1章

「ナマエ……、ここに来る頻度が多くなってないかい?」

 ミクリの家のリビングでのんびりと紅茶を飲んでいると、突然放たれた言葉にギクリ……とする。最近、ちょっとルネシティに来る頻度多いかな?なんて自分でも思っていたから驚いた。ミクリにしか相談ができないから、必然的にここへ来る頻度が上がってしまう。これでも一応ジム巡りをして《そらをとぶ》や《ダイビング》を使えるようになっているから、相棒たちと気軽に来ていると言えば来ているんだけど……。

「気のせいだと思うよ!……たぶん?」
「はあ……紅茶でも飲んで落ち着くと良い。まったく……いい加減、言葉にして伝えたらどう?」
「それができたら苦労してないよ!」

 ここ最近、そこまで忙しくないミクリを捕まえてアフタヌーンティーを楽しむのが日課って言えてしまうほどほぼ毎日通っている。ホウエン地方8個目のジムでチャレンジャーが少ないということもあり……ってことで、できていることなんだけども。とはいえ、コンテストマスターなミクリは忙しいはずなのにも関わらずこうして私のために時間を作ってくれる。眉間にシワを寄せて、うーんと唸っていたら、
「そんなに悩まないで、私の美しさで少しは癒やされてくれ」
「もちろんだよ」
 なんて冗談ではない冗談を叩き合えるから今日はまだマシ。嘘ではなく本当にミクリはとても美しくて、女の私よりもずーっと綺麗で正直羨ましい……といつも思っている。それでいて「恋する乙女はいの一番美しくないとね」なんて言って私のお肌手入れまでやってくれる。
 ほら、こんなことを思っていたらどこからともなくスキンケアセットを取り出し私の横に移動してきた。テーブルの上に色々なスキンケア用品を並べて手に取り始める。

「それにしても、今日はどうしたんだい?」
「……あいつに女の気配が一切なくて、逆に不安になってきた」

 私の頬を化粧水を馴染ませるために優しく触りながら聞いてきたミクリにそう返すと、彼は肩をすくめてため息をつく。なんだよお!そんなこと今更だろって思ってるのが態度に出てますよ!

「それは今までもそうだっただろう?今更じゃないか。石にしか愛情ないんじゃないかって思われている程なんだから」
「そうだけどさ……」
「それならナマエの気持ち、ダイゴに伝えたらいいじゃないか。2人は結ばれ…そうすれば君の心配もなくなるよ」
「いやいやいや!さっきも言ったけど、それができたら苦労してないってば!」

 毎度恒例のやり取りをし、ぷんすこしている間にミクリから「はい、終わったよ」って。「今日もありがとう」と言いつつ彼が入れてくれた紅茶を一口含む。口の中に香りがふわっと広がり、気分が落ち着く。飲む前からいい香りだと思ってたけど、とても美味しい。思わず口角が上がってしまう。
「スコーンも一緒にどうぞ」とミクリから差し出され、それも口へ運ぶとこれまた美味しい。ミクリやるじゃん。もしかして、ファンからの差し入れ?毎回思うけど、貴方のファンはセンスが良すぎる。いつもお世話になってます。美味しいものも知れるし、本当に凄い。

「これはファンからの差し入れじゃないよ」
「え?私口に出していた……?」
「顔に出てるよ。これはね、ダイゴから頂いたのさ」

 驚いてしまい紅茶が器官に入ってむせる。「ほら、一回紅茶を飲んで……そう。背中叩くよ?」私がむせた元凶が介護してくれる。ありがとう。で、この人今なんて言った??呼吸が整え、ミクリの方に視線を向ける。机の上に肘を置き、組んだ手の甲に顎(あご)を乗せて。そして、微笑ましい表情で私を見ていた。

「え?なんだって……?もう一度言って??」
「昨日だったかな?ダイゴがここへ来てね、ナマエにって。ガラル地方の有名なお店のだってよ」

 バチコーンと音がするようなウィンクをして、この人はなんて言って!?ダ、ダイゴが私のために!?これを!?なんで!?しかも、ガラル地方のって!?動揺しすぎて、紅茶が入っているカップを持つ手が小刻みに震える。その姿を見たミクリがくすくす笑っているけど、今それどころじゃない。

「……し、仕事で地方に行ってるとは聞いてたけど、もしかしなくてもガラル地方に行っていたの……?」
「おや、ダイゴから聞いてなかったのかい?この前の出張はガラル地方だよ。少し余裕を持っていったから、鉱山にでも篭っていたんじゃないかな。そうか……君には言ってなかったのか……」

 うーん……と少し考えるポーズをしているミクリを見て、はっとする。そういえば、出張に行く前だと思われる日になんか言われたような気がする。
「全然聞いてなかった……。もしかしたら言ってたのかもしれないけど、私が聞いてなかっただけなのかも。それにしてもダイゴは大変だね……」
「それが彼の使命なのさ。とは言っても、地方に行くと必ず君が喜ぶお土産を買ってくるよね」

 微笑みを浮かべてこちらを見るミクリはとても憎らしかった。私のことを面白がっている。そういう感情で彼が見ていないことをわかっていて、そういうことを言うミクリは意地悪だ。

「君たちが付き合うのも秒読みじゃないのかい?」
「そんなわけないでしょ……。だって、幼馴染とはいえ彼は大企業の跡取り息子。私じゃ釣り合わない……」
「それはダイゴが決めること」

 正論なんだけどさ、でもやっぱり自分の家と彼の家を比較してしまう。今までデポンのパーティーで媚びを売ってきた女性たちはダイゴの趣味に理解はなく、チャンピオンと御曹司という肩書に目がくらんでいた。私は肩書とかどうでもいいんだよね……彼が幸せであれば。そう考えると、私は彼の趣味に理解あるし優勢じゃない?なんて思うけど、そもそも彼に意識してもらえてないから論外だ。

「ダイゴに寄ってきた女性たちを想像しているのだろうけど、彼の隣には君なのさ」
「いやいやいや!私のこと、意識してもらってもいないのに!ミクリの目は節穴なの!?」
「節穴のわけないだろう」
「どう見ても!妹みたいな扱いでしょ!もうっ!」

 そうやってミクリは私のこと持ち上げてさ……。でもダイゴのことを一番わかっているのはミクリなのは確か。そう言ってくれるってことは嬉しいことはであるんだけど、やっぱり自分に自信は持てない。

「ダイゴがするナマエへの行動は少なくとも私が知る限りでは、他の女性に同じことをしていない」
「私だけ……?」
「そう。それだけは覚えておいて」

 これは私にだけの特別……なのかな?信じてもいいんだよね?だって、ミクリからの情報だもん。「はあ…まったく、自覚のない恋心は厄介なものだよ。私から見れば両想いなのに」と。ミクリがつぶやいた言葉は私には聞こえなかった。

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