席を置く大学の研究所に政府役人だと名乗る妙齢の女性がやって来たのは、大学院に進んで3ヶ月ほど経った初夏の頃だと記憶している。 院生として古文書の修復方法について後輩達へ指導をしている最中、進路室の職員に伴われて現れたその女性は進路先について話があると言った。 「私、こういう者でございます」 応接間を借り向き合って座った相手からの名刺を「はぁ」と曖昧な返事で受け取りさっと目を通す。 そこに書かれた役職に思わず眉を顰めた。 「歴史修正対策課…ですか。本当にあったんですね」 「はい。巷では都市伝説のような扱いを受ける事が多くありますが、れっきとした公務員職です。 もしも疑わしく思うようでしたら、公務員免許も確認しますか?」 「……すみません。お願い出来ますでしょうか?」 えぇ、とイヤな顔をせずに懐から出した身分証明書を受け取り確認してから彼女へ返す。 「ありがとうございます。本物、みたいですね。失礼しました」 「いえいえ、それが普通の反応ですよ」 頭を下げると彼女は慌てたように両手を横に振って、顔を上げるように頼み込んだ。 顔を上げて再び彼女と向き直ると、「では」と口を開く。 「お話というのは“審神者”のことですか?」 「はい。今年に入ってからの健康診断で、貴方様に“資格あり”の判断が下されました」 その答えに(やっぱりね)と内心呟いて溜め息を吐く。 数年前から健康診断の項目に正式に追加された【霊力検診】。 それが今年、いつにない検査までされて大幅に時間を食った事があり「もしや」とは思っていたのだ。 (あれから数ヶ月もたっていたし、思い過ごしであって欲しかったんだけど…) “審神者”はその特殊な役目柄、望んでなれるものではない特別な公職だ。 そのため“資格あり”と判断された者は最低3年、最長60歳までの徴兵を受ける事となる。 つまり基本的に辞意は許されない。 「“審神者”候補者には、まずはじめに政府の個別面談を受けて頂かなくてはなりません。 つきましては、その日取りを決めさせて頂きたく」 「あー…それは構いませんが。 ちなみに、“審神者”には今すぐならないといけないのでしょうか?」 「いいえ、猶予はありますよ。 現状、戦況的に余裕もありますし、昔のように赤紙が来て強制徴収といのはありません。 候補者の皆様には1年の準備期間が用意されています。 “審神者”制度は最短3年の期間ですし、戻ってからの学歴を考えますと中退というのは嫌ですものね」 「それなら良かった……では、いつからというご回答は教授にも話を通してからでよろしいでしょうか?」 「はい、もちろんです。それと、もし必要でしたら私が説明の場に立ち会いますよ。 ここだけの話……職場や学校を辞めたいが為の嘘だと思われて、トラブルになることも多々ありまして……」 「なるほど。もしものときはご連絡させて頂きます」 「ご自宅には郵送で今回の事を通知させて頂いておりますので、今日明日中には届くと思います。 親御さんには後日、ご挨拶に伺いますのでその際は同席していただければ助かります」 「かしこまりました。日取りが決まり次第連絡します」 よろしくお願いしますとお互い頭を下げ合い、その場はお開きになった。 玄関で彼女を見送って、一つ息を吐き出す。 「面倒なことになったなぁ」