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 その町に踏み入るのは二度目だった。相変わらず分厚い鋼鉄の空が天を隠し、厭にきらびやかな街並みは、妙に品を感じられない。
 江戸とは異なる空気感はまるで異国のようで──実際、その通りなのだろう。ここは地上のルールが通用しない無法地帯。故に勝手な真似はせず、許可した時以外は何も喋るなという取り交わしのもと、羽月は沖田にここまで連れてこられたのだった。
 その上──羽月の細い手首を問答無用で掴んでいるのは、沖田の広い手のひら。

『ちょっと、なんですかこの手は』
『俺だって本来願い下げでィ。こんな場所でテメーみてェなのがフラフラしてっと、一秒で消えかねねェからな』
『迷子になんてなりません』
『なるだろテメーは。いやそれもあるが、ここの治安は地上のそれとは比べモンになんねェ』
『……まさか、かどわかされるとでも? あんな人の多い往来で? それに、幼子じゃあないんですから……』
『んな呑気なようじゃ、やっぱ折り畳んで鞄にでも詰め込んどくべきだったかねィ。オラ、通りに出るぞ。口密閉してろ』

 などというやりとりの末、羽月は釈然としないながらも大人しく彼に腕を引かれていた。
 沖田の手は己の体温より熱く、他人の熱がずっと感じられることは羽月を妙に落ち着かなくさせた。彼の力は、痛いほどではないものの力強さがあり、言葉になり切れない感情が少しずつ口の中に溜まっていく。

(……ちゃんと、あの子に会えるかな)

 握られた腕から意識を逸らすように、羽月は本来の目的に思いを馳せた。あの少年は今、どこにいるのだろうか。この吉原によく出入りをしているというだけで、今ここにいるとは限らない。仮にいたとしても、そう狭くはないこの地下都市で運よく巡り合える保証もなかった。
 きょろきょろと辺りを忙しなく見渡しつつ、沖田に引かれて煌びやかで騒がしい道中を進む。最初に来た時よりも、胸の内がざわついていた。同じ天井の下、暗さは変わりないとはいえど、まだ日のある時間と、今のような完全な夜では心持ちに影響があるということだろうか。──というのは言い訳だった。そんなことよりも、義祖父の『言いつけ』を破っていることや、自分を捜しに来た赤根(あかね)のことが気にかかっていた。
 遠慮がちに歩いていた羽月は、ますます肩を縮こませた。それでも、目線だけは周りに巡らせ続けていた。

「ちょいと旦那旦那!」

 唐突に、女性の興奮したような声が意識に割り込んできた。旦那とは、妻を持つ男性や店の主人……要するに、ある程度年齢を重ねた者に使われるイメージを持っていたため、女性が声をかけた相手が沖田であったことに、羽月は最初、気が付かなかった。

「その子、ウチで預かるよ!」
「あァ……悪ィな奥さん。こいつァ他人と長く目を合わせると発狂し始めるんでねィ。別ン所で売っ払うつもりなんでィ」

 はて、預かる? 売っ払う? というかなんですかそのおかしな設定は──と疑問符を浮かべるとほぼ同時に、羽月の目の前が真っ暗になった。

(え、)

 顔面が何かに押し付けられて声が出せない。自分のものじゃない香りが鼻にかかり、頬から、布越しに微かな温度が伝わる。後頭部に強く押し付けられた何か──恐らく沖田の片手に違いなかった──は、痛みをもたらすことこそなかったが、羽月の動きを完全に封じていた。
 抱き締められている。
 顔を隠すかのように、沖田の胸元にぎゅうっと押しつけられている。

「……!?!?」

 全身が岩のように硬直し、頭の中身がくらくら揺れる。沖田と女性は何言か会話を続けているようだったが、羽月の耳は正常に拾えなかった。秋めく夜は気温も下がりつつあったが、血液が急速に巡り始めて、心臓がバクバクと脈打ち、とりわけ顔と耳が燃えるように熱くなっていく。
 抱擁というにはあまりにもがさつで、だけど単なる掛け合いとはほど遠い彼のアクションに、ただただ思考は飲まれ、呼吸もままならず、ともすれば気絶しそうだった。
 少しして、後頭部が解放される心地がした。羽月が慌てて身を引き剥がしたのと同時に、再び腕を掴まれ、早足で女性のいる店から離された。

