いつもよりまったりと長めに楽しんだお風呂タイムを終え、濡れた髪の水気をタオルで拭きながら秋都が水を飲もうとキッチンに向かうと、リビングにはソファの上に足を伸ばして寝転び本を読んでいる小春の姿があった。 「コハル先輩、お風呂お先しましたよ〜」 「んー」 返って来た生返事に随分と真剣に読んでるなぁと、本の内容が気になった秋都はコップに注いだ水を一気に飲み干すともう一杯水を注いだそれを手に小春に歩み寄る。 近づく気配に気付いて小春はちらりとこちらを見たが、またすぐに視線を本に戻してしまった。 ソファの背もたれ側から首を伸ばして本の表紙を覗き込んだ秋都は「ほほう」と関心した声を上げる。 「超人大全ですか」 「あぁ」 「でも、なんでまた?」 小春が読むにしては少しばかり意外なチョイスだったので、秋都がそう尋ねると小春は少し苦い顔をした。 「あんまりにも私が超人に詳しくないからって、宗さんに押し付けられたんだよ……」 宗さんのお古だと言うその本は、言われてみれば少し本の角が擦れているし発行版も古い。 おそらく新世代超人が登場するよりもかなり前の物だろう。 宗之は超人に関して案外ミーハーだというのは、夏彦が呆れがちに話していたのを以前聞いたことがある。 「まぁー…先輩ちょっと知らなすぎますもんねぇ。特に伝説超人は」 苦笑混じりの秋都の言葉に、フンと小さく鼻を鳴らして小春はぺらりとページをめくる。 めくったページはロビンマスクの紹介ページだった。 小春と一緒に覗きこんだ紙面に、顔写真とともに掲載された経歴を指で指しながら秋都は言う。 「この人がケビンマスクのお父さんですよ」 「へぇ……彼の父親も超人なのか」 「はい!万太郎くんのお父さんと並んで、すごい強い超人なんですよ**」 そうなのか、と感心したように呟く小春は伝説超人が表舞台から去ってからの産まれである上に、5歳から15歳からイタリアで暮らしていたせいか、それともその前職故か超人の事にはあり得ないくらい疎い。 名前は知っていても顔がわからないとか、その経歴がわからないとか、話していてびっくりするくらい知らないのだ。 それでも今になって超人の事を知ろうとしているのは、さてどんな心境の変化があったのだろうか。 ソファの背もたれに肘をついて寄りかかった秋都のにやつく表情に気付いて、小春は片眉を器用に跳ね上げると「湯冷めするぞ」小言を零す。 「はぁい」と笑みを隠さないまま返事をして秋都は立ち上がった。 「それじゃあ、おやすみなさい。 真剣に読むのもいいですけど、明日も仕事ですからほどほどにしてくださいね〜」 「あぁ、わかってるよ。おやすみ、秋都」 ぐいっと水を飲み干してコップを片付けると秋都は二階の自室に向かう。 階段を上がって行く静かな足を音を聞きながら、リビングに一人残った小春がロビンマスクのプロフィール欄に目を通し「ふうん」と小さく呟いた。 「ケビンは、父親を早くに亡くしたからグレてたのか…?」 そう独り言のように呟いてもう一枚めくったページには、宇宙超人タッグトーナメントの優勝セレモニーで起きた“悲劇”について書かれていた──それはロビンマスク《死亡》の10日前のことだった。 部屋に戻って濡れた髪を拭きながら、秋都はベッドの上に放り出したままのスマホに手を伸ばす。 画面を開いてみると着信のお知らせが2件もあった。 誰からだろうかと履歴を開いて、その相手に「うわっ」と思わず自分の失敗に呻く。 2件ともジェイドから、長風呂の最中に電話が来ていた。 即座にリダイアルを押してベッドに腰を下ろす。 そわそわと繋がるのを待ちながら、秋都はもうイベントが終わったのかなぁと考える。 仕事があって残念ながら行くことは叶わなかったが、今日は日本武道館でこの一年活躍した超人達を表彰する《宇宙超人大顕彰授与式》が開催されていた。 仕事が終わってから事務所と家でTVをつけてみたものの、もう時間帯が遅かったのかどこのニュースでもその話題は取り上げられておらず。スマホで見たニュースでも大した事が内容が書かれていなかったため残念度がかなり増していた。 数コール鳴らしても繋がらなかった電話に、 秋都は諦めて呼び出しを止める。 「何か急ぎの用事だったのかなぁ……悪い事しちゃった」 携帯を操作しメール画面を開くとジェイド宛に電話に出れなかったことを詫びてから、念のため用件をそれとなく尋ねてメールを送くっておく。 送信完了を告げたスマホを置いて秋都は小さく溜め息を吐いた。 「声聞きたかったけど、こういうのはタイミングだしね…。 仕方が無い、仕方が無い」 そう言い聞かせるように呟いてベッドから立ち上がると秋都は背伸びをしてからドライヤーを取り出す。 数ヶ月前にとある事件から交流をもつこととなったジェイドへの自分の気持ちを理解してから、お互い忙しくもあり秋都が彼に会えたのは両手で数えられる程度だと思う。 連絡はメールを何度かやり取りしていたものの、電話はそれよりも頻度が低い。 なので今回の電話逃した事が結構いたい。かなしい。 がっくりと肩を落としながらドライヤーのスイッチをいれで温風に髪をなびかせる。 髪を乾かしながらちらちらとスマホが再び鳴らないか気にしていたが、彼からの折り返し連絡はなく。 結局、秋都が眠りにつくまでに再びスマホが鳴ることはなかった。