2章
「やあ、久しぶりだね」
暫く会っていないダイゴからポケナビに連絡が入った。自宅でのんびり……いや、だらけて過ごしていた私は慌てて取る。出たときの声が上ずってしまったのは許してほしいし、忘れてほしい。
「突然ごめん。今大丈夫だったかな?かけ直したほうがいい?」
「ううん、大丈夫。家でのんびりしているだけだから」
「それならいいんだけど……。あ、そうだ。ナマエに会いたいし、そっちに行ってもいいかな?」
「……ええ!?だ、大丈夫!問題ないよ!えーっと……ダイゴが良ければなんだけど、1時間後だとありがたいかな」
「ふふっ、うん。じゃあ、1時間後にそっちに行くね」
お互いに「また後で」といい、通話を切る。……ちょっと待ってー!今から?ダイゴが?私の家にくる??「なんの要件なのか聞くの忘れた。何しに私の家へ来るんだ??」って考えているうちに10分くらい経過していて、慌てて片付けをし始めた。のんびりしていたポケモンたちがバタバタしている私を見て、なにか手伝うことあるかな?ってそわそわし始める。
「バタバタしてごめんね……!みんなここらへんで寛いでいて欲しいな!動くとぶつかっちゃうかもしれないし……!」ってみんなに伝えると、それぞれ「わかった」的にひと声鳴いてくれた。良い子たちだ……!「後でポロックあげるからねー!」なんて言いながらみんなの頭をなでていると、思っていたよりも時間が過ぎてしまった。
「あー……ごめん。急すぎたよね」
結局1時間猶予をもらったのに散らばった物をしまうことしかできなくて、バタバタしながら出迎えたら少し困ったような顔を彼にさせてしまった。確かに急だったこともあるけど、普段から片付けていない私が悪いの……。身なりを整えて、散らばっていた仕事の資料は机の端に置いて、脱ぎ捨ててあった洋服を洗濯かごにぶち込んだ。この1時間で出来たことはそれだけ。エスパータイプのポケモンがいたらもっと時短できるかな?なんて思うときもあるけどね。あとは、うちの子たちが可愛すぎてちょっと和んでた時間があったからかな。
「仕事の資料が片付けしきれなかったから、ちょっとごちゃついているけど許してね」
「急に押しかけてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだよ……」
「気にしないで。ところでコーヒーと紅茶どっちがいい?」
「温かいコーヒーで」
「了解ー!いつもみたいにそこのソファーでゆっくりしててよ」
そう言って私はキッチンに向かって、ヤカンに水を入れ火にかける。私はどの紅茶飲もうかな……なんて棚の中を見て考える。どれもダイゴから頂いたものでとても美味しい。
「あれ……?この子……?」
ダイゴ声が不意に聞こえたのでそちらを見るとソファーに座るダイゴの足元あたりに水色のまんまるなフォルムが見える。おそらく床を転がっていたであろうタマザラシがダイゴの足にぶつかったのだろう。ころころするのはいいけど、ちゃんと周り見て欲しいよね。怪我してしまわないか心配になる子だ。
「あー……その子は数日前に来た子だよ。知り合いに頼まれていた《かいがらのすず》を取りに行ったときに洞窟で出会ってね。もともと人懐っこい子だったみたいでうちの子たちと遊んでるうちに懐いちゃって。ころころしてて可愛いよね〜」
「ひんやりしてて、はがねタイプに通じるところがあるよ……」
ダイゴは足元にいたタマザラシを軽々と抱き上げ、自分の膝の上に乗せる。ゆっくり優しい手付きで撫でる彼の表情は穏やかだった。
火にかけていたヤカンが鳴って、熱々のお湯を事前に用意しておいたマグカップそれぞれにお湯を注ぐ。湯気が漂うマグカップを両手に持ち、ソファーに座る彼の隣に腰をおろす。私と彼の間には少しの隙間があって、もどかしい。この距離が縮まらない。タマザラシを撫でていた手と逆の手にコーヒーの入ったカップを渡す。
「味、大丈夫?久々にダイゴのコーヒー入れたからちょっと不安……。シュガーとミルクは平気?」
「ふふっ、いつも通り美味しいから安心して。ブラックで大丈夫だよ」
「そう……よかった」
ほっとして近くに置いてあった"みがわり"のぬいぐるみを抱き寄せ、私も熱々の紅茶を飲む。一息ついたところで、今日急に私の家に来た理由を尋ねてみる。
「ダイゴにしては珍しく連絡してすぐにここ来たけど、何かあった?急用??」
「つい先日まで他の地方に行っていたからね。しばらく会ってないなーと思って」
勘違いするからその発言やめてくれ!なんて思ったけど、口に出すことはできないので「そっか。来てくれてありがとう」とポーカーフェイスを気取りながら返す。最高に可愛くない女をしてしまった。違うの、そういうつもりじゃないの。
「……どこの地方行ってたの?」
暫く無言が続き耐えきれなくなった私がやっとの思いで声を発すると、くすくすと笑う声が横から聞こえた。私、何か変なこと発言してしまったのだろうか?
