあるんだよなあの人……」
「頬袋いっぱいに食べ物詰めちゃうところとか……」
「焼き魚食ってる時の目元とか……」
「そしてあんなに大人っぽいのに梅干し大嫌い……」
「昔うっかり混入してた時、機嫌損ねまくってた……」
「ああ見えて意外と子どもっぽいよな……」
「私ら三人より年下だしな……」
「そしてパンも嫌い……」
「ケーキすらせっかく作っても食べてくれない……」
「前にかるた怒らせて飯がパンオンリーになりかけた時……」
「ああ……なんかもう必死だったよな……」
「『米炊かないのか……麺も茹でないのか……』ってかるたの肩揺すってたな……」
「すげぇ小せえ声で『おれはパンは嫌いだ……』ってな……」
「あれは確実にしょげてたな……」
「美味しいものいっぱい食べてほしいし……本当にパンだけになんてしないのに……」
「アレ漫画だったらぜってー汗ぴょこぴょこ飛ばしてたな……」
「「わかる〜」」

 ペンギンとかるたが声を合わせて同意する。一息ついて、各々手元のおやつを食べきってから、また口を開いた。

「麦わらにめちゃくちゃペース乱されてるし……」
「あの船長が弄り倒されまくりで……」
「気付けばツッコミスキル磨かれてるし……」
「トニー屋殿のこと結構気に入ってる感あるし……」
「ユースタスの野郎の煽りに簡単に乗っちまうし……」
「負けず嫌いで……」
「結構我が儘……」
「それでもこもこ大好き……」
「前に新調した紺の服、気づいたら首元のファー足されてたな……」
「船長、ベポ枕にすんのも大好きだよな……」
「こないだ寄った島でベポが船長に買ったシロクマのぬいぐるみ、枕元に置かれてたな……」
「つくづくベポには甘ぇよな……」
「ベポのこと大好きだよな……」
「そしてお揃いも大好き……」
「着る服着る服、全部うちのドクロ刻んでるな……」
「まず体にまで刻んでるからな……」
「愛が深いよね……」
「おれたちのこと大好きだよな……」
「大事にしてもらえてるよな……」
「世間には残忍とか言われてっけど……」
「我々クルーだけは知ってる……あのカッコよさに隠れたっつーか隠れ切れてない可愛さ……」
「「「わかる〜〜〜」」」

 しみじみとハーモニーを奏でる三人。「船長最高」「尊い」「ロー船長世界一」それ以降も各々好き勝手に言葉を続け、メロメロの桃色オーラが漂う空間が仕上がっていた。──そんなダイニングの入り口手前に、いつからいたのか棒立ちする男が一人。手に力が入りすぎてバキリと骨が鳴り、血管が浮かび上がっている。そこにたまたま通りがかったベポは、彼に不思議そうに声をかけた。

「あれ、キャプテン、中入らないの?」
「…………」




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