「な、な、……」
「黙れ。にしても、やっぱ女子供は目立つな……いや、それ以上にこのツラか……」

 衝撃と、沖田からの強引な指図のせいで二の句が継げない羽月を彼は横目で見やる。その彼が突然、己の羽織を脱いだかと思うと、熱の集まった羽月の頭にかぶせ、さらに雑に巻きつけた。「わっ!?」視界が塞がれてもがいているうちに、今一度手を取られて軽く引かれる。前が見えないせいで、足元までつんのめりそうになって、けれど沖田の掴む腕が力強く羽月の体勢を支えた。

「そのままツラ隠してろィ」

 空いた片手で何とか羽織をいじっているうちに、どうやらどこぞの店に入ったらしい。布越しに沖田と店主と思われる男のやりとりが聞こえる。ようやく布のほどけそうな端を掴んだものの、彼の指示を破ることは状況を何かしら悪化させるような気がして、羽月はそこでこらえて動きを止めた。

(だ、駄目だ、一度落ち着いて、思考をまっさらに……)

 しかし裏地に未だ残る他人の体温と、彼の持つ不思議な香りが、羽月の意識を容赦なく支配する。ほどなくして会計が終わったらしい、再び腕を引っ張られ、少し歩かされ、被せられていた羽織をようやくはぎ取られた頃には、彼は先ほどまでなかった風呂敷を手に提げていた。

「お、沖……」
「黙れ喋るな口に布でも突っ込まれてェかコノヤロー」

 とりつく島もなく、沖田が次に羽月を引っ張り込んだのは店と店の隙間の路地だった。
 細く、暗く、黴びたような匂いが鼻につく。大通りの喧騒が遠い。打ち捨てられたゴミに紛れて、赤黒い汚れが見えた気がした。
 暗い。
 暗い、暗い、くらい。
 背筋に悪寒が駆け抜ける。首筋に嫌な汗が浮く。とうに忘れたと思っていた記憶が、黒い底から、蓋を開けてこちらを見ていた。

「……ここまで来りゃいいか」
「あの、ちょっと、こ、こんな暗い場所、私、」
「オラ、ここなら誰も見てねェ。脱げ」

 ──と、耳を疑う命令が下り、己を支配しかけていた恐怖がすべて吹き飛んだ。ついでに、一瞬呼吸も止まった。たちまち石窯のように、顔に熱が集まり始める

「……なっ、え、な……はァっ!? とっ、とうとう頭がおかしくなってしまわれたんですか!?」
「とうとうってなんでィてめェよか正常だわ。いいからとっとと脱いでとっととこれ着ろ」
「なんと失敬なっ……、これ、は……」

 沖田に押し付けられた風呂敷は、先ほど彼が手際よく入手したものだった。その中身を確認して、彼の意図を汲み取るや否や、羽月の中の怒りと混乱はみるみる収束していく。やがて彼女は、二度ほど冷たい空気で深呼吸をすると、観念したように己の帯に手をかけた。

「……あちらを向いていてください。振り返っても、どこかに行っても、殴り飛ばしますよ」
「テメーのない色気にゃ興味ねェからとっととしろ」







「……なんだか、慣れません」
「慣れる必要ねェ。こんなこた今日だけでィ。二度もガキのおもりなんざしてやるかよ」

 沖田が用意したのは男物の袴だった。男でいえば子どもほどしかない、羽月の華奢な体躯に合わせて調整するのは苦労したが、ある程度着こなせていたのは幸運だった。最初に着ていた着物は風呂敷に包み、羽月はしゃんと立ち直す。