「ごめんごめん。石の話になってしまうからどうしようか……と思ってたからさ。聞いてくれたことが嬉しくて」
「もうっ!ダイゴが出張してたの知らなくてミクリにびっくりされたんだもん!どこに行ってたのか気になって……」
「あれ……伝えていかなかったんだっけ?ごめん、伝えた気になってたよ」
むすっ!とし、不貞腐れ気味で返すと「悪気はなかったんだよ?」なんて言われてしまう。クスクス笑いながら言われても許したりなんてしないんだからね。それはさておき、どうやら今回はガラル地方に行っていたらしい。だから、ミクリのところにその地方のお土産があったのね。納得した。
「ミクリのところに行ってること多いだろう?彼に渡しておけば君の手に届くと思って」
「一言くらい連絡入れといてくれてもいいのに……。ファンからの差し入れ?なんて聞いてしまったよ」
だってミクリのファンなんであんなにセンスがいいんだろ?って毎回思ってしまうくらいだよ?それにいろんな地方にファンがいるからね……。
「それは申し訳ないな。ボクのお土産どうだった?」
「毎回私が好きなもので凄い嬉しいよ!紅茶とスコーンがもう最高だった!ガラルはアフタヌーンティーが充実してるんだね。羨ましいよー!」
「実際にあっちでアフタヌーンティーを体験してみたんだけど、すごく良かったよ。今度は一緒に行こう」
「いいの!?行ってみたいところ沢山あるんだ!それにジム戦も独特だよね!いいなー」
「ジムチャレンジしたいの?一種のスポーツだけど、大丈夫?」
「いや、無理です。観客無理……バトルはしたけど、スタジアムに観客入れないで欲しいな」
私の目の前ではダイゴがまたもやクスクス笑っている。笑っている場合じゃないですよ。何回かテレビ中継されているのを見たことがあるガラルの試合にもし自分が出たら……と想像するが無理だ。大勢の人に見られながらのバトルは集中してできる自信がないし、それにあの歓声。小心者なんで中継されるのも絶対に嫌。
「もしナマエがジムチャレンジするのならボクが推薦状を書くのになー……」
「推薦状!?そんな顔して言ってもやりません!」
「嫌だな。君とガラルチャンピオンのバトルが見てみたいなって思っただけだよ」
「腐ってもホウエンチャンピオンめっ!」
ホウエンのリーグに挑んだことはあるけど、四天王を倒すので精いっぱいだった。チャンピオンは無理。ダイゴのメタグロスが強すぎる。しかも余裕たっぷりでバトルしてくるんだ……!もう二度とリーグに挑まないと心に決めたんだ。それなのにこいつは……!そもそも私がガラルチャンピオンと戦うところまで勝ち上れるのかだよ。ダメダメ、ひとまず話を逸らそう。このままだと推薦状を本当に書いてしまうかもしれない、それはとても困る。
「ところでジョウトのワタルさんはポケモンでワールドチャンピオンシップスの決勝戦がガラル地方であるんだっけ?ダイゴは今回呼ばれていないの?」
「スケジュールが合わなくて今回は参加してないよ」
「もし参加するなら教えてね。絶対行くから」
「そうなったら一番良い席を確保してもらわないとね」
時折出てくる良いところのお坊ちゃん感かと思ったけど、違う。これはどちらかというとチャンピオンだから…自分の地位をうまく活用するやつだ。ダイゴのバトルを眺めの良い場所で見れるのはいいなー……。優しいお兄さんって感じの男性だけど、相棒たちはとても大きくて頼りになる強い子たち。このギャップがまた良いんだよね。
「バトルが中継されてるってことは……、ボクが一番強くてすごいことがガラル中に広まってしまうかな?」
「向こうは10年無敗のチャンピオンだけど……?」
「あっちにはダイマックスがあるけども、ボクとメタグロスの絆はそう簡単に負けないさ」
自信満々に自分が強いって言うところがチャンピオンを思わせる。この地方のトップトレーナーはやっぱり凄いな。あー……でも、ダイゴのバトルが中継されることによって、彼のことを好きな人が増えてしまうの嫌だな……。ただでさえ某洞窟にいるイタコのおばあちゃんが「イケメン」って言ってたくらいだ。ただで複雑な気持ちでいるのに嫉妬の塊になってしまう。
今の幼馴染っていうポジションでこの関係を壊したくない反面、彼の一番になりたいと思う私は結局ずるずるしてしまっている。いつになったらこの関係に終止符が打てるのだろうか。