四千年の歴史を讃える悠久の中国大陸・揚子江の辺。 沈み行く夕日の朱い日を受け、吹きすさぶ黄砂の嵐の中に、辨髪を揺らす一つのシルエットが砂嵐に霞みながらも浮かび上がる。 「確か、この辺りの筈だが……」 男はそう呟くと、鋭さを宿した糸目を細く開き、砂塵の中、己が立つこの場所を見渡した。 その顔に深く刻まれた数多くの皺は、男の高齢を顕著に示していた。 しかし、身に纏う巧夫服の下に隠された肉体は、はち切れんばかりの筋肉を纏い──彼の全盛期となんら変わる事のない闘志を現していた。 地平線へと沈む夕日が、細くその頭だけを覗かせるだけとなり、夜の帳を落とし始めた夕闇の中、ふと男はその微かな夕日を見上げ、笑った。 「フン──それで後ろを取ったつもりか? 舐められたものだな、私も」 そう、男の背後に立つ影に向かって言い放つと、懐から取り出した文を影に向かって放り投げた。 「私にこんなモノを送り付けた事。後悔する事になるぞ」 折り畳まれたその文は砂の上に落ち、強い風で煽られハラハラとめくられていく。 ラーメンマンに告ぐ! 本日の黄昏時 “砂時計”にて 貴殿を弑し奉る 墨痕鮮やかにそこに書かれた内容は、男──伝説超人・ラーメンマンへの果たし状と言うより、むしろ殺害予告に近いものであった。 一陣の強い風が吹き、夕陽が地平線に没したその瞬間。空に巻き上げられた黄砂が、頭上から激しく降り注ぎ始めた。この地が、砂時計と呼ばれる所以の自然現象である。 視界を奪うような激しい石つぶてを全身に受ける二人の姿は、もはや黒いシルエットでしか判断出来ない。 視界を奪われ敵と対峙しようと、ラーメンマンに怯む様子はない。 「此処を、闘いの地に選んだのは誉めてやろう。 だが、闘龍極意書に曰く、“気配は、視力に勝る”!」 そう言い放った刹那、ラーメンマンは背後の影に向かって跳んだ。 「竜巻旋風脚!」 巧夫靴の切っ先鋭い爪先が、背後の敵の顔面にヒットする──筈であった。 だが、ラーメンマンのキックは虚しく空を切り、どうっとその場に倒れ込み砂を噛む事になった。 何故と、ラーメンマンは額に流れる汗を感じながら思った。 背後に立った闘気を読み取り放った蹴りは、確実に敵の顔面に命中していた筈なのだ。 そう、今までは。 ラーメンマンの脳裏に、長らく感じた事のない感覚が、ふと過ぎった。 それは、“恐怖”と呼ぶ感情に近い。 久しい闘いに、歓喜に震えているわけではない。震える体を無理に起こし、ラーメンマンは闘気を頼りに敵を見上げた。 見えぬ影が、薄く笑った気がした。