「さっきの店主から、そのガキらしい奴が足繁く通ってる所を訊いた。運が良けりゃ、その辺り張ってりゃ会えんだろ」
「えっ!?」
「ま、今日はもう帰っちまったかも分かんねェが……」
「い、行きます! 連れて行ってください、沖田さ……」
「その呼び方もやめろ。いいか? 俺たちは今だけ仕方なく兄弟ってェ設定だ。それらしく振舞っとけば、さっきよか悪目立ちしねェだろ。ま、それでも余計にしゃべるんじゃねーぞ。声の高さは変えらんねェからな」
「き、きょうだい……」

 元々被っていた短いウィッグもいい演出となっていた。背格好であればほとんど少年の出で立ちだ。よく顔を見なければ、すぐには女だとも気づかれまい。

「オラとっとと行くぞ愚弟」
「……はい、お兄さま」
「……」
「なんですかその嫌そうな顔は! おじいさまはおじいさまだったんです! なら兄はお兄さまになるのが必然でしょう!」
「いやしらねーよそんなテメーだけのマイルールは。つーかいちいちでけェ声出すんじゃねェやその口縫い付けられてェのか」

 相も変わらず腕を引かれて、ようやく暗い路地裏から表通りに戻る。眩しい照明が目をくらませ、羽月は一瞬目を細めた。
 不思議な街だった。眩しいのに暗くて、賑々しいのに闇が張り付いている。あまり長居するものではないと思わせるような、妙な不穏さがこの街には蔓延っていた。

「しっかし……ホントに会えんのかねィ。あーあ、バカの織り成すバカに巻き込まれて今夜は散々だ」
「バカバカ言わないでください。大体貴方っ、薄々思ってましたけどおまわりさんなら子どもを助ける責務があるんじゃないですか?」
「全世界の全ガキ簡単に救えたらワケねーよ。第一そういうのは、基本真選組(ウチ)の仕事じゃねェ」
「なら奉行所の方に保護してもらえるようにするだとか、なにかしら方法が……」
「そもそもさっき自分で言ってたろィ。ソイツはこの吉原に母ちゃんの幻想見て執着してる限界妄執キッズだ」
「勝手に幻にしないでください、本物かもしれないじゃないですか」
「どっちでもいいわ。ともかく、此処は地上(うえ)のルールが通用する場所じゃねェし、そもそもガキが来るような街でもねェ。警察で保護するってなりゃ、ガキをホイホイ出入りさせるわけにもいかなくなる。それはあちらさんも望んでねェんだろ」
「そ……」

 羽月はそれ以上、反論をやめた。
 会話をやめた二人は、目的の店に向かってひたすら街を歩き続けた。年齢層の高いここでは、それらしき幼い少年は見かけたらすぐに分かるだろう。あちこちに視線を飛ばしては道を進み、ついでに隙がありそうな人間には沖田が少年の目撃情報を訊ねた。
 そんな中、羽月はふとあることに気づく。

「旦那っ、そこのお若い旦那ァ! ウチに寄ってかないかイ?」
「いいえウチにいらっしゃいな! サービスするよ〜!」
「お兄さ〜ん! どうぞウチにいらして!」
「あとで検討しまさァ」

 こちらに向く、華やかな女性たちの目が変わった気がする。というか、先ほどまでは客引きすらされなかった。変わったことといえば自分の姿だけだが、女を連れていないことがきっかけになるのだとすれば──さしもの羽月も、ほとんどない知識から「この街はおそらく男性をメインターゲットとした娯楽施設(・・・・)が多いのだろう」という漠然とした答えにたどり着き、やはり口を閉ざした。
 沖田は集まってくる女たちを適当にあしらいながら進み続ける。彼女たちは、時には少年と思い込んだ羽月にも絡んできたが、そのほとんどが沖田を目当てとしていた。
 ──沖田さんが、モテている……。
 それは不思議な感覚だった。平生、仕事をサボったり、自分に嫌がらせばかりしてくるような嫌な男が、女性の人気を集めている。どうも彼は世間一般からして、相当に容姿端麗の部類に入るらしい(やむを得ず彼と行動を共にしている際に、町の女の子が吸い寄せられるように声をかけてきたことが一度ではなかった)のだが、自分に対する印象があまりにも良くないことや、もとより他人の美醜への関心が薄いために羽月は一般的な判断があまりできていなかった。
 沖田は表情の一つも崩さず、飄々と客引きをあしらっている。こういったことは慣れているのだろうか? 自分はどうにも肩身狭く、声をかけられるたびに思わず『お兄さま』のほうに身を寄せているというのに。
 街を歩いて客を誘う女性たちもいれば、檻のような装飾の店から、こちらになまめかしく声をかける女性たちもいる。そこらの浪人に色っぽく腕を絡ませる女もいる。羽月はだんだん、ウィッグ下の額に汗が浮いてきていた。あまりにも場違いな街にいるという実感が、彼女を所在なくさせる。

