《お昼の音楽の時間です。放送部ではリクエストを受付中です》 ランキングチャートで一位をとった曲をBGMに、放送部員のアナウンスを聞き流しながら廊下の人混みをすり抜けて、珍しく部室で昼食をとると言い出した蛭魔と自分の弁当箱を手に部室に向かう。 《リクエストは放送室前の箱に…》 ゴリっと。 何かを押し付けたような鈍い音が聞こえた後、暫しの沈黙。 少しばかり嫌な予感。 《Ya──Ha──!》 声の大きさにスピーカーがキャパオーバーして甲高い悲鳴を上げる。 聞き覚えのある口ぐせと声に、思わずスピーカーを見上げてその人の名を呟いた。 「何やってんの、ヒル魔……」 扉を蹴破ろうと暴れる鈍い音をBGMに、アメフトの試合の告知をやってのけた蛭魔にそう溢してしまうのも無理はないと思う。 といいますか、賊学と試合やるとか聞いてないんですけど。 「空、今週の土曜日ひまか?」 「相変わらず、急だよねぇ」 一緒にいるんだから早めに教えてくれればいいのにと、ぼやきながらお弁当の鮭をほぐす。 「昨日決まったんだよ」 「それなら、夜に一言言おうよ」 「ひまじゃねぇのかよ」 「ひまだけど…」 ならいいじゃねぇかと、ホウレン草の胡麻和えをつつく蛭魔に「なんだかなぁ」とぼやく。 「大体、お前のスケジュールくらい把握してんだよ」 まぁ、一緒に住んでるから当たり前ではあるんだけどそうもさらりと言われてしまうと、むず痒いやらなんやら。 複雑な心境だ。 「……一応確認とるのが優しさだと思ったら間違いなんだからね」 最後の反抗をと呟いた言葉に、ケッと拗ねたようにそっぽを向いた大人気ない悪魔に苦笑を一つ。 「必要な物、あったら早めによろしく」 「ん」 胡麻塩をふった俵型のおむすびを頬張りながら頷いた蛭魔は、指先についた米粒を唇でとりながら「そう言えば」と切り出した。 「レシーバーが入ったんだ、もうライスはいらねぇな……」 「ライスって──ヒル魔のパス練用に作ったあのライス君?」 「あぁ」 あれは確か、武蔵君が抜けたばかりの頃──栗田君のあの体格故に蛭魔のパス練習の相手は無理だと発覚したため、あの頃はたまに私も(蛭魔のボールをキャッチ出来たせいで)駆り出されていたりした。 元より運動部でない私が蛭魔のパス練習に最後までついていける筈もなく、仕事に支障が出る前にある提案をしたのが手作りのパス練習の“相手”だった。 そうして人が描かれた板に穴が空いただけのパスキャッチの名人ライス君は、去年まで蛭魔の相手役として随分と活躍をみせていた。 「レシーバーが入ったんだ、もう必要ねぇだろ」 蛭魔にウェットティッシュを差し出すと、細い指が一枚つまみ上げた。 「そうだね、練習はやっぱり生身相手が一番だしね」 部活の時に処刑だな、と物騒な事を言ってのけるいつもと変わらない蛭魔の横顔を見つめる。 やっぱり嬉しいんだろうなぁ。 そう思いながら、おにぎりに一口かぶりついた。 「だがしかし、死因が焼死だとは予想外だったけどね……」 校庭を火事騒ぎを見下ろしながらそう呆れたように零す。 凄まじく大破はするだろうなとは思っていたけど、これはあまりに景気が良すぎる気がする。 黒煙が上がる校庭を見下ろして、ふと大変な事を思い出した。 (炊飯ジャーのタイマー、入れ忘れて来ちゃったなぁ)