遊園地01
「とっつァん、あやつが今回の標的?」
「おうよォ……あの野郎、体中からチャラチャラなんて擬音出しやがって。栗子を一時間も待たせたその罪、残りの人生すべてで償ってもらおう」
「ちょっと待てェェェェ!!」
江戸の一等地、駅から数分の場所にある、若者から子連れまで幅広く楽しめるテーマパーク──大江戸遊園地。その入場ゲート付近の茂みの陰から、娘の彼氏に物々しくライフルを向けた松平に、土方はいよいよたまらず声を上げた。
「オウオウ、あんまりでけェ声で騒ぎ立てるとやっこさんに見つかっちまぐえェっ」
「とっつァん、一体何の真似だこれァ」
ずいっと近寄る朋子を押し退け、土方は松平に詰め寄る。上司の命で、わざわざ仕事を休んでまで来たというのに、蓋を開ければ娘の彼氏の抹殺。これは何の冗談だ? 決戦だのなんだの言っていた先日の空気はどこへいった?
松平が一人娘のことを目に入れても痛くないほど可愛がってることは知っていた。だが、どうして組織のトップ総出で、その娘のデートの邪魔をしなければならないのだ。税金泥棒などと揶揄されても、これでは反論の余地もない。
しかし現状に表情を歪ませているのは土方ただ一人であった。栗子の彼氏、七兵衛を「貴様に娘はやらん」とでも言わんばかりに睨みつける近藤。久々に栗子の姿を見て「見るたび美人さんになってるっつーか大人っぽくなってるしマジ光陰矢のごとしなんだけど怖くね? 時があたしを置いていく」と気ままに呟く朋子。そして涼しい顔でそれらの光景を達観している沖田と──その隣で、手も当てずに大きなあくびをしている、雪。
「……つーか、何でお前がここにいんだ。何レギュラー顔で混ざってんだ」
「それよか多串くん、アレ」
「誰が多串くんだァァ! 誰だコイツに余計なこと教えたの……って、何やってんだ近藤さん」
「誰が近藤さんだ……殺し屋ゴリラ13と呼べ」
雪が視線で示した"アレ"……どこから取り出したのか、松平同様に大きなサングラスを掛けてライフルを構えた近藤に、土方は蔑むような冷えきった眼差しを向けた。
「何そのグラサン。何、サーティーンって」
「不吉の象徴だ。今年に入って13回女にフラれた。とっつァん、俺も手伝うぜ。栗子ちゃんは小さい頃から見知って、俺も妹のように思ってる。あんな男にやれん」
栗子ちゃんには自分みたいな質実剛健な奴が似合う気がする、いやお前みたいな奴は嫌だ、とくだらない応酬を続ける近藤と松平。しかし、栗子からあの男を引き剥がしたいという点では意気投合する二人だ。彼らはシンクロしたように駆け出すと、他の客の視線も何のその、栗子らを追うように遊園地のゲートをくぐっていった。
「オイ待てコラァァァ! ヤベーな、アイツら本当にやりかねねェ。総悟、朋子、止めにいくぞ」
「誰が総悟でィ」
沖田のその台詞に、嫌な予感と強烈なデジャヴ。土方がそちらを見れば案の定、近藤と同じくサングラスを身に着けライフルを担ぐ彼の姿があった。
「俺は殺し屋ソウゴ13」
「何やってんの? お前まで何やってんの?」
「雪さんもなんか奢りやすぜ。とっつァんの金で」
「ヤッターついてこ」
「そんじゃ土方さん、おもしろそうだから行ってきやーす」
「おい待てェェェ!! ていうか何お前らいつの間にそんな仲良くなってんの!? 怖いんだけど!?」
いつにも増して軽快な足取りの沖田と、そんな彼に追随する雪。自由奔放な二人の背中に、土方は心なしか痛む頭を押さえる。どうして自分には上司にも部下にも、その周辺にすらロクな奴がいないんだ? しかし彼らを放っておくわけにもいかないと、すぐに切り替えて残った朋子の名前を呼んだ。
「朋子、早くアイツら止めに行、」
「ちょ土方さんアレ!?」
突然騒々しく叫び出した朋子に、土方は退きながらも「今度は何だ!」と怒り混じりに問う。
「ほらアレ羽月ちゃんとザキだよねアレ! 何、なんであの二人が遊園地一緒に来てんの!? 何でザキが羽月ちゃんとデートできんの!? あたしだって羽月ちゃんと遊園地デートなんてしたことないのにィ!?」
「うるせェェうぜェェェ!!」
朋子の指差した先には、私服に身を包んだ羽月と山崎の姿があった。年若い──といっても山崎のほうは土方よりも年上であるが──男女が二人きりで遊園地に訪れるそのシチュエーションは、誰がどう見てもカップルそのもの。羽月のことを可愛がっている朋子としては、まさか二人は付き合っているのかという疑念を一刻も早く消し去りたかった。もちろん、答えはNOであることを信じて。
「ていうか遊園地行くとかあたし聞いてないんだけど! なんかこう、立ち話のついでとかに話してくれても良くない? っていうかここは普通ウルトラソウルフレンドであるあたしと行くべきじゃない?」
「休日の予定まで逐一お前に言う義理ねェだろ」
「大体なんでザキ? 花の10代に対して30代だよロリコンもいいとこだよ、ダブルスコアいくんじゃねアレ。セクハラだよ犯罪だよ。ザキが童顔だからまだなんか絵面的に中和されてるだけで」
「知らねェ男よかマシだろ……」
「いやどこぞの豚の骨だったらすでにあたしの拳銃が火を噴いてるね」
「馬な馬。つーかシャレにならねーからやめろ」
苛立ったように顔の影を濃くする土方をよそに、朋子は懐から取り出したサングラスを掛ける。
「おっとこうしちゃいられん。さァ尾行しますよ!」
「待て待て待て、なんで山崎のほうだ。俺たちゃとっつァんの……」
「イヤ栗子ちゃんたちのほうはもう頭数揃ってるからね。あたしたちはザキ抹殺担当になりました」
「なりましたじゃねーよなんで身内のデート邪魔しに行かなきゃなんねーんだ!」
「いや違うあれはデートなんかじゃありません断じて。さては土方さん、同じ画面にキャラ同士が映っただけでコレは付き合ってる! って軽率に盛り上がるタイプだな?」
「何の話だァァァ! つーかお前が最初にデートっつったんだろーが!」
「さあ見失う前に行きますよ! 羽月ちゃんの貞操はあたしたちが守らなきゃ!」
「いらねーだろどんな邪推してんだ!」
「っていうかぶっちゃけ面白そうだよね」
「しるかァァァ!!」
朋子は叫ぶ土方の腕を半ば強引に引っ張ると、羽月たちに悟られぬようその後を追いかけ始めた。