(早く、あの子を見つけよう……)

 居た堪れない気持ちを抑え、あの少年があわよくばその辺りにいないかきょろきょろと目を動かし続ける。しかしやはり、道中に彼らしい少年の姿はない。
 客引きの女たちを切り抜け、最後の望みである例の店が次の角に差し掛かったところで、羽月は目を見張った。ちょうどそこから飛び出してきたのは、一際小さな影。

「ああっ!」
「えっ!? 何!? ……って……その声……」

 声を上げた羽月に身を震わせたのは、まさしく羽月が探していた子どもの姿だった。羽月は風呂敷をその場に手放し、沖田に掴まれていた腕も振りほどいて──彼も手を弛めてくれていたのだろう、さほど力は要らなかった──少年の元にまっすぐ駆け寄る。

「よかった! ようやく会えました!」
「も、もしかしてモミジちゃん!? 何でここに、っていうか、何そのカッコ……」

 髪型も服装も記憶と大きく異なる羽月に、少年は混乱したように目を白黒させる。羽月は袴が汚れるのも気にせず地面に膝をつくと、彼の両の手を迷いなく取った。まだ未発達で、爪も割れ、ささくれ立った小さな手は、小柄な羽月の両手にそれでも綺麗に収まる。あたたかな手中で、彼の手が困惑するように震えた。

「私、貴方の味方です」

 少年は息を呑んだ。呼吸すら忘れたように、目の前の羽月にくぎ付けになる。

「応援しています。諦めることなんてありません」
「……」
「私も……物心ついたときから両親がいなくて」
「……モミジちゃんも?」
「はい。おじいさまが、ずっと私を育ててくれたんです。おじいさまに私は竹から生まれたと言われていて、幼い頃はずっと信じていたんですけど」
「……」

 大きな両目が馬鹿を見るようなまなざしに変わったことに、羽月は気が付かずに話を続ける。

「でもそれは違うと途中で気が付いて、本当の両親がいるはずだって。私、おじいさま以外の家族のことを知らないし、育った村より外のことも全然知らなくて、知りたくて……ほかにも理由はあるんですけど、だから私、おじいさまの死をきっかけに、江戸に来たんです」

 奇しくも自分と同じ天涯孤独の身であったことに、思うところがあったのか。少年は羽月の語りに、静かに耳を傾けていた。
 吉原の往来は相変わらず賑々しく、少し人が捌けたこの街角でも、誰もいないわけではない。しかし、二人の耳は人々のざわめきを拾うことなく、ただただ静かに互いへ意識を向け合っていた。

「この江戸で過ごして……大勢で賑やかにお花見をしたり、遊園地に行ったり、船で空を飛んだり、美味しいものを皆で食べたり……色んな人に出会って、色んなことを体験して、色んなことを知りました。ずっと、幼い頃から、そんなことは夢のまた夢だと思っていました。でも、少しずつ叶ってるんです」

 江戸に来てからのことを、なぞるように思い出しては言葉にする。本当に、たくさんのことがあった。たった一人で村を飛び出してから、羽月は羽月の中にある世界が、際限なく拡がっていくのを感じていた。

「だからきっと貴方も叶います。諦めずに、行動を続ければ、いつかきっと状況は変わります。晴れない空などないように、不変のものはないんです」
「モミジちゃん……」
「吉原は、ずっと無月(むげつ)の空ですね。ここを覆ってるのは雲ではなくて鉛だから、次第に晴れることはないけど……」

