ダンブルドア先生の提案を拒めないのは、ご恩もあっての事であるのが一番だが。 あの人の、口車に乗せられた感も否めない。 そうして、あれよこれよという間に、マリーは“闇の魔術に対する防衛術”の教授になることになった。 前任のクィレル教授は、休み明け人が変わったような神経衰弱に、マダム・ポンフリーらに聖マンゴ病院への推薦状を持たされ、学校から追い出されたようである。 哀れではあるが、それから病院にも行かず行方知れずになっているあたり、疚しい事でもあったのだろうとだけは思った。 教授職は案外面白いもので、闇の魔術と戦っていた経験を生かしての授業はなかなか生徒に受けがよくそこそこ楽しくやっているのだが。 問題があるとすれば──その教科につきたい同期生から何やら視線を感じる事だろうか。 鋭いやら冷たいやらの視線ではないのが救いだが正直、見られ過ぎていてなんだか穴が空きそうだ。 「いやはや……恨まれているのかな、やっぱり」 「マリー先生?」 小さな模型に《言霊》を吹き込んだドラゴンを卓上に乗せ、生徒達に生態の話と逃げ延びる為の説明をした後に、模型のドラゴンを生徒達と遊ばせながらぽつりと呟いた言葉に、一番後ろにいたハーマイオニーが──一番前で観察していた彼女は、終わってすぐ他の生徒の為に場所を開けたのだろう──振り返った。 口に出ていたか、と苦く唇を歪めながらなんでもないよと誤魔化す。 「スネイプ教授の事ですか?」 「……」 「マリー先生を恨むとしたら、その人ぐらいしかいないでしょ?」 ゆるりと笑う少女に在りし日の友人の記憶が被る──リリーもこうやって人の心情を読んでは優しげに笑っていた。 「……うん、まぁ、そうだね」 「でも、スネイプ教授が本当にマリー先生を恨むと思ってるんですか?」 そう思っているが、流石に生徒にそれを言うわけにはいかず沈黙で返す。 「あれって、ヤキモチかなんかじゃないですか」 「………は?」 放たれた単語にひどく間抜けな声が漏れた。 見開いた隻眼をハーマイオニーは困ったような呆れたような表情で見上げている。 「マリー先生、恨まれてると思ってるから避けてるでしょ。 だから、生徒ばっかりに構ってるのが寂しいんですよ、教授は」 「セ、スネイプ教授はそんな人だろうか?」 「同級生より、私がお詳しいと思ってるんですか?」 「…………」 ぴしゃりと言い返されて口をつぐむ。 「今日は金曜日何ですから、ゆっくりとお二人で話し合ってみたらどうですか」 「あー……考えてみます」 「話し合ってきなさい」 「はい……」 ハーマイオニーの叱りつけるような口調にマリーは苦笑して頷く。 その時、授業終了を知らせるベルが鳴りマリーは手を叩いて生徒の視線を集めた。 「今日はおしまい、課題はさっき言ったものをきちんと月曜日までに提出してくれ」 はーいと、元気な返事をした生徒達は荷物を纏め始める──少々急ぎ足なのは昼食がまっているからだろう。 いつもは抜いてしまいがちの昼食だが、先程の言葉をさっさと実行してしまおうと、その流れに乗って大広間へと向かう。 途中、不思議そうな視線や驚いた声をかけられたが、普段昼食を摂らないマリーが大広間に行くことが一様に意外だったようだ。 ほとんどの生徒が席につく大広間に入れば、今度は先に昼食をとっていた教員達からも驚いたような表情を向けられた──なんだか、珍獣の新しい生態を見つけたような反応だなとマリーはしみじみ思いながら。 マクゴナガルとスネイプの間の自分の席に座る。 「珍しいな、お前が昼に此処に来るのは」 隣から低く呟かれた声に視線をやれば、黒い視線と目があった。 「ホグワーツに戻ってから、初めてだったかな」 「体に悪いぞ」 「君の夜更かしも、なかなかだと思うよ」 目の前の皿からミートパイをつまみ上げ、小さく口にいれながら答えたマリーに、スネイプは呆れたように一つ溜め息をついた。 「──正直、昼食をとりに此処に来たわけじゃないんだけどね」 「……何?」 「此処にいると思って、君が」 ガシャンと盛大な陶器の音に、生徒と教員の視線がスネイプに集まる。 彼が持っていたティーカップはスープ皿に埋没していた。 「話が、したいんだ──けど、それを着替えてからの方がいいかもね」 紅茶からスープからシミになると苦笑するマリーに、スネイプは見開いた瞳のままほぼ反射的に頷いていた。 END 「ねぇ……スネイプのまわりに花が見えるんだけど」 「ダンブルドアも悪趣味な魔法使うよな」 「幸せなのよ、放って置きなさい」