『作品のモデルになって頂けませんか』 そう書かれた手紙が、山となったファンレターの中から発掘されたのは、消印を見たところ届いてから1ヶ月以上経った、そんなある日の事だった。 母星へと帰るキン肉マンを見送ってから、もう二週間が過ぎた。 認めたくはないが正義超人の要であった奴の不在は、次第と“和”を“個”へと戻していった。 それは友情や絆が途切れたわけではない。 ただ単に求心力を失い、元の一人の超人に戻っただけだ。 仲間達の中で早い者はもう既に日本を発っていて、つい一昨日も帰国するラーメンマンの見送りをしたばかりだった。 日本にまだ残る者も、あと数週間の内にはちりじりになっているだろう。 日本出身であるウルフマンが、淋しくなるなぁと酒の席で小さく溢していた。 出自のせいか故郷と言う感覚が他より薄かったバッファローマンは、全員を見送ってから一番最後に日本を離れる事を決めていたため、のんびりと日本での滞在用の部屋の荷物整理を行っていた。 物持ちは少ない方だと思っていたが、いつの間にか随分と増えた物を、残すものと手離すものに分類していく。 帰りに手にする荷物は、肩に背負える袋一つ分と決めていた。 既にその決まりも守れるか、少し怪しいところだ。 「おっと……こりゃあ、大変な物が出てきたな」 収納庫の隅に積み上げられた段ボール箱を持ち出して、中を覗いてからバッファローマンは思わずそう呟いた。 王位争奪戦やらなんやらの忙しさにかまけて、届いた物を片っ端から入れていた箱に未開封のファンレターが詰め込まれていた。 元よりファンレターの返事を書かない事は周知であったため、内容は返事を求めるものは今まで殆どなかったが、見ぬままに捨てるのは流石に良心が痛んだ。 「まぁ、読むだけで返事も書かねぇなんてロビンあたりが聞いたら、怖い顔するんだろうなぁ……」 紳士の国の生まれの男の顔を思い出して口の端に苦笑を滲ませながら、バッファローマン段ボールを抱え上げる。 ちょうど休憩にいい時間だ、茶請けがわりに少しずつでも読みすすめる事にして、段ボール箱をリビングへと運んだ。 古いものから読むべきかと、テーブルの上に箱をひっくり返しす。粗雑な行為に、意外と神経質なブロッケンJr.は眉を潜めるだろうなと考えながら、バッファローマンは一枚ずつ開き読み終えた物から段ボールに戻していく。 開いたファンレターは、若い女性のラブレターじみた者から、男性や子供からのヒーローを誉めそやすものまで様々だった。いつから溜め込んでいたのか覚えていないが、話題に上がる試合の懐かしさに表情を緩めながら、淹れた珈琲をほったらかしでバッファローマンはファンレターを読み続けた。 しかし、淡いレモン色の封筒の中身に目を通していると、不意に現れた思いがけない単語を見付けて目を止める。 「んん?」 読み間違えたかな、と思わず始めから読み直してしまった。 女性らしい、線の細い文字ははじめ他のファンレター同様、彼自身を褒めたり応援したりする言葉を綴っている。 しかし、後半の一文でバッファローマンの視線は再び止まった。 『作品のモデルになって頂けませんか』 「俺を……モデルに?」 余りに意外すぎたその単語に、バッファローマンは思わず声に出してそう呟く。 しかし、間違いなく手紙にはそう書かれていた。 手紙の続きには、自身がしがない彫刻家であること、そしてとある作品のモデルを探していて、是非バッファローマンにモデルになって欲しいことが書かれていた。 その下には、きちんと連絡先も書かれている。 最後まで目を通した便箋をテーブルに置くと、マグカップを持ち上げ冷めてしまった珈琲を一口飲む。 「……俺をモデルにねぇ」 再度、そう呟いてちらりと便箋の最後に書かれた連絡先を見やる。 手紙が届いてから、もう既に1ヶ月以上が経過しているため、もはや言い出した本人が覚えているか、むしろモデルに必要な作品がまだあるのかもあやしい。 バッファローマンはひょいっと便箋を摘まみ上げ、小さく口の端を歪めた。 「──ま、どっちに転んでも、日本での最後の思い出にしちゃ、面白いかもな」 思い立ったが吉日、テーブルに広げたファンレターもそのままに、バッファローマンは早速この手紙の主へと連絡を取ることにした。 部屋の荷物整理は、まだまだ終わりそうにない。