「たっだいまー!」 ハチミツレモンの大量生産に励んでいた夜、明るい声と軽い足音が台所に飛び込んで来た。 「お帰り、みどりさん」 「あれ、ヨー君来てないの?」 ストールを外しながらテーブルに置かれた白い箱に、視線が吸い寄せられる。 「うん、明日試合だから、準備とかあるし遅くなるんだって」 あまり遅いようだと来ないって言ってたなぁ、と溢せば艶の良いリップに色付く唇が尖る。 「せっかく雁屋のシュークリーム、お土産で買って来たのに〜。 それじゃ、空ちゃん2個食べていいわよ」 「やった、ありがとう」 そう言って微笑めば、嬉しそうにみどりさんは笑った。 相変わらずの美人さんである。 「みどりさん、ご飯は?」 「食べてなーい。何かある?」 「うん、今日帰ってくるって聞いてたからちゃんと」 鍋に火をかけながら、ロールキャベツのトマト煮だよと答える。 「素敵!先に着替えて来ちゃうね」 「はーい」 冷蔵庫からコールスローとデザートのイチゴを出して、皿にわけてラップをかけていたバターライスをレンジに入れる。 まな板を占領しているレモンはさっさとスライスしてしまって、タッパーにどっさり詰め込んだ。 テーブルにランチョンマットを敷いて、コールスローとイチゴ。それからフォークなどをテーブルに用意してから、一旦鍋の中身が焦げないようにかき回しているとみどりさんが戻ってきた。 「んーいいにおい」 「ロールキャベツ、もう少しで温まるから待っててね」 はーいと良い子な返事をしつつ席に着いたみどりさんは、先にいちごを一つつまみ食いしている。 チーン、とベルを鳴らしたレンジからバターライスを取り出して、熱さに負けつつラップを外すと、真ん中に乾燥パセリを散らした。 中まで温まったロールキャベツを皿にわけ、じっくり煮込んだ具沢山のトマトスープをかける。 「出来たよー」 「美味しそう!また腕上げたんじゃない、空ちゃん」 いただきます、とフォークを手に食べだしたみどりさんに、おあがりくださいと返して笑う。 「おいしー!」 「ありがとー」 「もうほんと、いつ嫁に出しても恥ずかしくない腕前〜。 でも、あんまりすぐにヨー君にとられちゃうのは癪よねぇ」 「ははは、」 蛭魔とお付き合いが始まってからこうやってからかわれる事が多々あるため、曖昧に笑って赤くなってしまった顔を隠すようにレモンだらけのタッパーに向き直った。 「でも、兄さん反対するだろうなぁ……親バカだから」 ぽつりと溢された言葉に挙げられた人物を思い苦笑を溢す。 「父さんより、海の方が騒ぎそうだけど……」 「二人とも空ちゃん大好きだもんねぇ」 「父さんの一番は母さんだよ」 レモンの上にたっぷりのハチミツを投下しながら、愛妻家の鏡のような父を思い出す。 「そう言えば、海ちゃんね。 お姉ちゃんが会いに来てくれないから、今度にうち来るーって騒いでたわよ」 「……」 「この状態に来たら、一発でバレるでしょうね」 ニヤニヤと笑うみどりさんの視線の先を辿り、思わず呻く。 懸賞で当たったダブルベッドが届いたあたりを境に、家の中に蛭魔の私物が結構増えている。 いくらみどりさんのも同じ屋根の下にいるとは言え、同じグラスに入った二本の歯ブラシはいかにも…という感じだ。 「……来週、ちょっと出掛けて来るから」 「はいはい、海ちゃんによろしくね」 難関である父より前に最難関な妹にこの事実を知らせるには、今少しばかり心の準備が足りない。