 少年の手を握る力が、自然と、ほんの少し強まる。一度目を伏せた羽月は、確たる信念を持って今一度彼の瞳を見据えた。

「でも、どれほど雲が分厚くても、その向こうには必ずお月様があるんです。そして朝になれば、お天道様がちゃんとそこに存在しているんです。見えなくても、雲はいつか必ず晴れるんですよ」
「……うん……そっかァ」
「はい」
「……オイラたち、ちょっと似てるね」
「ふふ、そうかもしれませんね」

 ようやく少年から離した手を、そのまま口元に添えて笑う羽月。ずっと強張った顔をしていた少年も、いつの間にかくすくすと口元を緩ませていた。

「……そういや、名前言ってなかったね。オイラは晴太」
「晴太さん?」

 羽月が呼ぶと、さん付けされたことに対してか、そもそも名を呼ばれたことに対してか、晴太と名乗った彼はなんだか居心地が悪そうに、ソワソワと目を泳がせていた。対する羽月は、自身が偽名を教えてしまったことに対しての罪悪感が、ぐるぐると渦巻き始めていた。けれど訂正するには場所が悪く、そもそも今さら嘘だったなどと伝えては嫌われるかもしれないと思い、彼女は嫌な心地を飲み込んで曖昧に笑った。

「ぐえっ!」
「オイ、感動の再会は終わったか」

 ふいに頭を掴まれて上を向かされ、羽月はようやく沖田の存在を思い出した。その雑な呼びかけに抗議したかったが、彼をすっかり忘れていたバツの悪さからすぐには言葉が出なかった。

「お、オイ、モミジちゃんに乱暴すんな! DV彼氏ってヤツか!?」
「違います」
「おにーさまでさァ」
「違います」

 羽月は被せ気味に否定した。







 すっかり夜も深まり、黒い天は曇っているのか星も月も見えない。けれど江戸の町は人工光に溢れており、夜道はさほど暗くはなかった。
 羽月は沖田、晴太と共に地上へ戻ると、改めて晴太に向き合った。

「あの、晴太さん。真選組へ来ませんか?」
「え?」
「あ、真選組っていう、警察なんですけど、私そこで女中をしているんです。皆さんとても親切で、きっと良くしてくださいます。晴太さん、きっと……生活が苦しかったり、色々と大変だと思うんです」

 沖田には、真選組で保護するのは晴太の望む形にならないと言われていた。それでも、やはり、羽月はまず晴太に自分の身を大切にしてほしかった。一時(いっとき)母親にさえ会えれば、あとはどうでもいいだなんて思ってほしくなかった。その先の未来のことも考えてほしかったのだ。
 羽月からたくさんの真心を向けられた晴太の目が揺らぎ出す。けれど、彼は小さな頭を横に振るった。

「……警察は嫌だよ。オイラ、スリは初めてじゃないし。きっと捕まっちゃう」
「……確かに、盗みは悪いことですけど……でも、やむを得ない事情があるのなら、皆さん……とくに局長さんや朋子さんはとてもおやさしいので、きっと話を聞いてくださいます」
「そんなの、アンタの推測でしかないだろ。それに捕まらなかったとしても、保護とかなんてされたら、きっと吉原に出入りできなくなっちまう。オイラ、絶対に絶対に母ちゃんに会いたいんだ」
「……そうですか」

 そして、晴太がきっとそう答えることを、羽月は何となく悟っていたのだった。こういう時、どうするのが正しいのか、彼女は未だ分からない。それでも彼女は、手を差し伸べ続ける。

「分かりました。では真選組はやめて、一緒に行きましょう」
「え? 行くって……どこに、」
「私、考えてたんです。仮に真選組が駄目でも、他にどこか、貴方の環境を変えてくれる一手となってくれる場所があるはずだって。大丈夫、私もこの沖田さんも、何度もお世話になっていて、とても頼もしい方々です。……事情があって、私はそこまで行けないんですが、あとは沖田さんが案内してくださいます」
「オイ何勝手に決めてんでィ」

 沖田の至極真っ当な苦情を無視して、羽月は夜を照らす日のように、自信ありげに笑った。

「かぶき町にある万事屋さんを、ご存じですか?」