ホウボーンを出て病院へ行くまでの途中、スタンフォードはその件の彼について、前よりも幾分詳しいことを話し始めた。 「仮にその人と合わなかったとしても、私を責めたりしないでくださいよ?」 「合う合わないはこちらの勝手だし、合わなかったら別れるのはなんでもないさ、私にいわせればね」 スタンフォードの目を真っ直ぐに見詰めながら、口の端を上げて笑ってみせる。 「なにか理由があって、君はこの問題から手を引きたがっているようだね? 他にも、まだ私に何か隠しているようだ」 スタンフォードは困り顔で頭を掻いた。 「言葉じゃ説明出来ないことを、説明しろといわれちゃ弱ったなぁ」 「どういう意味だい?」 「ホームズという人は私の眼から見ると、少し科学的でありすぎる──むしろ冷血に近いくらいなんです」 そう語るスタンフォードが、人を見る目に間違いがないと知っているから、私は手を組んで彼の評価を聞くことにした。 「例えば親しい友達にだって、新発見の植物性アルカロイドをちょいと一服のませてみる、それくらいのことはやりかねない人ですね」 「随分と、過激な人なようだ」 「別に恨みでもあってやるわけじゃありませんよ。 ただ研究心が旺盛なあまりに、その毒物の反応を正確に知るためにはそれくらいのことは辞さないかもしれぬという一例です。 まぁ、あの人ならむしろ自分で飲みますね」 「なるほど」 「それほど知識の正確さに対して情熱をもっているらしいんですね」 スタンフォードの話を聞いた限り、生前の知識のせいで現代よりも先進的な知識を持つチートな私にとって、彼は随分魅力的な人物であった。 「大いにいいとおもうよ」 うっそりと笑って見せた私に、微かに呆れを含んだ視線が向けられたが華麗にスルーしてやる。 実年齢の倍の精神年齢は伊達じゃない。 ここまで来たら、もう楽しむしかない。 (人生をね) しかし、まだ私はこの時知らなかった。 この出会いが、人生の大きな起点となる事を──。