とある廃屋の一室──住人のいないそこは窓も蓋がれ月明かりも入らず、光源のない暗い部屋には、ボゥっと青白いノートパソコンの画面が怪しく浮き上がっている。 それを覗き込む白い顔は無表情に、その画面に写し出された内容を読み取っていた。 膝に乗せたそれを、パタンと閉じてしまえば部屋は、真っ暗闇へと転じる。 「今起きている怪事件については、知っているね?」 見えない闇の向こう側を見下ろしながら、そう静かに放たれた言葉に闇の中で大きな気配が揺らぐ。 木材で塞がれた窓のその隙間から、薄く差し込む月光の帯が、鋭い金色の瞳を有する目元を浮かび上がらせた。 「バッファローマン、ウルフマン、ウォーズマン──」 不意に、読み上げるように呟かれたのは、伝説と呼ばれる超人達の名前の数々。 「彼等が、その必殺技(フェイバリットフールド)で殺された。ってやつだろ?」 茶化したような軽口で話す口ぶりとは逆に、その鋭い視線は油断なく目の前の黒を纏う人物へと向けられている。 「そう。その事件だ」 答える冷静な言葉は、逆を言えば酷く冷酷な色合いを含むように感じられた。 「無敵の伝説超人たちが、己の必殺技で倒される。 そんな事が、有り得ると君は思うか?」 暗闇を閉じ込めたような双眸が、切れ長にすぅっと細められた。 「まぁ…“先生”達は、現役を退いて随分と経つからなぁ。 余程、強い相手であれば或いは──と、言いたいところだが、それは絶対にない」 はっきりと言い切られた言葉に、何故?と、問うような視線が向けられる。 「得意の必殺技を持っている超人が、もちろんその技をかける点でプロフェッショナルなのは当然だ」 それはひたすら繰り返された地道な訓練だけでなく、実戦で繰り出されてきた必殺技。 それは、真似事で使う者には出来ないほどであるのは間違いない。 「逆に言えば。技を何度もかけている経験によって、相手から自分の必殺技を仕掛けられた時。 そのダメージを最小限に抑えて受ける術を、知っている──それを、伝説超人達が知らないはずない!」 入れ替え戦での万太郎との試合の際、実際にそれを目の当たりにしていた事から、伝説超人がそれを出来ないはずがないと、断言出来るのだ。 しばしの間、重い沈黙が部屋を支配した後。 「それなら、スカー」 微かに闇の双眸が思惟するように伏せられた。 「この敵──いや、今回の犯人をどう思う?」 緩やかに夜の天上を目指す月に従い、窓の隙間から零れる光りの帯も移動していき、金色の双眸から下。 釣り上がった口角やリングコスチュームの下にある隆起する筋肉を浮かび上がらせる。 「そうだな……」 不敵に笑うスカーフェイスが、目前の人物を見据えていた。 「例えば、顔見知り。 ……あぁ、あんたなら先生達を油断させて、かつ簡単に叩き潰せるかもなぁ」 十分ではない月明かりが照らす部屋の暗がりに、その闇に紛れるように立つ細身のスーツから伸びる指先は、何時もとは違い黒い革手袋に覆われていた。 「なぁ──コハル先輩?」 月光の帯が照らした口元で、薄い唇が緩く弧を描いた。 (悲劇の始まり始まり)